木こりのオルソーの出番がまたあった。
では、本編どぞ。
……アベル達はオルソーの元へ辿り着き、木材の交渉をした。
交渉自体はビアンカの持ち込んだ料理でスムーズにいったが、ビアンカが必要な木材はオルソーのところに今は在庫がないそうで、しばらく掛かるから待って欲しいとのことだった。
東の大陸では比較的手に入りやすい樹なのだが、西の大陸では手に入りにくい種類らしく、近くに生えていないのだそうだ。
船が出ていれば容易く手に入るものだが、魔物達の激増に伴い商船も今は航行しておらず、輸入ができない。
アベルの【ルーラ】で仕入れることもできなくはないが、今は東の大陸でも昨今の天変地異によって木材は品薄状態で、頼れるのは修道院の修繕でも大活躍だったオルソーのみ。
オルソーはその樹が群生している場所を知ってはいるが、集落からは遠く離れた場所にあり、伐採するまでに時間が掛かると細かく教えてくれた。
『――というわけで、ちょーっと時間が掛かっちまうがいいかい?』
工期の遅れについてオルソーがビアンカに訊ねていたが、始めからその一部だけは遅れることはわかっていたので、工数を多目に取っているようで問題ないらしい。
オルソーの見込みでは二~三週間掛かるようだが、ビアンカはそれでも手に入るならありがたいと喜んでいた。
山奥の村まではかなりの距離があるものの、幸い、同じ西の大陸だからか陸路で何とかなるらしい。
……そんなわけで交渉は上手くいき、オルソーとビアンカは握手を交わしていたが、実はオルソーの集落に着いてすぐは勘違いされて大変だったのだ。
◇
◇
◇
……オルソーの集落に、アベルがアリアとビアンカを両脇に連れて訪れたものだから、丁度趣味の料理中、【タマゴ】をかき混ぜていたオルソーは目を剥いて――
『ア、アベル。あんた、アリアって娘がいながら……第二夫人まで……? しかもまた別嬪さんっ! ……は~……やっぱモテる男は違うなあっ! わっはっはっはっ!!』
などと口走り豪快に笑い飛ばすものだから、女性二人も苦笑い。
……気まずい空気が流れたことは言うまでもない。
はは……と苦笑した後で、アリアはビアンカの前では まだ気まずいのだろう、黙り込んで俯いていた。
『ちがっ、僕っ!』
『……こほんっ。オルソーさん、初めまして! 私は温泉で有名な山奥の村から来たビアンカと言います。実は今日はオルソーさんに折り入ってご相談があってここに来ました……!』
アベルが奥さんになるのはアリアだと言おうとしたが、アリアの様子を知ってか知らずか、ビアンカがすぐに話題を変えてくれてなんとか話は進み、オルソー手作りの【ホットケーキ】をいただきつつの交渉となった。
【ホットケーキ】は少々焦げていたが、普通に食べることができ、アベルとアリアはホッと胸を撫で下ろす。
……オルソーも一年の間に進歩、【ホットケーキ】作りを体得したらしい。
ただ、レパートリーが少なく、【ホットケーキ】ばかり食べているようで……
『飽きた』
なんて言っていた。
ちなみに、パトリシアはノアとの再会に歓喜のいななき。アベル達が交渉している間、二頭で集落を散歩しながら短い逢瀬を楽しんだようだ。
……そんなことがありながらも、アベル達は無事交渉を終え、山奥の村に戻ることにした。
山奥の村へは【ルーラ】ができないため、【ルーラ】が可能なサラボナへ先ずは移動する。
アリアが「このままサラボナに行かないの?」なんて言うので、ビアンカが「お母さんに交渉が終わったら、すぐ報告してって言われてるからごめんね」と無理やりアリアを納得させ、アベル達は船で移動し山奥の村へと戻った。
……ここまでに三日掛かっている。
アベルの誕生日はまだ来ていない。
アリアはもう年齢なんか気にしてはいないのだろうが、念のためだ。
アベルは万全を尽くし、サラボナに向かいたかった。
「じゃあ、私、今日は家に一旦戻るわね。明日の朝、宿屋の前で待っててね。置いて行っちゃイヤよ?」
……山奥の村に着いた時には夕暮れ近く。
ビアンカは一度自宅に戻り、今夜両親にオルソーのところで交わした契約の説明をするそうだ。
宿屋の前までやって来ると、アベル達から離れて
……アベル達は今夜は宿屋で一泊することにして、明日ビアンカを連れてサラボナに行くことにしている。
ビアンカはアベルの結婚を見届けるためについて来てくれるらしい。
