教会へ来てみました。
では、本編どぞ。
◇
「主殿、次はどちらに当たりましょうか」
「アリアが好きな場所は食事ができる酒場の他は、お祈りもよくしてたから、教会かな」
「……わかりました。では参りましょう」
酒場を後にし、アベルとピエールは教会に向かうことにした。
教会に向かう道すがら、町行く人々に「おめでとう!」「お幸せに!」とアベルは声を掛けられる。
まだ二人の内どちらかを選んでもいないのに、結婚式は明日だなんて……いくらなんでも性急過ぎやしないだろうか。
ルドマンによるアベルの旅の邪魔をしたくないという配慮ではあるが、急に結婚させられる身にもなって欲しいものである。
アベルはできれば自分が十八になってからアリアにプロポーズし、二人で決めたタイミングで結婚したかった。
旅先で立ち寄った教会で二人きりの結婚式を挙げたっていい。
……そうすれば、アリアも安心して受け入れてくれるだろうし、今まで通り仲良く旅ができるというのに。
アベルは結婚のタイミングを強制的に決めてしまうルドマン……いや、【世界の理】が腹立たしかった。
……そうこうしているうちに、アベルとピエールは教会に辿り着く。
教会の扉が大きな音を立て開き、また閉じると外の雑音は一切聞こえなくなる。
「……アリア嬢はいないようですね……」
広い教会内部を見渡しピエールが小さく呟いた。
パッと見たところ、どこにもアリアらしき姿は見えない。
祭壇にエアル神父が居るが、彼は隣に立つ商人らしき中年男性となにやら話をしている。
「アリア……いったいどこに……」
アリアの姿が見当たらず、アベルは落胆して俯いた。
――まさか、本当に消えたりなんて…………いや、僕はアリアを信じてる。
……アリアはきっとまだサラボナにいる。
アベルは胸元をぎゅっと掴むように拳を握りしめる。
「……まずは神父様とシスターに話を訊いてみましょう。立ち寄った可能性もありますよ?」
「……そうだね」
ピエールに誘われ、アベルはまずは祭壇にいるエアル神父に話を聞くことにし、祭壇へ向かった。
祭壇に近付くと「ああ、そちらでしたらこうで、ああで……」とエアル神父の声が聞こえて、隣の中年男性がメモ帳に書き止め、時折「席順がこうで……」「では、――でよろしいでしょうか?」などと細かく確認を取っていた。
中年男性の言うことに一つ一つ相槌を打ちながら、エアル神父は「でしたら――」とまた意見を返している。中年男性もまた然り。
アベルは二人の会話が途切れるのを待っていたが、話が途切れる様子がない。
……エアル神父は忙しそうだ。
「……おや? あなたは確か、あの呪いのお嬢さんの……?」
「あ……、はい。あの、彼女を知りませんか? ちょっと迷子になっているみたいで……」
アベルが祭壇前でしばらく待っていると、エアル神父がやってきたアベルに気付いて声を掛けてくれた。
……アベルは早速アリアのことを訊ねる。
ところが……。
「すみません、私、先ほど教会に戻ったばかりで……」
「え?」
……エアル神父はサラボナを出ていたらしい。
そんなこと別世界で一度も経験したことのなかったアベルは虚を突かれ、目を丸くした。
「急な呼び出しで町を出ておりました。今し方戻ったばかりでして……あ、留守中のことでしたらあちらのシスターに訊いてみて下さいね。……ああ、すみません、どこまで話しましたっけ……?」
「この辺りですよ」
「ああ、そうでしたそうでした……――」
エアル神父はやはり忙しいのだろう、アベルにシスターに話を訊いて欲しいと告げてすぐ、中年男性へと目を転じて再びそちらと対話を始めてしまった。
話途中で急に切り上げられてしまい、アベルはシスターの元へ行こうかどうか迷ってしまう。
あまりにも細かくああでもない、こうでもないと二人が話し合っているため、いったいなんの話をしているというのやら……。
少し待ってみて話ができなさそうならシスターの元へ行こう……、そうアベルが考えていると、ふと中年男性と目があった。
「ルドマンさんに頼まれて結婚式の打ち合せをしてるんですよ」
「あ、そうなんですね」
中年男性の言葉に、なるほど――。そういえば結婚式の準備をもう始めていると言っていたな……、なんてアベルは他人事のように傍観する。
