私的にちょっとホラー。
では、本編どぞ~。
(さっきの男が言っていた
アベルが思案しながら黙々と歩いていると、いつの間にか噴水広場を抜け、町を流れる小川の橋を渡りルドマンの屋敷に行きつく。
「……あ、リリアン。こんばんは……」
「くーん、くーん」
ルドマンの屋敷の前にはフローラの飼い犬、リリアンがいて、やって来たアベルに頭を撫でられると鼻を鳴らした。
「ねえ、リリアン。明日、君に妨害を頼めないかな……例えば、暴れて窓を割るとか……」
「くーん、くーん」
しゃがんで話すアベルに、リリアンは弱り目で鼻を鳴らしたまま……。
「……無理だよね……」
アベルの目が悲しみに揺れるように細められる。
――犬に
自分でもそう思ったが、アベルは犬でもなんでもいい、あの独特の空気を打破することができるのなら、どんなものにも縋りたい――そう思ったのだ。
……アベルはリリアンの頭を再び撫でて立ち上がる。
「……今は選択の時じゃない。……ルドマンさんに話をしてみようか……」
――悲観なんてしてる場合じゃない、フローラさんにも正直に話そう……。
新たな対策を立てるのは今夜しかないのだ。
アベルはリリアンから離れ、確かルドマンさんの部屋は二階の……と、屋敷を見上げた。
「……あ……、そう、か……」
見上げた頭上には以前アリアが泣いていたバルコニーがある。
あの時のアリアの涙はなんだったのか……。あの時は彼女が自分と離れるのが嫌で泣いていたのかと思っていたが、理由はそれだけではなかったのだ。
アベルはあの時の彼女の涙、本当の意味を今、理解した。
――アリアはこうなることがわかっていた……?
いや、実際にこうなるとは思ってもみなかったのだろうが、今まで自分の求婚を受け入れなかった理由が、ビアンカとフローラとの未来を知っていたからで、アリアは肌で感じ、恐れ、泣いていたのかもしれない。
「……アリア……。なんで言ってくれなかったんだ……」
アベルは拳を握りしめ、ルドマンの屋敷に向かう。
◇
……ルドマンの屋敷の扉は不用心にもなぜか開いていた。
中に入ると屋内は薄暗く、静まり返っている。
夜中だから当然だが、いつも玄関ホールにいる召使女性もおらず、恐らく奥の使用人部屋で眠っているのだろう。扉が開いているから使用人部屋の中が見え――彼女は椅子に腰掛け舟を漕いでいるようだ。
「……ルドマンさんは二階……」
アベルはまたもなぜか扉の開いている応接間に入り、火の消えた暖炉の前の宝箱が気にはなったが、興味を惹かれる欲求をどうにか堪え、階段へ――。
二階にやって来るとフローラの部屋は後回しにし、ルドマンの部屋へと急いだ。
ルドマンの部屋の扉も、なぜかアベルを誘うように開いている。
……アベルは少々気持ち悪さを感じたが、部屋の中へと足を踏み入れた。
「……おや?」
「あ、こんばんは……」
「しかし本当にふたつのリングを手に入れるとは大した男だ。私は君が気に入ったよ! 例え娘を選ばなくても結婚式は私に任せなさい。君の友人への招待状も書かせておいたからな。ラインハットのヘンリーさんとマリアさんだったね。さて私も寝るとしよう……」
アベルが部屋に入るとテーブルで独り――考えごとでもしていたのであろうルドマンが、やって来たアベルに気付き、気の良さそうな笑顔で明日のことを告げる。
「あの、アリアのことなんですけど……」
……アベルは思い切ってアリアのことを切り出した。
だが――。
「その方向にはダレモイナイ。」
「っ!?!?」
――な、なに……!?
アベルがアリアの話を持ち出すと、先ほどまで柔和な顔をしていたルドマンの表情が突然強張り、謎の言葉を吐き出す。
「あ、あの……? アリアのことなんですけど、僕は彼女と結婚……」
……もう一度、とアベルは少し踏み込んで告げてみた。
「その方向にはダレモイナイ。」
ルドマンの返答は先ほどと同じだ――。
「なん……っ……。そう、か……ルドマンさんは、もう……」
片手で口元を覆ったアベルの瞳が悲しみに憂う。
いや、ルドマンは死んでいるわけではないのだが……。
……どうやら彼は【世界の理】に支配されているようだ――。
だがよく見ると、ルドマンの言動こそおかしいが、アベルの目に映る彼の瞳は悲し気だった。
目には涙を湛え、アベルになにかを訴え掛けている。
「ル、ルドマンさん……、もしかして……」
「その方向にはダレモイナイ。」
アベルが語り掛けると、ルドマンは同じことしか言わない。
だが、頬には涙が伝っていた。
「……ルドマンさんも戦ってるんですね……? なら、僕も戦わないと」
……アベルはルドマンに会釈して部屋から出る。
この屋敷内では【世界の理】の力が強く働くのだろうか。
余計な言動をしないよう強制し、ルドマンの意識を支配している。
……だが、全て支配できているわけではなさそうだ。
さっきの涙は恐らく、アリアを想っての涙……。
ルドマンはアリアを忘れたように思わされているが、実際は忘れてなどいない。
だとすれば、フローラもそうなのではないか。
「……フローラさんはどうなんだろう……」
アベルはフローラの話も聞いてみたい。そう思って彼女の部屋を訪ねることにした。
カチャ。
大きな音を立てないよう、フローラの部屋の扉を静かに開き、中へと入る。
未婚女性の眠っている部屋に、夜中にこっそり忍び込むのはいけないことだが、今はそんなこと言ってられない。
アベルは薄暗い部屋の中、ベッドで眠るフローラに近付いた。
「すー、すー…」
……フローラはよく眠っているようだ。
彼女の穏やかな寝顔は別世界と変わらず愛らしい。
「あ……うん。そうだね。フローラさんは なにごとにも動じない強い女性だったね……」
アベルは眠るフローラに念のため話し掛けてみた。
「フローラさん フローラさん……。アリアのことなんだけど……」
「……ぅーん……、アリアお姉さま……? お姉さま、どうか素直になって下さいませ……でないと私後悔……」
「っ!?」
「すー、すー…」
話し掛けてもフローラが目覚めることはなかったが、彼女の寝言からアリアの名前が出てアベルは驚く。
フローラはそれだけ言うとまた静かに寝息を立て始めた。
「……フローラさんもアリアを憶えている……」
【世界の理】は寝言までは干渉できないというのか……彼女が起きていたらルドマンと同じことを言っていたのかもしれない。
フローラの寝言にアベルの鼻の奥がつんと痛む。
――やっぱり僕はアリアと結婚しなければ。
……ルドマンもフローラもアリアを憶えている。
アリアと自分の結婚が決まれば【世界の理】の目論見は外れ、あの気持ち悪い強制力は恐らく消え失せることだろう。
今まで変えてきた過去も未来も、いまさらなかったことになどさせたくない。
ルドマンの屋敷に来て、アリアのことを相談することはできなかったアベルだったが、大きな収穫を得た気がした。
「……ビアンカにも話を聞いてみよう……」
もしかするとビアンカは屋敷内ではなく、別荘にいるから【世界の理】の力が及んでいないかもしれない。
それならきっとまともな話ができるはず――。
……アベルは足早にルドマンの別荘に向かった。
その方向にはダレモイナイ。……は、SFCチートプレイ時に話し掛けられないキャラに話し掛けたりすると出る台詞です。
……知ってる方いらっしゃる?
もう、ね。
場所によるけど、このセリフ聞くとちょっと怖いんだ。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!