リュカって……www
では、本編どぞ~。
「っ!?(なんだって!?)」
ガバッ! とアベルはびっくりして跳ね起きる。
……キョロキョロと辺りを見回せば、まだ真夜中のようだ――。
窓の外はすっかり真っ暗闇。
雨は降っていない。
どうやらアベルはいつの間にか ぐっすり眠っていたらしい。
……そして良からぬ夢を見ていたようだ。
アベルの額には無数の汗粒が浮き出ていた。
「ゆ、夢……!?」
隣に人の気配がして目をやると、アリアがすぅすぅと静かな寝息を立てて眠っている。
服は……、彼女の服もアベルが眠る前に正してやったからか乱れていない。
……酒場で食事を済ませ二人でまったり過ごした後、仮眠を取ってから温泉に入ろうと言ってたはずが、すっかり寝入ってしまった。
「っ……どういうことだ……? あれは、確かに僕だった……、リュカって……??」
夢の中のアリアが口にした名前……【リュカ】……、窓に映っていた姿形は自分そっくりそのまま。
……声も同じだった。
彼女に触れた感触も夢の中だったはずなのに、やけにリアルで、まるで本当にあった出来事のように感じる。
「……僕は……」
アベルは頭を両手で抱え、俯く。
……結局その晩は温泉に入ることもなく、眠気もすっかり消え失せ、アベルは朝まで考え込んでいた。
◇
そして夜が明けた……!
「ごめんね、朝まで寝ちゃってたなんて……。起こしてくれれば良かったのに……」
「いいんだよ、アリア。僕も起きられなかったから……」
窓から朝陽が差し込み外から小鳥たちの歌声が聞こえる頃、二人ともに半身を起こす。
アリアが申し訳なさそうに弱り目をすると、アベルはアリアの少し跳ねた前髪を撫でつけてやった。
……あれから一睡も出来なかったアベルだったが、ぐっすり眠ったアリアの肌はツヤツヤしており、彼女が休めたなら まあいいかと目を細める。
「そうなの? なんかアベルの目の下、クマができてるけど……本当に寝たの?」
「ハハハ……、寝たよ。たっぷり……」
――“リュカ”が気になって眠れなかったんだよ……!
アリアの心配そうな顔にアベルは微苦笑を浮かべた。
「ふーん?」
アベルの様子が変だと思ったのか、アリアは窺うようにアベルをじっと見つめる。
「……ねえアリア、“リュカ”って知ってる?」
「リュカ? なに? 呪文……じゃあないよね……? 道具の名前か、人の名前かなにか?」
「あ……。いや、なんでもないんだ……」
唐突に問われたアリアの返答に、アベルは首を左右にフリフリ。
――嘘を吐いているようには見えない……アリアは“リュカ”を知らない……?
アベルが黙り込むと、アリアはいったいなんの質問だったのだろうと柔和な顔で首を傾げていた。
(アリアも……もしかしたら……?)
アリアと出会ったのは初めてじゃなかったのかもしれない……。
……そんな疑念が湧いたアベルは一晩中記憶を探っていたが、何も思い出せなかったのだ。
「ふぅん? なにか困ったことがあるなら いつでも相談してね! 私でチカラになれることがあるなら なんでも言って?」
「あ、ああ……」
アリアが眩しいくらいの笑顔を見せてくれるが、アベルは僅かにはにかみ頷くしか出来なかった。
――こんなことってあるのか……? アリアが、初めてじゃないなんて……。
父パパスを始め、ビアンカもヘンリーも、フローラも……ルドマンさえも、皆アベルの別世界の記憶にもある人々だというのに、アリアに関してはなんの記憶も降りて来ない。
ならば、あの夢はいったい……。
(別世界の僕は、この部屋で彼女と……?)
……いくら考えても、夢のリアルな肌の感触以外、なにも思い出せない。
ただ、なんとなく――。
アリアとは
……アリアは異世界から来たが、自分と同じ別世界にも存在していたことがある。
それなら今は思い出せないが、いつか思い出せるのかもしれない。
アリア本人がまだ思い出せていない過去も、もしかしたら自分の方が先に知ることができるのかも――。
夢は啓示なのでは……?
いつもなら ふっと脳裏に浮かんだり、勝手になだれ込んだりしてくる記憶が、今回に限って夢という形でなぜ現れたのか……、アベルには皆目わからない。
……が、あれが別世界の自分が見せたものだとしたら、なんとなく……薄っすらとではあるが合点がいく気がする。
なぜあんなものを見せたのかはともかく、なにも思い出せないから、今は気に留めておくだけにしておいた方が良さそうだ。
……そう、今は。
深く考えることはせず、目の前のことに集中しなければならない。
……今日は、サラボナに戻る日なのだ――。
僅かにはにかんだアベルの顔から笑顔が消えて、アリアは心配になったのだろう。彼女は布団から抜け出し、ベッドの上に膝立ちして両手を広げる。
「アベル……、ぎゅってしようか?」
「え? あ……うん……♡」
優しく告げるアリアの誘いに乗って、アベルは彼女の胸に
柔らかくて好い匂いに包まれ、アベルは今日起こる出来事を思い出す。
――今日は……【水のリング】をルドマンさんに持って行く日だ。
別世界では、ビアンカか、フローラ……の、どちらかを選び結婚することになる。
だが、今の自分にはアリアがいる……。
……彼女を連れて、ルドマンの元へ。
そこでアリアと結婚すると先に宣言してしまえば、自分はアリアと結婚ができるはず。
ビアンカも力になってくれる。
上手くいく自信だってある――。
だが、不安がないわけではない……。【世界の理】の存在がどう動くのかわからないからだ。
……アベルの不安の表れなのか、彼女を抱きしめる腕に力が入る。
と、アリアはアベルの頭を優しく撫でた。
「……アベル。私、あなたについて行くね(どうなるかは……わからないけれどあなたを信じる……)」
アリアも不安な気持ちはあったが、アベルの温もりを簡単に手放したくはない。
彼を信じてついて行こうと、アベルの頭に頬擦りをする。
「うん……。絶対付いて来てよね……! 絶対だよ? どこにも行っちゃ駄目だからね!」
「うん……私、諦めないね?」
不意に顔を上げるアベルを見下ろし、アリアは彼の額に唇を落とす。
するとアベルはアリアの顔を引き寄せ口付けをした。
――神さま、どうかアベルと結婚できますように……。
祈りの先は竜の神か、はたまた、別の神なのか。
いったいなんの神に祈ったというのか……。
……願いが届きますようにと、アリアは信じてもいない神に祈らずにはいられなかった。
アリアが別世界にも存在した……という謎を残し、次回へ。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!