足湯だけでも。
では、本編どぞ。
◇
……温泉にやって来たアベル達は今日は足湯だけ……ということで、丁度良い高さの岩に腰掛け足を湯に浸した。
同行していたプックルは温泉に入りたかったらしく、濡れることも厭わずざぶざぶと独りで温泉に身体を沈めて「フニャ~……」と脱力の声。
「アリア、滑り落ちないように足元気を付けてね」
「うん。はぁ~……温か~い。足だけでもほぐれるねえ~(プックルも温泉好きなのねっ♡)」
足を湯に浸したアリアの顔がうっとりと細められている。
近くで湯に浸かっているプックルも魂が抜かれたようにほっこり中だ。
「ははっ、アリアって温泉好きだよね。すっごい幸せそうな顔してるよ?」
「うん、しあわせ~♪ 連れて来てくれて ありがとうアベル♡」
アベルが指摘すると、アリアは緊張感のないふやけた顔を見せてお礼を告げていた。
「そんなに喜んでくれるならいつでも連れて来るよ」
――前回村に来た時、温泉に入ったって言ってたけど……それでもこんなに 喜んでくれるんだ……。
自分だけに見せてくれる緊張感のないアリアの笑顔に、アベルも釣られたように目尻が下がる。
「ふふっ、スパがオープンしたらいっぱい来なきゃだね♡」
「そうだね。ルーラが使えないのが辛いところだけど、聖水を使えば魔物に襲われることもないし、旅の途中でたまに来ることにしようか」
「わあっ、うれしい♡ アベル大好きっ♡」
「あっ……アリアは本当、上手だよねー……(そんなこと言われたらまた連れて来たくなるじゃないか……)」
「ん? なにが?」
……プックルが湯に浸かる様子を眺めながら、アベルとアリアは他愛のない会話を楽しんだ。
その内アベルは隣同士で靴を脱ぎ、湯に浸した互いの脚を見下ろす。
……男女の差とでもいうのだろう。自分の脚は筋肉質で太く硬く、不意に触れたアリアの脚は細く柔らかい。
自分の脚は色も浅黒く、小さな切り傷が所々あるが、アリアの脚は傷一つなく真っ白だ。
触り心地も自分のものとは全く異なり、彼女の肌は滑らかでずっと触っていたくなる。
「…………」
――なんでこんなに触りたくなるんだろう……。
ミニスカートのために覗くアリアの白い膝頭に手が伸びそうになり、アベルは自制する。
うずうずとした開いた手を握り締め、欲求をなんとか抑えるも自分と全く違う身体を持つ彼女が愛おしくて堪らなかった。
……アリアの方ばかり見ていると、触りたくて仕方ない。
公共の場で彼女にイタズラするわけにはいかないアベルは、アリアから視線を別の場所へと投げた。
すると、ふと――。
温泉に浸かっている老爺と目が合う。
「ほっほっほ。あんたもピチピチギャルを見に来たんじゃろう。しかし あんまりジロジロと見ては いかんぞ。せっかくのギャルが逃げていってしまうでな」
老爺はニヤニヤと笑ってから、その目線をアベルから別の場所へと移した。
……老爺のその視線の先では若い女性が二人……、温泉に浸かっている。
「ぁ」
「……ん?」
老爺に倣いアベルが女性二人に目を向けると、アリアはプックルから目を離しアベルを見やる。
……なんとはなしに向けた視線の先で、アベルは女性二人と目が合ってしまっていた。
「あなたはエッチな気持ちで温泉に入りに来たんでしょう?」
若い女性の一人がぷくっと頬を膨らまし、なぜか上目遣いでアベルに話しかけて来る。
アリアも若い女性の声で女性達に気が付き、目を瞬かせた。
「ぁ、えっと……僕は……」
「……アベルそうなの? まぁ、混浴だし……?」
――私と入りたいって言ってたし……下心はあるよね……。
男の人ならそういう気持ちがあってもしょうがないよね……なんてアリアが呟くとアベルはアリアに視線を戻し、何か言いたげに口をパクパクと動かす。
「っ……ぁっ……や、ちがっ、あ……、いや……そうかも……」
――アリアと入るならそうに決まってるけどっ、でも今は違うっていうか……たまたまっていうか……けど僕も男だからね……!
……アベルは男である。
本能に逆らうことなどできようものか。
まじまじとは見ないが、混浴なら見る。
合法的に見られる機会があるのなら、見るに決まっている。
湯に浸かっているのがもしアリアだったとしたら、ずっと目で追ってしまう自信だってある。
……これは男の
(それがエッチな気持ちかどうかと問われたら……!)
