たまには拳でわからせる。
では、本編どぞ。
「シャララ~……! シャララ~……!」
アリアに慰められ、ベホマンが大粒の涙を零し泣いている……。
(……アリアはいったい何の話をしているんだ……? いじめ……? ベホマスライムが泣いてる……?)
アリアとベホマンの背後でアベルは黙って様子を見ていた。
……どうも戦いといった雰囲気ではない。
――けど、早くアリアを回復させないと……。
アベルが心配なのはアリアの
……今のところアリアが動く様子はないが、あの状態で動いたら命が危ないのは確かだ。
とはいえアリアがベホマンを抱きしめているからアベルは下手に手が出せなかった。
急に現れたアベルに逆上し、少しでも彼女の首を絞めたりしたらと思うとぞっとする。
「泣かないで……。だいじょうぶだよ……。私も……辛い経験をしたから気持ちはわかるつもり……。君はもう自由になったらいいよ」
「シャララ~……!」
……アリアは優しい声で語り掛けながらベホマンの頭を撫で続けている。
ベホマンも甘えるように彼女に縋りついているではないか……。
アリアの話を聞いて行くうちに、アベルも何となく理解が追い付いてくる。
どうやらベホマンは仲間内でいじめられ、辛い想いをしていたようだ。
【ギガガスダンゴ】と共に現れたのも不本意だった……ということなのか。
(……けど、アリアを傷付けた……)
アベルは拳を握りしめる。
戦闘の途中から姿をくらまし、すっかり逃げたと思っていたが、アリアを人質に取り、彼女を傷付けた。
だが【ギガガスダンゴ】からの援助要請は断り、アリアを攫って逃げ出した。
……今のところアリアに危害を加える様子はない。
「…………」
アベルは手にした【パパスの剣】を鞘に収めた。
「ん? ……仲間になりたいの? そっか……、
ベホマンを仲間にできるのは主人公のアベルであって、ただのバグキャラの自分ではない。
アベルがいれば、ベホマンを仲間にしてあげられるのだが、アリアは攫われ、アベルと離れてしまった。
もしかするとあれが彼との別れだったのかも――そう思うと、ずいぶんあっさりしているが、なるほどと思ってしまう自分がいる。
……【原作の意志】の力は未知数だ。
いつどういう風にアベルと別れさせられるのか、アリアには見当もつかなかった。
――アベル……【水のリング】は手に入ったかな……?
ビアンカちゃんとお幸せにね……、いや、フローラさんとかな……??
アベルがどちらと結婚するのか。知らないなら知らないでいいのかもしれないな……なんて、アリアは今は変色した紫の身体を見下ろし自嘲する。
「シャララ~……」
ベホマンが話を続ける中、諦めにも似た疲れたような声で“ふふ”とアリアが口角を上げた、その時だった。
「……一発殴っていいかな……!?」
アベルの声がアリアの頭上で聞こえる。
「っ、アベル……!?」
――あれ? さっきのでお別れだったんじゃ……?
アリアが目を見開いている間に、アベルの手はベホマンの頭を鷲掴みしていた。
「シャララ~! シャララ~!」
掴まれたベホマンの頭にアベルの指が食い込み
……アベルは憤怒の顔でアリアに必死にしがみつくベホマンを力づくで引き剥がした。
「……僕の仲間になりたいなら、僕のこの拳を受け止めればいいんだよ……」
「アベルっ(だm……)」
アリアが止めに入る前に、アベルの拳がベホマンの顔にめり込む。
アリアは驚きに目を剥いて固まった。
殴られたベホマンはその場に倒れ、浅瀬にその軟体を沈ませる。
意識を失ったベホマンの口からブクブクブクと気泡が零れていた……。
「アリア、これ薬草……一先ず回復しよう?」
「あ……ありがと……」
ベホマンを倒したアベルはアリアに【やくそう】を与え、まずは体力を回復させる。
回復してもすぐにアリアの体力は削られるだろうが、しないよりはましだ。
「……ごめん、アリア。僕もう魔力を使い切ってしまったんだ……キアリーを掛けてあげられない……。薬草はたくさんあるから今夜は洞窟で一泊して、明日リレミトで入口まで戻ろうと思う」
――今夜も洞窟内でキャンプか……、【ギガガスダンゴ】は倒したから【せいすい】でなんとかなるかな……。
アベルはアリアの頬に手を伸ばし、哀しそうに微笑む。
アリアの肌は未だに紫のままで彼女はぐったりしていた。
「アベル……、うん…………ぅぅっ……」
アリアが毒の痛みに身体を震わせる。
「アリアっ!?」
「ぅぅっ、だ、だいじょうぶ……! これくらいの痛みなら全然……っぅ……」
体内で毒が暴れているのだろう、アリアの身体がぶるぶると震え彼女は眉を顰めた。
……かなり辛そうだ。
「っ……、アリアも魔力切れなのかい……?」
「うん……、あ、でもこれ使えば……」
アベルの質問にアリアは震える右手をそっと挙げる。
薬指にはアベルからもらった
「これって……」
アベルの眉が下げられ、彼は唇を引き結ぶ。
「ぁ……やめとくね。死ぬわけじゃないし……痛みくらい我慢するよ」
――アベルが悲しむのなら……使わない方がいいよね……?
痛みなら慣れているし、少々しんどいにはしんどいが、我慢できないほどでもない。
アベルの悲し気な表情にアリアは挙げた右手を下ろした。
「いや……こんな時に指輪が崩れるのを気にする方がおかしいんだ。使っていいよアリア」
――アリアに気を遣わせてしまった……。
彼女の命の方が大事だというのに、【やくそう】を使い続ければ死ぬことはないからか、アベルは【いのりのゆびわ】が崩れ去ることが嫌で、それを顔に出してしまっていた。
アリアの命も、【いのりのゆびわ】も無事であってほしい……そう思うのは我儘なのかもしれない。
(その指輪がある限り、僕とアリアは婚約者同士だけど、それがなくなったら僕らはなんだ……?)
アリアと自分は兄妹ではなく、実は既に婚約関係にある恋人同士で、結婚するために【炎のリング】と【水のリング】がどうしても欲しかった……。
正直に話せばルドマンも納得してくれるのではなかろうか。
物的証拠があれば話もよりスムーズにいく気がするのだ。
……けれど。
――僕は今いったいなにを考えた……!? 今はアリアが早く元気になることの方が重要じゃないのか……!?
彼女が痛みに苦しんでいるというのに、我慢を強いるというのか……!?
【いのりのゆびわ】ならまた手に入るんだ、作り直せばいい。
どうせ十八になるまではサラボナに戻らないつもりでいるのだ。
……アベルは自問し、考えを改めることにした。
「でも……」
「……こうしている間も君の体力が削られてる。魔力を回復させて早くキアリーを使ってよ」
アリアの右手を取り、アベルはその手を包み込む。
昨夜滝に落ちた時もそうだったが、アリアの手は酷く冷たかった。
「……じゃ、じゃあ……」
アリアは手を組み、祈ろうとする……。
アリアを傷付けた奴は誰であろうと許さないアベルさん(17歳と∞ヶ月)。
アベル「切り刻まなかっただけでも ありがたいと思えっ!」
ベホマン「シャララ~!(親父にもぶたれたこと無いのに!!)」
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!