ちゃんとトドメを刺さないと。
では、本編どぞ。
“プスッ……、シュー……、プスッ……、シュー……”
アベル達の背後からガス漏れの音が規則正しく聞こえ、アベル達は音に振り返る。
仰向けに倒れる【ギガガスダンゴ】が小さな手の指を、誰かを呼ぶように動かしていた。
「っ、まだ……倒しきれてなかったか……」
立ち上がられてまた【もうどくのきり】を吐かれでもしたら たまったものではない。
アベルはアリアも気になるが踵を返し、先に【ギガガスダンゴ】に
「ぅっ……」
……踵を返したアベルの後ろで、アリアの呻き声が聞こえる。
「アベルっ、動いちゃダメよ!」
「えっ」
ビアンカの声にアベルは立ち止まり、嫌な予感と共に恐る恐るアリアに振り返った。
「っ、なにを……!」
アベルの目に映ったアリアの首には【キラーピアス】の先が僅かだが刺さっている。
……アベルは眉を瞬時に怒らせ憤怒の目を【ベホマスライム】に向けた。
すると【ベホマスライム】がアベルの瞳に怯み、アリアの首から【キラーピアス】を少し遠ざける。
「っ、だ、だいじょうぶだよアベル……、ちょっとチクっとしただけ……! ね? ベホマン?」
「シャララ~! シャララ~!」
アベルの険しい視線を受け、アリアは首から血を流しながら【ベホマスライム】に話し掛ける。
【ベホマスライム】の名前は【ベホマン】というらしい……。
ベホマンはアリアに必死でなにか訴えかけていた。
「はぁ……アレを回復をする……の……? ……ねえ……はぁ、……あのニクダンゴ倒したら、君は……自由なんだよ……?」
「シャララ~……」
アリアは仰向けで倒れている【ギガガスダンゴ】を ちらりと見やり、再びベホマンに視線を戻す。
……説得でもしているのだろうか。
アリアの話にベホマンが思い迷うように彼女を見上げる。
アリアはぐったりした様子ながらも必死に言葉を紡いでいた。
「迷って……るの……? なら、……はぁ……また逃げちゃえばいいんだよ。……嫌な場所からは……全力で逃げていい。逃げるのは……悪いことじゃ……なぃから…………」
……ベホマンに語り掛けている最中、アリアが突然ガクンと項垂れ意識を失ってしまう……。
ベホマンは一瞬驚いたが、意識を失ったアリアの身体を支えた。
「「アリアっ!!」」「がうぅっっ!!」
アベル達も驚きに声を上げ、アベル、ビアンカに至っては顔が真っ青である。
……まさか死……?
アベルは居ても立っても居られず走り出していた。
ベホマンは既に【キラーピアス】を手放し、アリアの身体を支えている。
あの【キラーピアス】は恐らくアリアのものだったのだろう。
……彼女の普段腰に掛けている鞄が口を開けたままだ。
「シャララ~!」
アベルの手がアリアに伸ばされもう少しで彼女に触れようとする、その瞬間――。
意識のないアリア、彼女の身体がベホマンによって宙に浮きあがり、ベホマンが逃亡を図る。
「待てっ!!」
「アベルっ!!」
ベホマンはアリアを
ビアンカがアベルに声を掛ける中、アベルも後を追って行った。
「がぅ!」
「え?」
ビアンカも走り出そうとしたが、プックルがそれを止める。
「グルルルル……」
「……プックル……?」
ビアンカを引き留めたプックルは倒れている【ギガガスダンゴ】を警戒するように牙を剥いていた。
……【ギガガスダンゴ】は目を閉じてはいるものの、相変わらず規則的なガス漏れを起こしており、ずいぶんと萎んだ大きな腹が上下に動いている。
このまま放っておいたら勝手に死ぬかもしれないし、自然回復するかもしれない。
ベホマンは【ベホマ】を唱えて行かなかったが、いつ戻って来てもおかしくはない。
「……わかったわ。私達でトドメを刺しましょう」
――アベルこっちは任せて、アリアを頼んだわよ……。
ビアンカはアベルの向かった出入口へ視線を送ると、プックルと共に倒れた【ギガガスダンゴ】に
◇
……【水のリング】があったフロアから出てすぐ、アベルは通路の左右を確認し、アリアを抱えるベホマンをさがした。
目の前にはアベルとアリアが落ちた滝が流れており、視界を遮られていてよく見えない。
……通路は右と左に別れている、どちらに行くべきか。
アベルは迷ったが先ほど歩いて来た滝壺がよく見える右に一度進み、辺りを見渡した。
だが、アリアの姿は見つけられなかった。
「……アリアーーっっ!!」
アベルが大声を張り上げても、滝の轟音に掻き消されてしまう。
――まだそんなに時間は経っていない、近くにいるはず……!