――エッチな気持ちがないわけないじゃないか! そんなものラッキースケベってやつだよ!
……女性の言うエッチな気持ちで入りに来たわけではないが、そんな気持ちがないとは言い切れず、正直者のアベルはアリアに嘘は付けないので素直に肯定していた。
だが、今は正直に言わない方がよかったような気がする……。
『いやーん。エッチ!』
アベルの答えに訊ねた女性が嬉しそうな声で微笑み掛けてくる。
アベルに見られた女性達はさっきからモジモジ。
……アベルをチラ見しているではないか。
「ん? そうかもって……どういう…………」
アリアの眉が寄せられ、彼女は黙り込む。
――アベルはあのお姉さん二人の はだかを見に来たってこと……!?
他の世界の記憶があると言っていたし、この温泉のこともよく知っているのね……と、そう把握したアリアは「ふーん……」とアベルにはわからないように一瞬冷ややかに目を伏せた。
(はだかなら私のを見せてあげるのに……!)
……アベルの発言は誤解を招いたようだ……。
「……アリア?」
「……なあに?」
突如黙り込んだアリアに声を掛けると、彼女は不自然なくらいに目を細めて微笑む。
「っ……なんか……怒ってる……?」
――あちゃ~……正直に言ったのはまずかったかーー……!!
訊かれたから答えただけなんだけど……と、アベルは不機嫌なアリアを恐る恐る窺った。
「別に? ふふっ。あの二人、さっきからアベルのこと見てるみたいだよ?」
「え?」
「……アベルってモテるよねえ~……はぁ、私もう上がろうかな」
「えっ、もう? まだそんなに浸かってないよね?」
アリアが湯に浸けていた紅くなった足を上げ 立ち上がろうとするので、アベルは彼女の手首を掴み引き留める。
「うん、アベルはまだゆっくりしてていいよ? 私 先に上がってビアンカちゃんを待ってるから」
「いや、アリアが上がるなら僕も上がる。ちょっと待って、今タオルで拭いてあげるよ」
自らの手首を掴むアベルの手をアリアはそっと放させると、アベルは湯の中へと“ドボン”。
湯の中に下り立ち、服の裾が多少濡れても気にすることなく【ふくろ】からタオルを取り出した。
そして――。
「えっ、あっ……アベルっ!?」
アベルが驚きの声を発するアリアの、紅く濡れた足先をタオルでそっと優しく包み込む。
『キャア~♡♡♡ 彼氏やっさし~~♡ 拭いてあげてる~♡♡』
『いいな~♡』
アベルの背後で女性二人が黄色い声を上げた。
……優しい手付きで足を拭いてくれるアベルに、アリアの頬が真っ赤に染まっていく……。
「っ……、アベルったら……」
「……ん? 靴履ける? 履かせようか?」
「っ……ぃゃ……、もぉ……恥ずかしいよ……」
「なにが? たまには僕にもアリアのお世話をさせてよ」
「っ……」
アリアの足を拭いているアベルの口角は上がり、嬉しそうだ。
片足ずつ丁寧に水分を拭き取るとアベルはアリアに靴を履かせてやった。
「はい、これでオッケー! 僕もすぐ上がるからちょっと待っててね」
よっ、と……と。
アベルは再び岩に腰掛けて、今度は自分の足を拭き始める。
「あ、今度は私が拭こうか?」
「いや、いいよ。自分のことは自分でやるから」
「そ、そう?」
拭いてもらったお返しに拭いてあげようと思ったアリアだったが、断られてしまった。
してもらった分はお返ししないと気が済まない彼女は、ソワソワした気持ちでアベルが足を拭き終え、靴を履くのを待つ。
靴下替わりの布を巻くのはもう慣れているのか「上手に巻くのね……」なんて感心していた。
……そんな身支度を整えながら、アベルが口を開く。
「ねえアリア。君はすぐなんでもかんでも自分でやろうとするから、たまには僕に甘えてよ。君に世話を焼くの結構楽しいんだ」
「え……ありがとう……。私、男の人に足を拭いてもらったのなんて初めて……」
「あっ! ……どういたしましてっ! ビアンカが来るまで中で待ってようか!」
「うんっ!」
“アリアの初めていただきました!”とばかりにアベルは靴を履き終えると満面の笑みを浮かべてアリアの手を取り、屋内へと移動した。
……そう、同行中のプックルを置いて……。
男女共に好きな子には世話焼いちゃいますよね!
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!