さて、原作の意志のチカラが働きましたよっと。
では、本編どぞ~。
◇
「…………ああぁぁぁっっ……!!」
――なんだ今のは……!?!?
ルドマンの屋敷を出てすぐに、アベルは接間に入って感じた違和感の正体に気付く。
……アリア、彼女の記憶が一気に舞い戻ってきたのだ。
やにわに頭を両手で抱え、アベルの膝がその場に崩れ落ちる。
(まるで、僕の意思を無視した会話の流れだった……しかも僕はそれを当たり前のように受け入れてしまった……。)
今し方の起こった妙な出来事に驚愕を覚え、アベルの身体はわなわなと震えた。
「っ、アリアはどこだっ!?!?」
――僕はアリアと結婚したくてここに来たのに……!!
……なのに彼女がいない。
アリアはついて来ると言っていたのに、いったいどこへ消えたというのか。
この屋敷に入るまで万全の策をと、ビアンカとしっかり打ち合わせをしたし、最終確認もしていたというのに。
……肝心の彼女がついて来ていないとは――。
「っ、ピエールはっ? ピエールはどこに……っ、馬車か……!」
アリアもひょっとしたら馬車に戻っているかもしれない……。
アベルはすぐに駆け出し、足がもつれそうになりながらも町の入口を目指した。
……馬車まで戻ったアベルは、ピエールにアリアがどこに居るか訊ねていた。
「アリア嬢は……、その……見当たらないのです……。申し訳ございません……すぐ後ろについて来ているものだと思っておりまして……振り返らずルドマン殿のお屋敷へ私も向かったのです。ですが、アリア嬢はやって来ませんでした。……仕方なく私一人馬車に戻って参りました」
「そんな……。じゃあアリアは今どこに……?」
ピエール曰く、アリアはルドマンの屋敷に来なかったそうだ。
……ピエールは申し訳なさそうに頭を下げている。
あれほど自分が“ついて来て”と告げ、アリアも“ついていく”と言っていたにも関わらず、彼女は来なかった。
……いや、来られなかったのかもしれない。
フローラとの出会いといい、ビアンカとの再会といい……、アリアは別世界の印象深い出来事に抵触しないよう、行動させられているのだから――。
……なにかあったに違いない。
【世界の理】の強制力が働いたのだろう、アベルは目を伏せピエールに訊ねつつ、アリアの行きそうな場所を自分でも考えてみた。
「わかりません……。主殿がお屋敷に入られてからずいぶん時間が経っております。町の入口に彼女の姿は見ておりません。私が馬車に戻る前にスラりん殿達もアリア嬢を見ていないと仰っていたので、彼女はまだ町の中にいるかもしれません……、ですが……」
アベルに問われたピエールは、アリアがまだ町にいるのではという可能性と、もう一つの可能性を口にしようとして黙り込む。
「……アリアはルーラを使える」
「はい……」
いくら察しの悪いアベルでもアリアのことなら大体把握している。
彼女が
……アリアは臆病だ。【ルーラ】を使うとしたらピエールを連れて行ったことだろう。
「……けど、あの子はもう僕なしじゃ生きられないはず。まだ町にいると思うんだ」
――僕を諦めないって言っていたんだ。
アリア、町のどこかにいるよね……?
……アベルはサラボナの町を眺め、アリアが行きそうな場所を思い浮かべる。
「…………はい」
ピエールの声は暗く沈んでいた。
「……お、お腹でも空いて酒場でランチでもしてるんじゃないかなっ。まったくアリアはこんな時まで食いしん坊なんだから……はっはっはっ……」
「……アベル殿……」
ピエールの暗く沈んだ声に、アベルは明るく笑ってみせる。
“どうせアリアのことだ、今頃おいしいものでも食べて時間を潰しているに違いない。”
……アベルはそう思いたかったのだ。
「……僕は、僕の好きなアリアを信じる。彼女はまだ町にきっといる」
「…………」
アベルが再び町に足を向け歩き出すと、ピエールも無言で頷きアンドレを操る。
……スラりん達にアリアが戻って来たら引き留めておいてと頼み、二人でアリアを捜すことにした。
◇
町のメインストリートを行き、宿屋二階にある酒場へ続く階段の手前まで来ると、アベルは足を止め口を開く。
「……ピエール聞いてくれ。さっきルドマンさんの屋敷に入った途端、空気が妙だったんだ」
「……妙……と言いますと?」
アベルの話にピエールも立ち止まり、首を傾げた。
「……別世界の記憶も何もかも、ルドマンさんの応接間に入ったら一時的にだけど全部忘れてた。…………っ、アリアのことも……」
「な、なんと……!」
“ガチャガチャッ……!”