……ベホマンの足取りは然程早くはなかった。
アベルが戦いで疲弊していなければ追い付けたかもしれない速さだ。
プックルならあっという間に追い付いただろう。
プックルが来てくれなかったことには ちょっとがっかりしたアベルだったが、プックルはプックルでなにか考えがあったのかもしれない。
……今、プックルのことはいい。それより今はアリアをさがさなければ。
アベルは視界の開けた先にアリアはいない気がして、滝まで戻ることにした。
【水のリング】のフロア前に戻って来たアベルは、その奥、先ほど1200ゴールドが入った宝箱があった側へと向かう。
「アリアーーっっ!!」
アベルの叫びはまたも滝の音で消えるが、宝箱の奥の岩陰でなにかの影が揺れた気がした。
「っ!?」
――この奥にいるのか……?
アベルはまたアリアに危害を加えられる可能性を考え、口を噤む。
浅瀬を踏む水音や多少の話し声は滝の音に紛れて気付かれないだろう。
だが念のため……と、アベルは細心の注意を払い気配を感じた岩陰に近付いて行く。
手には【パパスの剣】……、もう魔力は残っていない。
【やくそう】だけならまだたくさんあるが、【やくそう】でアリアの解毒はできない。
使い続けたとしても、使った傍から体力は低下していくだろう。
「…………っ」
――なんだってアリアがこんな目に……!
……知らない魔物、知らない展開。
良いことばかりではない初めての出来事……――。
アベルは今までと違う時の流れに、いまさらながら これまで感じていた喜びよりも強い寒気を覚えた。
(僕が未来を変えようとする度、アリアに厄災が降り掛かっていないか……?)
……ふと脳裏にそんなことが過ったが、アベルは振り払うように頭を左右に振るう。
「……僕は……僕はアリアが好きなだけだ……。彼女は僕が守る……」
滝の音が掻き消す中、アベルは呟く。
……そうして岩陰のすぐ傍まで近寄ったアベルの耳に滝の音に紛れ、話し声が聞こえてきた。
「シャララ~……!」
「……ん……、だい、じょうぶ……。もう……これ以上悪くなることはないみたい。へへっ……、無事逃げられてよかったね……?」
辛そうだけどアリアの声だ……と、アベルがそっと岩陰を覗くと、アリアは乾いた岩の上に座らされている。
そのアリアを支えるようにベホマンが必死に抱きついていた。
……アベルが来たことに気付いている様子はない。
アベルはまず、彼女が生きていたことに安堵し、いつ出ようかと様子を窺いながら聞き耳を立てる。
「シャララ~……」
「……そっかぁ……、いっぱい……いじめられて来たんだね……。辛かったでしょ……。あんな……ニクダンゴにまで利用されて……」
アベルには内容がさっぱりだが、アリアはベホマンと対話中らしい。
彼女は紫色の肌のまま、ベホマンの頭を撫でながら微笑んでいた。
ビアンカ姉さんがしっかり者なので助かります。
あのまま放置してたらどうなってたんですかね……。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!