水の中は息が続きません。
では、本編どぞ。
(アリア……!!)
アベルはアリアの身体を捉まえ、彼女の足元を確認する。
アリアの足は完全に岩の間にはまり込んでおり、簡単に外せそうになかった。
(っ、息が……! アリアごめん、待っててね……!)
アベルは息苦しくなり一度水面に上がると、大きく息を吸い込み再びアリアの元へ。
(……とりあえず空気を……)
……意識のないアリアの元へ戻ったアベルは彼女に息を吹き込む。
ところがアリアに分け与えた空気は彼女の口元から漏れ、残念ながら気泡が上昇していった。
(っ……アリア……? 嘘だよね……?)
アリアは息をしていない……。
(っ……くそっ……! そんなことあってたまるか……!)
アベルはアリアの足元に手を
水中で呪文を使ったことはないが、多少岩を砕くくらいならできるかも知れない。
アリアの足を切ったりしないように、細心の注意を払いながらアベルは魔力を集中させ、言い放つ。
「
まったく上手く発声できなかったが、アベルの手から小さな風の刃が放たれ、アリアの足元、岩の一部だけを破壊した。
呪文の威力としてはかなり小さめだが、発動しただけでもありがたい。
アベルの崩した岩からアリアの足を少し捻ると、引っ掛かっていた足は解放され、彼女の身体は自由を得る。
(よしっ……!)
アベルは即座にアリアを抱え、岩を蹴り上昇。
彼女を岸に引き上げた。
「はぁっ、はぁっ、アリアッ!!」
アリアを岸に上げ寝かせ、アベルは彼女の頬を叩く。
……だがアリアから反応はなかった。
「っ、先ずは呼吸……!」
アリアの口元に耳を近付け、息をしているか確認を取るも、呼吸をしていない。
直視したくない現実にアベルの目の奥が痛んでくるが、歯を食いしばり今度は彼女の心臓の音を確かめる。
…………。…………。…………。
アリアの胸に当てたアベルの耳にはなにも聞こえてこなかった。
「っ……!(人工呼吸を……!)」
アベルは人工呼吸をすることにし、何度か彼女に息を吹き込む。
……人工呼吸はパパスに教わったことがある。
というか、自分もしてもらったことがある。
父の唇は柔らかかった……。
『大丈夫か? アベル、では行くとしよう!』
幼いアベルが川で溺れて助けてくれた際、パパスは何でもないことのように告げ、爽やかな笑顔で歩き出したのだが、目が覚めて父のドアップの顔を見た時は固まった。
父の唇はしっとり濡れて……
今思えば、ファーストキスは父ではないか……?
いや……あれはノーカンだ。
ファーストキスはアリアとだ。
――って、今はそんなこと思い出してる場合じゃない……!
アベルはパパスとのほろ苦い思い出を記憶の端に追いやる。
……そうしてアリアに人工呼吸を続けた。
◇
◇
◇
「ケホッ……! カハッ……!」
しばらくしてアベルの人工呼吸が功を奏し、アリアの口から大量の水が溢れ出す。
意識はまだないみたいだが、息を吹き返したようだ……。
「……ほっ、……よかった……」
アベルは再びアリアの胸に耳を当て心音を確認してみる。
……止まっていた彼女の脈が戻っていた。
胸が上下に規則正しく動き、呼吸しているのがわかる。
アリアが生きていることに ほっと胸を撫で下ろしたアベルだったが、すぐに別の問題を思い出した。
「……はぁ……、こうしちゃいられない……」
アベルは【せいすい】を【ふくろ】から取り出し自分の周りに振り撒くと、アリアを抱き上げ、すぐにその場を移動する。
……魔物がやって来る前に暖をとらねば。
アリアは息を吹き返したが身体は氷のように冷たかった。
このフロアが最下層なのだろうか。
周りが超巨大な湖に囲まれかなり気温が低い、身震いしそうなくらいだ。
このままこんな場所で夜を明かすわけにはいかない。
……乾いた場所を探し求め、アベルは近くの通路を進んで行く。
洞窟内部の記憶まではないため、今は魔物と遭遇することだけに注意を払い歩みを進めると下り階段が見えてきた。
「……下か……ここよりはましかな……」
アベルは冷たいずぶ濡れのアリアを抱えながら階段を下りて行く。
……階段を下りた先にはまた下り階段があり、下の階へと続いていた。
ここで暖を取ってもいいが、どう見ても通路だ。
通路は魔物が通る危険性がある。
アベルは階段を下り、下のフロアで暖を取ることにした。
◇
「さっきの場所よりはいいか……」
階段を下りたアベルだったが、そのフロアの奥にも地底湖が広がっていた。
ただ、このフロアには滝が無いせいか、滝風の冷気が流れてくることがなく先ほどの場所よりも寒く感じない。
本当はもっといい場所があればそこが良かったのだが、アリアの身体のことを考えるとそう長く移動は出来ない。
アベルはアリアを岩場の陰に寝かせ、暖を取るための準備をすることにした。
「……アリア、すぐ温まるからね」
通路の邪魔にならないよう、【せいすい】を辺りに散布し焚き火を用意する。
今アリアの意識はないため【メラ】が使えないが、火起こしくらいはアベルにもできる。
アベルはどうにかこうにかで火を起こし、焚き火を作った。
「……はぁ……火を起こすって結構大変なんだな……」
――いつもアリアに点けてもらってたもんな……。
傍に横たわるアリアの顔を眺め、アベルはいつも彼女に救われているなと目を細めた……のも束の間――。
「っ……! アリア!?」
アベルが目にしたアリアの顔は普段よりも青白く、身体に触れると氷のように冷たかった。
「……せっかく火を点けたのにこれじゃ……! アリアごめん、あとで殴ってくれていいから……」
アベルは地面に腰を下ろし、アリアを抱き上げ自己の
アリアのマントは特殊なのか乾いていたが、中の服は濡れて肌に張り付き透けていた。
中の下着……今日は薄桃色のフリルの上下……がはっきり見えてしまっている。
マントを脱がせると、滝に落ちた際に怪我をしたのだろうか、上腕に少量の出血があったためアベルは回復させておいた。
このままでは濡れた服に体温を奪われ続けてしまう。
冷たい身体を早く温めるには……。
「…………ごめん、本当ごめん。別にいやらしい気持ちとかそういうのは、本当、無いから」
――少しだけしか……ないからね……!
……アベルもずぶ濡れのままである。
重くなったターバンとマント、それに服も脱ぎ去り、それを近くの岩の上に預け、アリアの外したマントを二人で羽織った。
アリアのマントは伸縮性があり、丈はアリアサイズで短めだが二人で包まっても問題ない。
保温性に優れているのだろうか。羽織っただけなのにほんのりと温かい気がした。
「……アリアの身体冷たいな……」
アベルの体温はかなり戻っているのにも関わらず、アリアの身体は冷たいまま。
生きているのが不思議なほどの冷たさだ。
さすがのアベルも意識のない彼女に手を出そうという気は起きず、黙って彼女を抱きしめる。
身体を温めるには人肌が手っ取り早いだろう。
……アリアの体温は中々上がらなかったが、焚き火も手伝ってかアベルが抱きしめていると徐々に温かさを取り戻していった。
水中バギマ……、呪文は気合です気合。
威力は10分の1くらいを想定。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!