驚き過ぎたのかピエールの兜の目元……
まさかアリアより先にピエールの素顔を見られるとは……とアベルは思ったが、その瞬間があまりにも短すぎて、尚且つ身長差もありよくわからなかった。
……少々残念だが、今はそれどころではない。
「……多分、世界の理のチカラが働いたんだと思う」
――ピエールには話しておいた方がいいかもしれない……。
アベルは目の前の問題に集中し、盟友に今戦うべき相手の存在を話すことにした。
「世界の理……?」
「……ピエールに説明したことあったっけ? ……君も別世界の記憶を持つからわかるよね? この世界も基本的に別世界と同じ時を刻むんだよ。そして、この世界は別世界とは違う時の流れが起こることを嫌がってるんだ」
ピエールに掻い摘んで説明しながら、アベルは自分の中にもそれを落とし込んでいく。
――【世界の理】はやっぱり存在している……、僕に干渉し、僕の望まない未来を歩ませようと、さっきは強制的に誘導しようとしたんだ……。
……先ほど体験した出来事により、アベルは【世界の理】を強く意識していた。
雲を掴むような話だが、やはり【世界の理】は存在していて、それは自分の人生に常に干渉している。
いつからそうなのかと思ったが、思えば自分が生まれた時からそうなのかもしれない。
自分が
……アリアが結婚に前向きじゃなかった理由がそれだ。
(アリアは僕がビアンカかフローラさんと結婚する、別世界の出来事をなぜか知っていた。)
――それも、付き合う前から……。
なぜ別世界の記憶が今の自分にあるのかまでは まだわからないが、アリアと出会って
【世界の理】はそんなアリアを自分から遠ざけたがっている。
先ほどの自分の意思をまるっきり無視した
「ぁぁ……、なんという……。そういうことですか……」
察しが良いのか、ピエールは腑に落ちた……といったところか“はぁ”と深く一息。
ピエールも自分になぜ別世界の記憶があるのかまではわからないが、未来が中々変わらなかった理由は理解できたようだ。
「うん、世界は常に別世界と同じ時の流れに
「ふむ……、だから未来が中々変わらなかったのですね……」
繰り返す人生の謎の一部が解けた心地でアベルが告げると、ピエールは腕組みをして深く頷く。
「ああ。けど僕はそれに徹底的に抗う。だけど……さっきのはかなりまずかった。ビアンカもアリアのことを忘れてるみたいだったし、ルドマンさんもフローラさんも、アリアのことなんて一言も触れなかったんだよ?」
「人々の記憶に干渉している……というのですか……?」
「うん……たぶんね」
……ピエールの質問にアベルは神妙な面持ちで首を縦に下ろした。
「……それは……神の仕業というより……あく……」
「……悪魔とも違うよ。だって、世界は僕を不幸にしようとはしていない。不幸になるのはいつも……」
――僕は不幸ではなかった…………アリアがいたから。
だが自分が未来を変えようともがく度、いつも犠牲になっているのは……。
「アリア嬢……ただおひとり……」
ピエールがぽつりと呟く。
……アベルは黙って俯いた。
アベルも気付いていたが、アリアを手放したくなくてはっきりと口に出したことはない。
「…………アリアを捜そう。たぶん彼女も世界の理のチカラで苦しんでるはずだ」
――アリアごめん……それでも僕は君が欲しい。
アリアと結婚することは、恐らく未来を大きく変えることになる。
だがアベルは未来を変えるという理由以前に、ただアリアと一緒になりたかった。
……そうすべきだから。
「……アリア……待ってて」
アベルは顔を上げピエールを伴い、まずはアリアのいそうな酒場へと向かった。
そうプログラミングされてるんでね……(言っちゃ身も蓋もないw)
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!