ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

悩めるアベル。

では、本編どぞー。



第六百一話 悩める夜

 

 

 

 

 

 その夜、宿屋に泊まったアベルは夜中にふと目が覚めた……。

 

 

「あ……、やっぱり……夢だった……、よかった……はぁ」

 

 

 目を覚ましたアベルは身体を起こし、頭を抱える。

 部屋の中は暗く、アリアは隣のベッドでまだ静かに眠っていた。

 

 なんとなく手首が痛む。

 頭を抱えた腕を見てみれば爪で引っ掻いたのだろう、前腕には引っ掻き傷――少しばかり流血し、血が固まり始めていた。

 

 

 さっきのは山奥の村で見た夢と同じようなものなのだろうか……。

 

 

 ――別世界の自分が見せた……?

 

 

 アベルは自問自答するが、答えは一つ。

 

 

「……このままだと、ああなってしまう……」

 

 

 ……ビアンカか、フローラか。

 夜が明けたら二人の内どちらかを選び、アリアのことは忘れてしまう……。

 

 

 夢の中のもう一つの意識には、アリアが目の前にいたにも関わらず、彼女の記憶がなかった。

 

 

(アリアはあの後、どうしたんだろうか……。)

 

 

 別世界の自分と別れて、いったいどこへ行ったというのか。

 ……アベルは別世界にも存在した、消えたアリアが心配になっていた。

 

 別世界の(自分)はビアンカを選んだ……。

 

 アリアを知っているビアンカなら、あんな風に幸せそうに笑ったりしていないだろう。

 夢の中のビアンカも、アリアの記憶を失っていたとみていい。

 

 

 ……【世界の理】がああ(・・)させたのだ。

 

 

「……いったいどうすればいいんだ……」

 

 

 警告のような夢を見せられ、事前にああなるかもしれないと教えてもらえたはいいが、ではどう対策を取ればいいというのか。

 

 ……【世界の理】は意識にすらも浸潤してくるというのに。

 

 アリアと結婚するためにビアンカと対策を練っていたのに、ルドマンの説得はおろか、対策の()の字も発せずに意識は乱され、別世界と同じ時の流れにすり替わっていた。

 

 これではどうあっても【世界の理】の思い通りになってしまう。

 自分の意識を丸ごとごっそり入れ替えるなんて、まるでホラーだ。

 

 

 

 

「……夜風にでも当たって頭を冷やすか……」

 

 

 

 

 ……このまま暗い部屋で考えていてもいい案は浮かばない。

 アリアは多分朝まで眠っているだろう……、そう思いアベルは部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、話は聞きましたよ。大変なことになりましたな。私ならふたりとも選びたいところだけど、そうもいかんでしょう。わっはっはっ」

 

 

 アベルが廊下に出ると、隣部屋の宿泊客……旅の男商人が丁度部屋に戻って来たところだったのか鉢合わせ声を掛けられる。

 

 

「はは……、そうですね……」

 

 

 アベルは乾いた笑いを浮かべ、男に軽く会釈して別れた。

 男が言う“ふたり”とはビアンカとフローラ……。

 

 

 ……アリアの存在はない。

 

 

 前回サラボナに立ち寄った際、確かアベルは彼に会っており、夫婦に間違えらたのに――。

 これもまた【世界の理】の影響なのか、ただ単に彼が忘れっぽいだけなのか……。

 

 

 それはともかく、昼間酒場で聞いたフローラとの結婚話が、アベルが眠っている間に変わっている。

 明日ビアンカかフローラ、二人の内どちらかを選ぶという話まで広まっているようだ。

 

 

 ――なんでこんなことに……。

 

 

「よう、アベルさん。眠れないのかい。悩むのも無理ねえよな。結婚っていやあ一生の問題だからな。散歩でもして頭を冷やせば考えがまとまるかも知れないぜ。また眠くなったらオレに言いなよ」

 

 

 今度は宿屋の外扉へ向かうアベルの背に、帳簿を記入していたマスク男(宿屋の主人)が話し掛けて来る。

 

 

「はい……」

 

 

 ――悩んでいるのは……二人のことじゃないんだけどね……。

 

 

 マスク男が言うように、夜風に当たって考えをまとめたい。

 アリアと逃げるつもりだが、逃れられないのなら対応策を考えなければ……。

 

 

 ……アベルは宿屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼間より閑散としたサラボナのメインストリートを歩いていると、時折夜風が優しくアベルの髪を掬っていく。

 風に攫われた前髪が落ちて目に掛かると、アベルは“前髪が伸びたな……”なんてその髪を抓み眺め、今度アリアに切ってもらおうと、ふっと口角を上げた。

 

 

 ……アリアとはもう、一緒にいるのが当たり前になっている。

 いまさら別の誰かと人生を歩むことは、今のアベルには考えられない。

 

 彼女も恐らくそう思ってくれていることだろう。

 

 

 自分とアリアは相思相愛――。

 互いを想い合っている。

 

 想い合う二人が結ばれるのが、一番いい結婚ではなかろうか。

 ……なのに、それが簡単に叶うことではないなんて――。

 

 ビアンカも応援してくれているし、ルドマンやフローラも事情さえ話せばわかってくれる。

 