そこでアベルがアリアと結婚できるよう、手助けをしてくれるとのことだった。
「アリア」
「ん?」
「今夜……」
「ぁっ、も、もぉっ……、わかってるよ♡ 背中流してあげるね♡」
「ぁっ、うん♡」
――温泉……って言おうと思ったけど、伝わったみたいだ……。
アベルがちらっとアリアに目を向けると、彼女は頬をぽっと赤く染めてはにかんでくれる。
約束を果たしてくれるのだ、と、アベルもアリアの笑顔に顔を綻ばせ……、ビアンカの姿が見えなくなると宿に入ることにした。
◇
「ようこそ旅の宿に。夜道を歩かれて さぞやお疲れでしょう。ひと晩56ゴールドですがお泊まりになりますか?」
宿屋の受付……爽やかイケメンに訊ねられ、アベルは無言で頷き財布からゴールドを取り出すと、カウンターテーブルに置く。
……アベルの目がなんとなく鋭い。
アリアを背後に隠しているため、青年からは見えないだろうが、警戒でもしているのだろうか。
さっきから彼女が腕横から顔を出そうとしているのを、アベルは身体を傾けたりしながら阻止していた。
「……それでは ごゆっくりお休み下さい」
アベルに睨まれた気がした青年は、なぜ睨まれたのかわからず引き攣った顔で部屋を案内してくれる。
……カウンター裏側にある階段を上がれば客室だそうで、アベル達は案内された通りに部屋へ向かうことにした。
「……アベル……? どうかしたの? なんだか怒ってるみたいね……?」
「別に……」
「……私があの人を褒めたの、まだ怒ってるの?」
「……そういうわけじゃないよ。ただ……ちょっとね。怒ってるわけじゃないんだ」
「ふぅん?」
「……僕はアリアが大事だから、これでいいんだよ」
「ん? どういうこと?」
本日泊まる部屋に続く階段を上りながら二人は話をし、部屋へと至る。
同行していたプックルは、既に
「わぁ~! いい眺め~!! ねっ、アベル。いい景色だよっ、ほら見て!」
部屋に入るなりアリアは見晴らしの良い、斜面下りに面した窓へと駆け寄り、眼下に見下ろす山の景色に瞳を輝かせる。
夕暮れ時の山々に茜が差し、少し物悲しくも感じる絵画のような風景が目に入った。
アベルもアリアの隣に並び窓の外を見渡す。
「そうだね。もうすぐ日が暮れてよく見えなくなるけど、朝になればまた見えるようになるよ。霧が出るらしいから珍しい景色が見れるかもね」
「わ~、楽しみ~♡」
「フフ、早起きしないとね」
「うんっ♡」
アベルが笑い掛けると、アリアが弾けるような笑みで返してくれる。
修道院を出てからというもの、最近ではあまり見らなかった明るい笑顔が戻ったようで、アベルの胸がきゅんと締め付けられ、また、ほっこりと癒された。
(アリアの迷いはすっかり晴れたって感じかな……?)
アベルは景色を楽しむ彼女の横顔を眺めながら目を細める。
……部屋には二台のベッドが置かれていて、内一台には一番乗りのプックルが丸くなって早々に眠り始めていた。
二人きりだからキスの一つでも……と、アベルは思ったものの、夕日が差したアリアの横顔が美しくて、しばし ぼーっと見惚れてしまう。
夕日に映えるアリアの表情は穏やかで、だが、どこか儚げにも見えて気が付けば――。
「……アリア、食事して夜中まで仮眠を取ろうか」
――なぜだろう……今、アリアが消えてしまいそうに見えた……。
……アベルはアリアの手を握っていた。
「え……あっ、そっか。うん……二人きりで入りたいものね……」
アリアの頬に夕日が照っているからかよくはわからないが、赤みが差しているような……。
彼女はアベルと目が合うと、恥ずかしいのか視線をふっと逸らした。
「っ……うん……」
――アリアが恥ずかしがってる……! でも一緒に入ってくれるんだ……!?
アベルの手を振り解こうとはせず、逆にぎゅっと握り返してくれる彼女にアベルの期待が高まる。
「今夜はお酒は控えめにね……?」
「アリアも……」
アリアが再びアベルを見つめるように上目遣いで訊ねてくると、アベルは彼女を引き寄せ軽く唇を重ねた。
……それから二人は手を繋いだまま酒場へ食事しに出掛け、戻って来ると夜中まで仮眠を取ることにしたのだった。
……パティの恋路も少しずつ進めていきますw
さて、山奥の村に戻って来ましたよっと。
中々サラボナに戻らないアベルさんwww
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!