(自分の結婚式だっていうのに、僕がすることがないなんてまるで他人事みたいだ……。)
――まあ、準備しろと言われても困るか……。
アベルが二人のやり取りを見ていると、その内に中年男性が書き止めたメモをエアル神父に渡す。
エアル神父はそれの見直しをしだした。
「神父様が急に留守にするから、困ってたんですよ。いや、なんとか間に合いそうでよかった」
エアル神父がメモの項目をチェックしている間に、中年男性がアベルに話し掛けてくる。
……エアル神父は先日急にウワサのほこらまで行かなければならなくなり、結婚式の打ち合わせを急遽中断してしまったがために、結婚式を明日に控えた今、大急ぎで打ち合わせをしているのだという。
だからか先ほどはアベルに説明しながらもテンパってしまい、会話途中で強制終了してしまったらしい。
……中年男性が見守る中、エアル神父はメモをチェックし慌てた様子で羽根ペンを手に〇や×を付けていた。
「あ、そうでしたか。お邪魔してすみませんでした」
アベルはここに長居しても、アリアのことは訊けそうにないことがわかり頭を下げる。
「フゥ……ああ、そういえば、あなたがフローラさんとご結婚なさるとお聞きしました。あのお嬢さんは……」
アベルが踵を返し教会内を掃除するシスターの元へと行こうとすると、メモのチェックを済ませたのか、エアル神父に呼び止められた。
「ぁ……僕は……」
――この人も、僕がアリアを捨てたと思ってるんだな……。
アリアを救ってくれた
……だが信じてくれるかはわからない。
エアル神父はルドマンに呼ばれてやって来た高位の神官。
ルドマンの意向に沿う答えしか望んではもらえないだろう。
言うだけ無駄かもしれない……、アベルがそう思った時――。
「……フローラさんは素敵な女性です。ですが……、私はあのお嬢さんが心配ですね……」
「……え……」
エアル神父の言葉にアベルは目をぱちくりさせる。
「……あなたが真に望む相手はどなたなのでしょう? あれだけの呪いをともに解いて回ったあなたの想いは、決して同情や罪滅ぼしといった感情だけではなかったはず」
「神父様……」
エアル神父は中立の立場なのだろうか……。
彼はアリアの心配をしている様子で、アベルに優し気な笑みを向けた。
「結婚とは……病めるときも健やかなるときも、いついかなる時も、男と女が互いに敬い愛しみ、支え合い、生涯をともに生きていくという営みです。生涯の伴侶を選ぶならば、これまでのあなたを支え、また、あなたも支えたいと思う……、
「……はい」
――僕の気持ちは決まってる。
……例え町の人達が反対しても――。
エアル神父の言葉はアベルの背を押してくれる。
誰も彼も、アベルの心の内など知らないのだから当たり前なのだが、フローラを推す町の人々の中で唯一、彼だけがアリアとの結婚を祝福してくれているようで、逆境の中一人でもそういう人がいると、こんなにも心強いのかとアベルは感じた。
「……後悔のないよう……冒険の記録をつけておくことをおすすめしますよ」
「え? あ、はい……?」
――んん? 冒険の記録……??
突然エアル神父が【冒険の書】を取り出し、記録をしていけと勧めてくる。
よくはわからないが、アベルはエアル神父に促されるまま【冒険の書】に記録してもらった……。
……アベルは冒険の記録を付けてもらった後、シスターの元へ行きアリアのこと訊ねる。
「……あの珍しい御髪のお嬢様でしたら、眠ってしまわれたので宿屋へお運びしました」
「えっ!? なにかあったんですか!?」
――アリアが眠ったって……?
シスターの話を聞いた途端、アベルとピエールは互いに顔を見合わせた。
「……実は……――」
……アリアが宿屋にいることがわかり、アベルの表情は一旦心弛びしたように和らいだが、シスターが話を始めるとその顔は強張っていく。
「そんな……」
「なんと……」
アベルとピエールはシスターの話に黙り込んだのだった……。
アリアは宿屋へ運ばれましたとさ。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!