アリアはいったいどこにいるのでしょう。
では、本編どぞっ!
◇
……チリンチリン、と酒場のドアベルが鳴ると、アベル達が入って来た事に気付いた酒場のマスターが笑顔で軽く会釈する。
「いらっしゃいませ。今日もうまい酒が入ってますよ」
「あの、銀……いや、白っぽい綺麗な長い髪の女性が来ませんでしたか……? その……背は小さくて、でも胸は大きくて……瞳が紫水晶のように神秘的な女性なんですけど……」
アベルはアリアの特徴を、身振り手振りも加えてマスターに訊ねた。
アリアは背は小さいが、二つの白いスライムの発育はとてもいい……、自分が育てたかいあってか再会した頃よりも大きくなっていたから、「これくらいだっけ……? いや、もっと……?」……なんて首を傾げながらアリアのサイズを表現してみせるが、マスターとピエールには白い目で見られた。
「……白っぽい髪に紫水晶の瞳……? 珍しい色だねえ……いや、見てないなあ……」
「そうですか……」
以前一度ここでジュースを飲んだことがあるが、マスターはアベル達を憶えていないようだ。
……アベルは酒場にいる客の中にアリアを見た人がいないか訊いてみることにし、マスターに会釈してから離れる。
「……アベル殿……アリア嬢に対していささかスケベ過ぎやしませんか……。紳士としてあのような表現はどうかと……」
「っ……、ぼ、僕なりに彼女を正しく伝えようとだね……」
ピエールの呆れたような声に、アベルは気まずそうに頬を掻いた。
……ピエールは、アベルがアリアに夜な夜なイタズラしていることを多分知っている。
そう、
「人捜しかい? ……あれ? キミ、炎のリングを手に入れた人だよな? ほら、オレだよオレ。フローラさんの結婚相手に立候補したけど早々に離脱したやつ!」
アベルが酒を飲んでいる客の青年に声を掛けようとすると、マスターとの話を聞いていたのか、やって来たアベルに向こうから話し掛けてきた。
……アベルはすっかり忘れていたが、ルドマンの屋敷で見た男らしい。
「……あ、はい。水のリングも手に入れて戻って来たんですけど……」
「えっ? 水のリングも! 手に入れたのかい? すごいじゃないか! そういえばルドマンさんはもう結婚式の準備を始めたらしいよ」
「はは……、そう、みたいですね……」
――いつ指輪を持って来るかわからなかったのに、準備を始めていただなんて、ルドマンさんはなにをそんなに急いでいるんだ……?
青年に驚かれ、アベルは乾いた笑いを浮かべる。
ここで赤の他人にフローラと結婚はしないと宣言したところで本気にされないだろう。余計な時間を食うだけだ。
今は一刻も早くアリアの情報が欲しい。
「いいなあ……、フローラさんと結婚だなんて……羨ましいよ。けどあれ……? 別の女性を捜してるってさっき聞こえたけど?」
「ええ、そうなんです。どこかで見掛けませんでしたか?」
「いや……オレは見てないなぁ……(フローラさんと結婚するのに別の女性を捜している……??)」
「そうですか……」
アベルの受け答えに青年が眉を寄せ、目を瞬かせながらアリアを見てはいないと教えてくれた。
ならば この青年にもう用はない。
他の人にも訊いてみないと……と思っていると……、
「バニーさんにも訊いてみたらどうだい? 来店してれば彼女が知ってるはずさ。おーい、バニーさーん、フローラさんの旦那さんが人を捜してるんだって~。ちょっと話を聞いてやってー」
「ちょ、フローラさんの旦那って言い方!」
――僕はアリアと結婚するんだってば……!