 

 ……だが、その話をする機会すらも、与えてもらえないなんて。

 

 

「あんまりじゃないか……」

 

 

 アベルは独り言を呟いた。

 

 

「おや あんたアベルさんだね。町中あんたのウワサでもちきりだよ」

 

「へ? あ……」

 

 

 考え事をしながら歩いていたら、どこかの婦人に声を掛けられた。

 

 今夜アベルは自分から誰にも話し掛けていないにも関わらず、誰も彼もが聞いたことのある言葉を投げ掛けて来る。

 

 

「ウワサ……」

 

「大変だねえ……、にしても、二人の内もう一人は金髪のお嬢さんだっていうじゃないか。あの子はどうしちまったんだい?」

 

 

 アベルの呟きに、婦人がアベルの周りを見て首を傾げた。

 

 

「え、あの子って?」

 

「ほらほら、あの子だよ。……もうずいぶん前になるから はっきり覚えてないんだけどね。あんた、白っぽい髪の女の子と歩いていなかったかい? ほら、お人形さんみたいに綺麗な子。かなり親し気だった気がしたんだけどねえ……、そうかい……別れちゃったのかい……。あたしはお似合いだと思ったんだけどねえ……」

 

「…………」

 

 

 ――おばさんは……アリアのことを憶えている……。

 

 

 婦人の話の中にアリアがいて、アベルの目の奥が痛む。

 ……この婦人も自分がビアンカかフローラを選べば【世界の理】の力によってアリアを忘れてしまうのだろうか。

 

 

「おや どうしたんだい、大丈夫かい? 恋愛と結婚は別だっていうからしょうがないよ……元気出すんだよ? 幸せにね」

 

 

 アベルが黙っていると婦人はアベルの背をトントンと優しく撫でてくれた。

 

 

 そうしてアベルは婦人と別れ、噴水広場――噴水の前までやって来て、囲いに手を突きその水面を見下ろす。

 

 ……水面に映ったアベルの顔がゆらゆらと揺れ、歪み、顔が定まらない。

 アリアは辛い時でもいつも笑顔で、アベルはそんな彼女に釣られて笑っていた。

 

 彼女と一緒に笑顔でいると、不思議と幸せな気持ちになれたから。

 

 ……笑顔でいればなにか幸運を呼び寄せられるんじゃないか――なんて思ったこともある。

 

 だが、今、アベルは笑えない。

 悪い結果ばかりが浮かぶ今の自分は、どんな顔をしているのだろうか。

 

 ……止めどなく水を噴き出す噴水のお陰で、アベルは湿っぽい顔がはっきり見えなくて良かった気がした。

 

 

「やあ、ウワサの御仁。悩ましい月の夜だね」

 

「……え?」

 

 

 水面をぼぅっと眺めるアベルに誰かの声が掛かった。

 

 アベルが声のした方へ振り向くと、年若い青年と、上半身裸の筋肉マスク男が立っている。

 二人は興味津々といった様子でアベルを見ていた。

 

 ……こちらから話し掛けてもいないのに――今夜はこんなことばかりだ。

 

 

「うーん悩むよなあ……。ビアンカさんはちょっと気が強そうだけど明るくてとびきりの美人だし……。フローラさんは素直で優しくていい奥さんになりそうだし……」

 

 

 青年が腕組みしながらアベルに同情したような素振りで首を傾げる。

 ちらちらとアベルの様子を窺い「どっちを選ぶんだい?」という目だ。

 

 ……他人事ながら気になって仕方ないのだろう。

 

 

「…………」

 

 

 アベルは答える元気もなく黙り込んでしまった。

 

 

 ――ビアンカもフローラさんも確かに魅力的な女性だけど、僕は二人を望んでない……。

 

 

「なんでもルドマンさんは腕のいい道具屋に花嫁が被るヴェールを注文したらしいぜ。どちらを選ぶか……。一生の問題だからな、教会でお祈りでもしてから決めた方がいいぜ」

 

 

 今度は筋肉マスク男が花嫁のヴェールの話をする。

 ……そういえばそんなこともあったな……と、別世界の記憶がふと降りてきた。

 

 

「お祈りならさっきしてきました」

 

「そうか、なら安心だな。今夜は大いに悩むんだな」

 

「安心……?」

 

 

 ――どういうことだろう……。

 

 

 お祈りならエアル神父に言われて既にしている。

 ……それを伝えると、筋肉マスク男はアベルの肩を叩いた。

 

 アベルは軽く頷き再び歩き出す。

 

 

「あ、ちょっと、どっちを選ぶん……」

 

「おい まだ悩んでんだ。訊いてやるな」

 

「えぇ、いいじゃないか」「だめだ――」

 

 

 立ち去るアベルの後ろで青年とマスク男の言い合いが聞こえたがアベルは振り返らなかった。

 




アベルが悩んでいるのは二人のことではなかったっていう……。

宿屋を出て会う女性……PS2版だと若い女性なんだけど、SFC版だとおばちゃんなんですよ。
いいとこどりなのでおばちゃんにしちゃいましたw

※明日、明後日とお休みして次回は21日(金)更新予定です。

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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!
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