ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

アリアは割とすぐに見つかるのです。

では、本編どぞ-。



第五百九十九話 足取りを追ってin宿屋

 

 

 

 

 

 シスターから事の次第を全て聞いたアベルとピエールは、教会を後にし宿屋へと急いだ。

 

 

「アリア……」

 

 

 宿は満室だったのだろう、フロントで、今晩アベルが泊まる部屋を少しの間だけ借りていると宿屋の主人に言われ、アベルは構わないと言葉を交わし、部屋へとやって来ていた。

 

 ……アリアは今、ベッドで静かに眠っている。

 彼女の頬には乾いた涙痕が刻まれていた。

 

 

「…………君は優しい人だね……、優しいから厄介ごとに巻き込まれるんだよ……」

 

 

 ――アリアはやっぱりついて来られなかったんだ……!

 

 

 アベルはアリアの眠るベッドに腰掛け、彼女の頬にそっと触れる。

 

 シスターの話によれば泣き疲れて眠ってしまったとのこと……。

 魔力を使い果たし、精神的にも追い詰められ疲労がピークに達したのだろう。

 

 

 ……シスターから一部始終を聞いて、アベルはアリアがルドマンの屋敷に来られなかった理由を知った。

 

 アリアはアベルについて行くつもりだったのだ。

 シスターを無視して行ってもよかったのに、優しい彼女はできなかった。

 

 

 ……助けが必要な対象が子どもだったから。

 

 

 アリアは小さな子どもに対しては異常なほど献身的だ。

 自分のことのように親身になってしまうのは、過去の自分を愛したいがため。

 

 ……【世界の理】はそれを利用し、アリアを誘導した。

 一方で、アベルには別世界と全く同じ時の流れに身を置くのを強制している。

 

 

 

 

「っ……なんなんだよっ……! なんで僕の邪魔をするんだ!?」

 

 

 

 

 憤りにアベルは天井を見上げ声を荒らげるが、誰も返事などしない。

 

 

 ……戦う相手は、姿なき存在――。

 神でも、悪魔でも、魔王でもない。

 

 “戦う”という言葉ですら妥当ではないだろう。

 

 

 ……【世界の理】はなんの感情もなく、ただ強制的にアベルの望まない世界へ自分を引きずり込むのだ。

 

 ルドマンの屋敷で起こったことは別世界、そっくりそのまま。

 数多の人生を繰り返したアベルのよく知る展開――。

 

 それのなにが恐ろしいのかといえば、アベル自身が疑問を多少は感じたものの、アリアを忘れ、全て素直に受け入れてしまったというところである。

 

 ……記憶が飛んでしまい、アリアの存在をなかったことにしてしまったのだ。

 屋敷を出てすぐに気が付けたが、明日も同じ強制力が働くに違いない。

 

 

 これまでアベルが必死で変えた過去も、その内矯正されてしまうのでは……と、恐れるほどにその強制力は強かった。

 

 

「……アベル殿……、私は馬車に戻っておりますね……。今夜はどうかお二人で過ごされますように……」

 

「ピエール!! 君はっ! 君は僕がアリアと結婚できないと思っているのか!?!?」

 

 

 ピエールが気を遣い部屋を出ようとするも、アベルは立ち上がり苛立つように言い放つ。

 

 

「わ、私は……、その……」

 

 

 ……図星なのか、ピエールは口ごもってしまった。

 

 アベルから聞いた【世界の理】の力が働いてしまえば、アベルはきっとビアンカかフローラを選ぶことになるだろう。

 

 

 大きな時の流れを変えるのはそう簡単ではないから――。

 

 

 ……ピエールは現実派である。

 

 主君であるアベルに話を合わせ、未来が変わる……、そうあればいいと口を合わせてはいても、それは建前で、起こった事象に対して対処することはできるが、不確定なものに おいそれと希望を抱くような男ではないのだ。

 

 ……少しアリアと似ているかもしれない。

 

 だが、ピエールの主君であるアベルは、自分の望む未来を掴み取るために行動を続ける男である。

 常に考え、行動し、失敗もし、それでも懸命に立ち向かっていく。

 ……たとえ相手が誰であろうとも、決して諦めたりしない。

 

 そのアベルが今、ピエールに不快感を露わに眉を寄せていた。

 

 

「……君はずっとそうだった……。未来を変えたいという癖に、いつもなにもしようとしない。アリアがこんな目にあって、君はなんとも思わないのか!? せっかく、別世界の記憶があるのに……そんなの、僕とアリアをただ見ているだけの傍観者じゃないか!! このっ――」

 

 

 ――役立たず……!!

