さて、滝の洞窟編これにて終了です!
では本編!
第五百八十三話 滝の洞窟を後にして
「ぇと……、それはアベル次第だから、私は……」
アイスブルーの瞳に真っ直ぐに見つめられたアリアは気まずさに目を泳がせた。
「あーあ。……ふふっ。これじゃアベルが可哀想。ねえ アベル。アリアはあなたと結婚する気ないみたいよ?」
『えぇっ!? そんなことないよ!! アリア! 昨日言ってくれたよね!?』
ビアンカの一言に鍋を掻き混ぜ中のアベルは手を止め声を張り上げる。
……アベルの眉は下げられ不安顔だ。
「っ……、そ、そりゃ……できるのならしたいけど……、私は大したお金もないし、勇者の盾も持ってなくって……そんな私がアベルの役に立てるかどうか……」
これ以上アベルを不安にさせたくなくて、アリアはなんとかフォローを試みた。
――私は役立たずかもしれないけど、アベルと結婚したい……できれば。
アリアが手を組み祈るように告げると、ビアンカの手はアリアの頬から離れ、今度は額に軽く手刀が入る。
「っ!?(チョップされた……!)」
「いや だから、消極的過ぎでしょ……。アリア、アベルを手に入れたいならもっと貪欲になりなさい。幸いアベルはあなたにベタ惚れなんだから。フローラさんになんか負けないで」
……呆れたようにビアンカは苦笑していた。
「っ、ビアンカちゃん……」
――ビアンカちゃんもアベルのことが好きなのに……、いいの……?
アリアの目の前の美女は自宅に泊めてくれた時、アベルを好きだと言った。
あれは自分に対する牽制のための告白だったのではと思っていたのだが、違ったのだろうか……。
……けれどアベルの前でそんなことを聞けるわけがない。
アリアはビアンカの心の傷がどれほどなのか図り兼ね、黙り込んでしまった。
「私がアベルとアリアの結婚を応援してあげる! だけど、それにはまず私の頼みを聞いてもらってからね」
「え?」
アリアの憂いを余所にビアンカが満面の笑みを浮かべる。
やけに明るい笑顔にアリアは目を丸くした。
「アベルには昨夜言ったんだけど、スパの建材が足りないのよ。一部特殊な木材を使いたくてね。それで、アベルに訊いたらあなた達の知り合いに木こりがいるって言うじゃない? 融通してもらえないかってお願いしに行って欲しいの」
「お、オルソーさんに……?」
「そっ♡ 詳しいことはアベルに話してあるわ。水のリングをサラボナに持ち帰るのが遅くなってしまうけど、先にお願いできるかしら?」
「ぁ、アベルがいいなら私は……」
木こりのオルソーに建材を融通してもらうとなると少々時間が掛かる……そこまで話してから、アリアがアベルに視線を転じると、アベルは皆の食事を皿に装って並べていた。
「僕は受けようと思う。アリア、一度山奥の村に戻ってから一緒に行こう?」
「あ……うん」
二人の話を聞いていたアベルはアリアに問い掛けてから“食事の準備ができたよ”と皆を呼ぶ。
「……ふふっ、助かるわ。じゃあ、朝食を摂ったらさっさと洞窟を出ましょう!」
……アベルの快諾にビアンカはずっと笑顔のままだ。
食事中、アリアはビアンカの笑顔に無理していないか不安になったが、彼女にそんな素振りはなく、楽しそうに話をしていて むしろアベルが時々ビアンカを見ては複雑そうに笑っているのが印象的で違和感を感じた。
「…………(アベル……、どうしたんだろう……?)」
――やっぱりアベルもビアンカちゃんのこと……?
