壁の落書きを……。
では、本編どぞー。
「光の教団か……」
「どうしようもないケチな神様を信仰する宗教ね」
アベルの呟きに便乗し、アリアの眉が寄せられる。
「ケチ!? またケチって言ってる! ははっ、アリアって光の教団のこと嫌いでしょ」
「うん、だいっきらい! ケチんぼは嫌いなの。ちょっと差をつけて味方するのは神様だって好みもあるからしょうがないとは思うけど、信者じゃなきゃ救わないなんてのはケチ過ぎるわ」
アリアの頬はぷっくり膨らみ、アベルは彼女の頬を優しく突いてやった。
プス~ッと口の中の空気が吐き出されると彼女は口を窄めている。
「ハハハ……僕はケチじゃないからね!? 欲しいものがあったら言ってね! なんでも買ってあげるから!」
――僕はアリアのためなら、毎日魔物の肉だけでも生活できるんだからね……!
浮いたお金でアリアの好きなものを買ってやりたい……! と、アベルはアリアの手を握って自分はケチではないと主張しておいた。
「ん? なにが? 私、別に欲しいものなんかないけど……?」
急にアベルに迫られ、アリアは首を傾げる。
……必要なものは全部持っている。
どうしても欲しいものができた時は自力で手に入れるから、アベルに買ってもらおう……などという発想はアリアにはない。
そもそも諦めることが多かった前世の頃の癖で、何かを欲しいと思う欲求が薄いのだ。
人から求められることが多かったから自分が何を欲しているのか、自分でもよくわかっていない。
ただ、誰かに何かをしてもらうと申し訳なく思ってしまうから、お礼の言葉と感謝の気持ちだけは忘れないようにしている。
……だがそんなアリアも決して無欲というわけではない。
欲しいもの……。
――あえて言うならアベルが欲しいけど……、恥ずかしくてそんなこと言えるわけない……。
アリアは滝の洞窟で二人で身体を温め合ったことを思い出し、ぽっと頬を紅く染めた。
アベルには「残念――お預けだよ」と言われ
普段から何度も何度もあちこちを まさぐられ続けているアリアは、あの夜を境にアベルに少しでも触れられると反応してしまう。
そう、身体がどうにかなってしまったんじゃないかと思うほどに――。
……こんな身体になってしまっているなんて……と、アベルに知られるわけにはいかない。
「……ソウデスカ……(もっと何か欲しいってねだってくれればいいのに……!)」
アリアの考えなど知る由もないアベルは残念そうに項垂れた。
「…………ふふっ♡ それじゃなんか考えておくね?」
「あっ、うん! スイーツでもいいよ!? ほら、滝の洞窟で臨時収入があったでしょ?」
「いいの!? うれしい! それじゃあ今度一緒にオラクルベリーに食べに行こっ♡」
「いいね!」
――よし、今度アリアとデートしよ……! 結婚後かな~……?
……食べ物でアリアを釣るのはもう何度目だろうか。
アリアは無駄遣いを嫌がるため 毎日は使えない禁じ手ではあるが、彼女を釣るには食べ物が一番効果的だ。
項垂れていたアベルは顔を上げて喜色満面である。
……そうして二人は階段を下って行った。
◇
階段を下りるとアベルの記憶の通り、酒場がある。
だが まだ昼間で客の姿はなく、酒場のマスターが営業の準備をしているようだ。
「お客さんすいません、酒場は夜からなんですよ」
「あ、はい、すみません」
独りで切り盛りしているのだろうか、酒場のマスターは酒の瓶の在庫を数えながら階段を下りて来たアベル達に声を掛けてくる。
……アベルは軽く会釈しておいた。
「ね、アベル」
「ん?」
「壁に落書きが……」
「え? どれどれ?」
アベルがマスターと話している間に、アリアは酒場内を見回し、壁に落書きを見つけ指差している。
部屋の最奥に壊せそうなタルを見つけたアベルはそちらが気になったが、先にアリアの言う落書きを見に行くことにした。
……壁にはこう書かれていた。
“みなさん さようなら
私は教団に入って 光の国に
いくでしょう。”
「……――光の国にいくでしょう……」
アベルはそう読み上げると唇を噛みしめる。
自分が十年もの間 労役させられたあの場所が光の国だとしたら、人々が夢見る光の国なんてものは、恐らくない。
この落書きを書いた人間は騙され連れて行かれたのだろう……。
……今頃強制労働を強いられているのではなかろうか。
「あ。ね、アベル。これを見たから さっきの戦士さんあんな話をしたのかな?」
「そうだね……。この村にも騙された人がいるんだね……」
「……無事だといいけど……」
「……ああ、無事を祈るしかない」
アリアが不安そうな顔を見せるので、アベルは彼女の頭をそっと撫でておいた。
――僕みたいな性癖に目覚めることができれば、そう悪くもないところなのかもしれないけど……。
今は随分と治まったが、一度くらいはアリアに鞭を振ってもらいたいものだ。
そしてできれば その時はバニースーツ姿だと嬉しい……。
具体的に挙げれば、ピンヒールで背中を踏み付け、ブラックアリアで罵倒し、自らを翻弄して欲しい……、などと思ったことは目の前で眉を下げるアリアには内緒だ。
……あまりに上級者過ぎるアベルの思考は、一般人には到底理解できないであろう。
「……あ、アリアあのさ……」
良からぬ妄想に蓋をして、アベルは頭を左右に振り振り酒場の奥にあるタルへと視線を投げる。
さっきから気になって仕方ないのだ。
――もう、ね! 投げられそうなタルがあったら気になって仕方ないんだよね!
そわそわするアベルに気付いたのか、アリアもアベルの視線の先、タルへ目を向けると“ふっ”と笑みを浮かべた。
「……いってらっしゃい♡ ここで待ってるよ」
「ありがとうっ!」
アリアが手の平を上に向けて「どうぞ」と目細め頷いてくれるので、アベルは独りタルへと急いでさっさと持ち上げ振り下ろす。
……タルは二つあったため、どちらも割った。
内一つは空だったが、もう一つには【ちいさなメダル】が入っていた。
アベルはアリアが落書きの前で見守る中、さっさとメダル王へと今しがた手に入れた【ちいさなメダル】を送る。
そうしてアリアの元に戻って来ると――。
「お待たせ! 小さなメダルが入ってたよ! じゃあ、温泉に行こっか!」
「ふふふっ♡ うんっ」
すっきりしたようなアベルの顔にアリアは優しく微笑み、頷く。
アベルはアリアを引き連れ、今度こそ温泉に向かった――。
タルとツボは忘れず割ります。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!