 

 

 ……言い掛けてアベルは止めた。

 

 これは完全なる八つ当たりで、ピエールはなにも悪くない。

 

 思い通りにことが進まないのはいつものことだ。

 ピエールに当たっても意味はない……。

 

 何百万回以上人生を繰り返したアベルでも苛立つことはある。

 だが、言っていいことと悪いことくらいの分別は付けられるのだ。

 

 

「っ、私はっ! アリア嬢をお守りしたいだけですっ!! たとえ、あなたがビアンカ嬢やフローラ嬢を選んだとしても、私はアリア嬢のお傍にいたいのです!」

 

 

 ――……そうしなければ、ならないのです。

 

 

 ……アリアを守りたい。

 

 それだけは本心から。アリアが傷ついた時、支えになるのは自分だけだとピエールは自負している。

 

 

「……それじゃ駄目なんだよ……前提が違う。ピエール、僕はビアンカとフローラ……二人の選択肢はそもそも考えていない。僕が望むのは最初からアリア一択で、他は望んでない。選択肢なんて要らないんだよ」

 

 

 ピエールの訴えにアベルは眉を寄せたまま、だが、先ほどとは違い声は冷静さを取り戻していた。

 

 

「アベル殿……」

 

「……アリアがいつ目覚めるかわからないけど、長くても明日の朝には目が覚めると思う。彼女が目覚めたら僕は町を出るよ」

 

 

 ……アベルはサラボナから出ることにしたらしい。

 

 

 ――【世界の理】から逃れるためには、ルドマンさんの屋敷に行ってはいけない。

 

 

 アベルはそう判断したのだ。

 あんな人々の感情を無視した強制力に自分が敵うわけがない。

 

 一番いいのは戦わずに逃げる。

 ……敵前逃亡だ。

 

 なぜルドマンの屋敷であれが起こったのかはわからないが、アリアが自分との結婚を覚悟してくれた今、二つのリングを諦めたって構わない。

 

 ……勇者の盾だって要らない。

 

 アリアと二人、サラボナから逃げ出して旅を続ければ、いつかは母親の元に辿り着けるだろう。

 

 いわば、ニュープラン。

 “プランE”である。

 

 一番収穫が少ない案だが、アリアが手に入るのなら、アベルはそれだけでよかった。

 

 

 ……いまさら後悔しても遅いのだが、サラボナに来さえしなければ、こんな目に合わずに済んだのだ。

 

 

「…………」

 

 

 アベルの言葉にピエールは押し黙る。

 

 無責任なことを言っている自覚がアベルにはあるのだろうか……。

 アリアを前にし、周りが見えなくなっていやしないだろうか。

 

 

 ――町から出られるのでしょうか……、フローラ嬢やビアンカ嬢を置いて……?

 

 

 明日、アベルはルドマンに返事をしなければならない。

 でなければ、ビアンカもフローラも傷つける結果になる。

 

 それにアベルはすっかり忘れているようだが、ビアンカは今、ルドマンの別荘に泊まっている。

 アリアを選ぶのであれば彼女(ビアンカ)を山奥の村に送ってあげなければならない。

 危険な帰路だ、女性一人で戻るには無理がある。

 

 

 それに……アリアがそれを望まないだろう。

 ……ビアンカはアリアにとっても大事な幼なじみなのだから――。

 

 

「ハハッ……町から出られないって……?」

 

「ぃ、いえ……そんなことは……」

 

 

 ピエールの無言に、アベルが冷眼視と仄暗い笑みを浮かべる。

 その顔は心底うんざりしている様子で、アリアの前で見せる顔とは全く異なっていた。

 

 反対でもしようものなら斬られそうな――そんな鋭い目をしている。

 

 ……ピエールはアベルのその表情に慄き咽喉(のど)をコクリと鳴らした。

 

 

「…………現実的じゃないよね、わかってる。……ピエール当たって悪かったね。僕もちょっと参ってるんだ……」

 

 

 ――アリアが許すはずないもんな……。

 

 

 アベルは眠るアリアを見やり、長い白金の髪を一房手にしてそっと口付ける。

 ……アリアに注ぐ視線は柔らかく、先ほどの冷たい瞳は消え失せていた。

 

 

「…………あの、私はこれで失礼します」

 

 

 ピエールはアベルの様子を見て、一刻も早くこの場から立ち去ろうと頭を下げる。

 アベルの逃亡話に“賛成”とも、“反対”ともピエールは言えなかったのだ。

 

 

 今夜が最後になるかもしれない……ならば早く二人きりにしてやりたい……――。

 二人にとって良き夜となるよう、ピエールはアンドレを操り扉に向かう。

 

 

「……ああ、君もゆっくり休んでくれ。スラりん達にアリアが見つかったことを伝えておいて」

 

「はい、了解しました……」

 

 

 背中越しにアベルの声が聞こえ、ピエールは振り返らずに頭だけ下げて部屋を出た。

 

 

 

 

 ――アベル殿……私もお二人が結ばれることを切に願っているのです。

 

 

 

 

 “ですが……。”

 

 

 

 

 ピエールにはどう考えても、別世界と同じ時が流れることしか想像できなかった……――。

 

 




世界の理はアベル達の感情などガン無視&強制ですからね……。

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