さあ、サラボナに戻ってきましたよっ、と。
では、本編どぞ!
第五百九十三話 さあ、ルドマンの屋敷へ
◇
“【ルーラ】!!”
……アベルの移動呪文が発動し、アベル達はサラボナへ。
宿屋を出る前、アリアが身支度を整えている間に、アベルはこっそり毎朝の日課である【ステータスウィンドウ】を見たが、誕生日マークは付いていなかった。
結局……当初アリアの言っていた十八歳には達していないが、
(アリアとの結婚まで、もう少し……。)
アベルは期待に胸を膨らませ、後ろを振り返る。
「アリア、ちゃんとついて来てね! どこにも行っちゃダメだよ!?」
「うんっ、わかってる! あっ、アベルこれ、水のリング。返すねっ」
サラボナに着いた途端――珍しく魔物と鉢合わせたために隊列を組み直し、アリアは今、最後尾に付いていた。
彼女は最後尾からアベルに駆け寄り、ネックレスに通した【水のリング】を外してアベルに渡す。
【炎のリング】の時は渡すのを忘れてしまっていたから、アベルに渡しておいた方がいいと思ったのだ。
「……アリアが持っててくれていいのに」
「ううん、ルドマンさんが待ってるんだもの。さすがにそんなわけにはいかないよ。あなたが持っていた方がいいと思うな」
「じゃあ……どうせアリアのものになるけど、一時預かりってことで……」
アベルは渋々アリアから【水のリング】を受け取った。
……受け取る際にアリアの手をつい握ってしまう。
「っ……、アベル……?」
アリアが手を引こうとするが、アベルは離れがたいのか中々手を放してくれない。
「……もう、なにやってるの……ふふふっ。アベルったらアリアにいつでも触れていたいのね。でもアベルちょっといい? 作戦の最終確認をしなきゃ。ルドマンさんの家まで歩きながら話しましょ?」
「……っ、あ、ああ……」
「わ、私、後ろに戻るね……(恥ずかしい……)」
ビアンカが呆れたように半笑いを浮かべる。
すると漸くアベルはアリアから手を放し、アリアは頬を紅く染めて最後尾に戻っていった。
アベル、ピエール(プックルと交代)、ビアンカ、アリア……と続いて歩いていたが、ルドマンの屋敷に向かいながらビアンカと最終確認を取るため、隊列を組み直し“アベル、ビアンカ、ピエール、アリア”……の順で歩いて行く。
町のメインストリートは広いが行き交う人々も多いため、縦に一列で行くか、二人で並んで歩くのが精々だ。
アリアもピエールと話があるので丁度良かった。
「ね、ピエール君。この後水のリングを渡すと、アベルは結婚するのね?」
前を歩くアベルが何やら神妙な顔で“ああでこうで……、その場合は……”なんてビアンカにあれこれ指示をしている。
ビアンカも同様に“うんうん”と首を縦に下ろしつつ「じゃあ、こうだったら?」……等々、アベルに質問をしていた。
二人の顔は真剣そのものだ。
息がぴったり合っている気がするが、アリアは気にしないことにして、ピエールにこれから起こることを訊ねる。
アベルからサラボナに戻った後のことを聞いてはいるが、どういう風にビアンカとフローラを選ぶことになるのかまでは、アリアは知らない。
アベルが結婚することはわかっているから、確認のための話ならば話しても問題はないはず……と思って訊いてみたわけだ。
「はい……恐らく……。私はルドマン氏の屋敷には入れませんゆえ、詳しいことは知らないのです。ただ、水のリングを渡しに行くと、主殿はいつもご結婚されていました」
「そうなんだ……(ピエール君も詳しくは知らないのか……)」
ピエールは念のため“結婚式は明日”……とまでは制約を受けたくはないので言及せずに言葉を選び伝えると、アリアは腕組みをした。
……どの
「アリア嬢」
「ん?」
「アベル殿について行けば、きっと大丈夫でしょう。彼を信じることです」
「うん……そうだよねっ」
「…………はい」
ピエールの言葉にアリアは勇気付けられたのだろう、穏やかに微笑んでみせる。
……対して、ピエールの相槌は殊の外小さかった。
「さあ 参りましょう。アベル殿とビアンカ殿はもう屋敷に入られたようです」
「あ、うん……!」