いや……アベルは自分を選んでくれたのだから、信じよう……。
アリアは首を左右に振って、ふっと湧いた感情に蓋をする。
少し味の薄いアベルの作ったスープを食べ、顔を綻ばせた。
「……アベル、これ味が薄いわね……」
「ハハハ……、今回は塩が少なかったみたいだ」
ビアンカに指摘されアベルは頭の後ろを掻き掻き。
「ふふっ、このスープ、素材の味が生きててとってもおいしいよ? アベル、作ってくれてありがと♡」
「アリア……♡」
アリアがスープを口にしてニコニコと微笑むと、アベルの顔は緩んで鼻の下が伸びる。
「はぁ……アリアってアベルに甘いわよねえ……」
塩足そう……とビアンカは塩の入った袋から塩を一つまみ、少々追加して残りを平らげた。
……プックルも同じものを食べていたが、アベルのスープは薄い味の時はプックルに好評で、今回は当たりだと何杯もおかわりをしている(ちなみにアベルの味付けは安定しておらず塩辛い日もある)。
次の目的地も決まり、アベル達は洞窟内ではあるがまったりと朝食を楽しんだのだった。
◇
「……リレミト!」
……朝食を終えて、アベルは【リレミト】を唱える。
入口まで戻ったアベル達は結局合流出来なかったピエールと再会し、滝の洞窟を後にした。
山奥の村には【ルーラ】が使えないため船を南下させ戻る。
……【せいすい】を適宜使用し、行きのような無茶はしないことにした。
「……アベル、なんか元気ないね?」
「そんなことはっ! ……はぁ……。実は……アリアには申し訳ないけど ほんのちょっとだけね……」
操縦室で舵輪を操作するアベルにアリアはなんとなく訊ねてみる。
アベルは目を大きく見開いたが、すぐにため息を吐いてしまった。
……いったいどうしたというのだろうか。
「ん……?」
「……僕は大丈夫。ただ、なんて言うか……うん……なんでもないんだ……」
首を傾げるアリアにアベルは微笑み掛けるが、決まりが悪そうに頬を掻く。
――アリアに教えたいけど……ビアンカと約束してしまったから言えない……。
……昨夜アベルはビアンカとある約束をした。
これは自分とアリアの結婚が決まってからでないと話せないことで、ビアンカのゴーサインが出るまでは話せない。
でなければビアンカは協力してくれないというのだから、アベルは了承せざるを得なかった。
アリアに黙っておくのは心苦しいが、幼なじみたっての希望で、交換条件だから致し方なし。
ただ、アリアが誤解しないようには気を付けなければいけない。
「アベル……、やっぱりビアンカちゃんに言わない方がよかったんじゃ……」
「いや、それは言ってよかったよ!?」
不安に駆られたアリアの手をアベルは掴んで引き寄せ、全力で否定した。
――それは言ってよかったんだよ……! ビアンカは協力してくれるって言ってくれたんだから……!
でも今は理由を話してあげられないんだ……ごめんねアリア。
アベルはアリアの手に指を絡めて見下ろす。
……アリアの時もそうだったが、女の子はなぜそんなにあれもこれもと秘密にしたがるのか……アベルにはさっぱりだ。
アリアとの関係は露見してしまったが、今度はビアンカの秘密を黙っておくようにとアベルは強制されている。
アリアと結婚するためならばなんとか我慢できるが、秘密を抱えたまま いつまでもつだろうか。
ビアンカとの約束はアリアのように説得して暴露できそうもない。
「あ、そうなの……? でも、ビアンカちゃんはアベルのことが好きなのに……」
「……はは……、そう
――アリアは過去形だなんて思ってないんだなー……。
アリアが目を伏せるが、アベルは苦笑いでそれ以上なにも言えない。
……これもビアンカとの約束に含まれている。
ビアンカはアリアに嘘を吐かれていたのが相当ショックだったようで、仕返しのために黙っておいて欲しいと言っていたのだ。
結婚が決まれば全部明らかにして謝ると言っていたし、それでご破算とすればアリアの性格なら笑って許してくれるだろう。
……ちょっとアリアが可哀想な気もするが、そもそもの発端はアリアだから自業自得なのかもしれない。
真っ直ぐサラボナに戻らないところが私流……すぐ寄り道しちゃう……。
スミマセン……。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!