青年が給仕のバニーガールに訊けばわかるかもと、大きな声で仕事中のバニーガールを呼んだ。
……アベルがフローラの結婚相手だというのは、アベルがルドマンの屋敷に入って行ったことを目撃した噂好き中年女性から話が広まったらしい。
今やアベルはサラボナではちょっとした有名人である。
「はーい、お待たせ~! 人を捜してるんですって? ……あら。あなた確か前にも来店してくれたお兄さんよね……?」
「あ、ども……」
青年に呼ばれたバニーガールがアベルの元へやって来ると、目蓋をぱちぱち。
アベルの背後をなんとなく窺っていた。
アベルは“この人は憶えてくれてたんだ……”とマスターには忘れられていたが、バニーガールに憶えていて貰えたことが嬉しくなる。
ここのバニーガールは中々の別嬪なのだ。実はアベルもしっかり憶えており、彼女とどうこうなりたいなんてものはないが、綺麗な女性に憶えていてもらえて嬉しいものは嬉しい。
……軽く会釈しておいた。
「へえ……お兄さん、フローラさんと結婚することにしたんだ。ふーん……、それでこの間のあの子がいないのね」
「あ、いや……僕は……」
バニーガールと目が合い、その視線がどうにも鋭い気がして、アベルは気まずさに彼女から目を逸らす。
――この人は僕がアリアを捨てたとでも思っているのだろうか……。
そういえばビアンカも勘違いしていたっけ……と、アベルは気まずさに目を逸らすのは肯定しているようだと思い直して、目線をバニーガールに戻した。
……堂々としていればいい。
自分はなにも
「お兄さんってちょっとステキかも。フローラさんが悩むのも無理はないわ。うふふ」
気付かない内にキリっとした顔になっていたのか、鋭かったバニーガールの視線が柔らかくなる。
彼女は長い睫毛をぱちぱち、ゆっくりと瞬かせ色目を使って、アベルを見つめた。
「いや、悩まれても困るんだよ……」
――早くアリアのことが訊きたい。
バニーガールの話がいつまで続くかわからず、アベルはついうんざり顔で呟いてしまう。
「え? どういうこと? 前に連れてた彼女と別れてフローラさんと結婚するんでしょ? 結婚前に関係を清算したなら問題ないんじゃないかしら。すっごく綺麗な娘だったけど、フローラさんも可愛いし いいじゃない」
……早いとこ本題に入りたいのに、給仕のバニーガールはアベルの結婚に興味津々らしい。
バニーガールの話は続き、言われたい放題だが女性に強く出れないアベルは無下にもできず大人しく聞いていた。
「……前に連れていた、彼女……アリアを見ませんでしたか?」
――やっぱりこの人も、僕が非情な男だと思ってるんだ……。
ちょっと悔しいが目の前の女性にどう思われても構わない。
……アベルは会話の切れ目かなと、一瞬の隙をついてアリアについて訊ねた。
「アリアさんていうのね。ごめんなさいね、見てないわ。酒場にも来てないわよ」
「そうですか……ありがとうございました」
――酒場には来ていないのか……、じゃあ次は教会にでも行ってみるか……。
アベルはバニーガールに会釈して足を扉へと向ける。
……とバニーガールがアベル呼び止めた。
「あ、ねえ。お兄さん、別れは綺麗にしておかないと後々面倒なことになるわよ。でもお兄さんは優しそうだから面倒ごとに巻き込まれそうね。気を付けてね。うふふ。……フローラさんとお幸せに!」
「…………僕は……っ」
アベルは反論しようとしたが、時間が勿体無くて言うのを止めた。
――アリアと別れてなんかないのに……!
どの人も自分がフローラと結婚すると思っている。
確かに二つのリングを取ってくればフローラとの結婚を許すとルドマンは言っていたが、アベルの狙いはフローラとの結婚ではなく、勇者の盾でもなく、二つのリングそのもの――。
アリアと唯一無二の指輪で結婚したくて、ビアンカにも手伝ってもらったものの、二人で苦労して手に入れたのだ。
自分がどんな想いで指輪を取りに行ったなど、世間の人々が知るはずもない。
……アベルはバニーガールに振り返らず酒場を後にした。
町の人達はフローラの結婚話でもちきりなのですよ。
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