……話をしている内に足が遅くなってしまったのだろうか。
アベルとビアンカは話に夢中で、そのまま先にルドマンの屋敷に入ってしまったようだ。
ピエールもルドマンの屋敷へとアンドレを走らせた。
(私も急がなくちゃ。)
アリアも駆け出そうとした……、
……その時――。
『すみませんっっ!! どなたか蘇生呪文が使える方はいらっしゃいませんかっっ!?!?』
教会の前を通り掛かったアリアの耳に、教会から飛び出し、必死に叫ぶシスターの声が入って来る。
シスターの悲痛な叫びに、教会前の噴水広場にいた人々が「どうしたどうした?」とシスターに駆け寄っていた。
なにがあったんだと、町の人が訊ねるとシスターが大きな声で告げる。
『小さなお子さんが大怪我で運ばれたのです! エアル神父様がお出掛けでいらっしゃらないため、応急処置で様子を見ていたのですがっ、先ほど心肺停止の状態になってしまいましたっ! お願いしますっ! どなたか蘇生呪文のできる方はいらっしゃいませんか!? こっ、このままでは小さなお子さんが天に召されてしまいます……!』
……なんと、エアル神父が留守にしているらしい。
シスターは今にも泣き出してしまいそうな不安気な顔で、集まった人々の顔を一人一人確認していった。
教会の前にはちょっとした人だかりができていたが、集まった人々の顔は暗い。
「神父様の祈りじゃなくて、蘇生呪文なんて高度な呪文……使える人がいるのか……?」
「チカラになってやりたいけど、あたしゃ蘇生呪文は使えないよ……」
「俺も戦士だし、無理だ……」
……残念だが、集まった人々の中に蘇生呪文が使える人はいないようだ……。
周りの反応に、シスターの瞳には絶望の色――。
“どなたか、蘇生呪文を……!”
シスターは手を組み、尚も名乗り出てくれる者がいないか窺う。
「……………………あの、私、できます。私を連れて行って下さい……!」
ふと足を止めて話を聞いていたアリアは、おずおずと手を挙げた。
彼女のその表情は、なにかを悟ったように諦めた顔をしている。
「まあ! 本当ですか!? すぐにいらして下さい!!」
アリアの申し出に それまで辛そうにしていたシスターの顔がパッと明るくなり、彼女の手を掴み引いた。
……アリアはシスターに誘われるままに教会へと向かう。
ギギギ……。
……バタン。
シスターの開いた扉の音がずいぶんと大きく聞こえ、また、閉じた音が外の世界と断絶されたように感じる。
扉一枚隔てただけの教会内は酷く静かで、外の雑音を遮断していた。
……祭壇から一番近い木の長椅子に誰かが寝そべっているのが見える。
恐らく、その子が
子どもの元へ近付くと、まだ十にも満たないであろう小さな女の子が、吐息の音も出すことなく横たわっていた。
……一刻も早く蘇生呪文を施さねばならない。
「では、早速……」
「はい、お願いします……!」
アリアは子どもが横たわる長椅子の傍らに膝をつき、意識のない女児を前に手を組み目を閉じる。
(……すぐに蘇らせてあげるからね……!)
……先ほどはちょっと諦めそうになってしまったアリアだったが、諦めないとアベルと約束したのだ。
早く目の前の女の子を生き返らせ、アベル達に合流しなければ。
ありったけの魔力を集中させ、アリアは心を込めて
“【ザオリク】!!”
(お嬢ちゃん、戻って来て……!)
アリアの身体から白い光が発せられ、女児の身体を優しい光が包み込む。
これで彼女は蘇るはず……。
「…………どう、かな……?」
レベルに見合わない呪文のため、魔力の消耗が激しい。
通常の二倍は魔力を消費した気がする。
アリアは恐る恐る目を開け女児の様子を窺った。
「……あの、今、蘇生呪文を唱えられましたよね……?」
シスターが女児の手を取り、脈を測る。
脈はないようで、シスターはアリアを見て首を左右に振った。
……どうやら蘇生は失敗したようだ。
「え、そんな……うそでしょ……」
――だって、今 唱えたの【ザオリク】だよ……!?
アリアさん……。
※明日から少しお休みします。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!