やっぱり頼れるのはビアンカちゃん。
では、本編どぞ!
◇
アベルがルドマンの屋敷を飛び出し、小川に架かる橋を渡り別荘に入るが、一階にビアンカの姿は無かった。
どこにいるのだろうと見回すと二階に続く階段が目に入り、アベルはビアンカをさがして二階へ向かう。
そうして階段を上がると、窓の外を眺めるビアンカの姿を見つけた。
(……別世界と同じだ……。)
別世界の記憶が瞬時に重なり気が付いたが、アベルは悲観しなかった。
……憂う必要はない。
ビアンカはきっとアリアを憶えている。
少しだけ緊張しつつ、意を決してビアンカの背に話し掛けた。
「ビアンカ」
「あらアベル。なんだか大変なことになっちゃったね。でも悩むことないわ。フローラさんと結婚した方がいいに決まってるじゃない。私のことなら心配しないで。今までだって1人でやって来たんだもの」
アベルが声を掛けると、ビアンカ、彼女が振り向き笑顔を見せる。
「……ひとりで……? 違うよね……?」
この世界のビアンカは両親が揃っている。
彼女は独りでいたわけじゃない。
愛する両親に育まれ大事にされ、別世界とは違い、そう苦労はしていないはずだ。
……アベルは訊ねていた。
「さあアベルは疲れてるんだから、もう眠った方がいいわよ。私はもう少しここで夜風に当たってるわ。なんだか眠れなくて……」
ビアンカはアベルの話を聞いていなかったのか、否か、後れ毛を耳に掛け再び窓の外に目を転じる。
「でもビアンカ、君、山奥の村でご両親が待っているじゃないか。それにあの――……」
「……しっ」
アベルが口に出そうとすると、やにわにビアンカの手がアベルの口元に伸びた。
……口を塞がれたアベルは言葉を飲み込み黙り込む。
「っ……?(ビアンカ?)」
「……タイミング、悪いのよ。でもこれが運命なのね」
ビアンカはアベルに笑みを浮かべてから、手を放した。
「ビアンカ……」
アベルは眉を下げて彼女を見下ろす。
「さあアベル、もう寝て。明日はきっと上手くいくわ、アリアのこと……幸せにしてあげなきゃ!」
「ビアンカ……! アリアのことを憶えているんだね!?」
やはりビアンカはアリアを憶えていたのだ。
別荘では、【世界の理】の力は及んでいないように見受けられる。
アベルの表情が明るく綻んだ。
「あなたがアリアと結婚してくれないと、私だって困るのよ……いまさら――なのに……」
「……あ、うん。そうだよね。けどビアンカ。あの屋敷に入ると僕達は……」
ビアンカが唇を尖らせ、ぶつぶつと小声でなにか呟くと、アベルは同意し昼間の出来事の擦り合わせをしようと口を開いた。
「ええ……アベル、わかってる。なんなのかしら、あの気持ち悪い感覚。アリアのことを忘れてしまうなんて……、お屋敷を出たら思い出せたけど……ショックだった――」
アベルが皆まで言わずにビアンカは早々に理解し、自己を抱くように両腕を掴んで身を震わせる。
ビアンカもルドマンの屋敷を出てから、アリアを思い出したらしい。
……さすがはビアンカ、理解が早くて助かる……と、アベルは自分の考えを話すことにした。
「僕の読みが正しければ、アリアとの結婚が決まればあの感覚は消えるはずなんだ。けど、その結婚までがどうしていいかわからないんだ」
「そうね……精神を支配して来るんだもの……。どうにか気を逸らせることはできないかしら」
「気を逸らす?」
「ええ。あの時、私、頭がぼーっとして正気じゃなかった。でも、頭がぼーっとしているのに淀みなく勝手に言葉を発してたの。痛みかなにか……気を逸らせるものがあれば、正気に戻れるんじゃないかと思うんだけど……」
アベルの話にビアンカは昼間の感覚を思い出し、その時の心境を伝えるとともに、一つの思いつきを話してくれる。
「痛み、か……」
――そういえば夢の中で、僕は自分を傷付けて目覚めたんだっけ……。
その手、使えるかもしれない。
……アベルはビアンカにもらったアイディアを、どうにか活かせないかと考えてみた。
「……まあ、先ずはあの子……アリアを連れて行けば解決しそうな問題なんだけどね。アベルが手でも繋いで連れて行けば、さすがにルドマンさんも無視できないと思うのよ」
「あ、それもそうだね」
アベルが思案しようとすると、ビアンカからまた別の対応策を告げられ、アベルは目を瞬かせる。
彼女の云う通り、アリアを連れて行けば楽に解決しそうなものじゃないか――。
……だが、昼間のこともある。
アリアがルドマンの屋敷に来れない可能性も考慮しないといけない。
それに、アリアを連れて行けたとしても、あの空気感……アリアをいない者として扱う可能性もなくはない……。
眉間に皺を寄せると、不意にビアンカはアベルの腕を掴んだ。
「私もなんとかあの空間を壊せないか考えておくねっ! また意識を支配されるなんてまっぴら! アベル元気出して!」
「……ありがとうビアンカ。僕も……、お陰でいい案が浮かびそうだよ」
下から見上げるようにビアンカが明るい笑顔を見せる。
……励ましてくれているのだろう。
そういえば今日、自分は殆ど笑っていない。アリアがいないとあまり笑えない自分は重症なのだとアベルは思う。
それに……今は彼女を失うかもしれないという瀬戸際――笑えるはずもなし。
ビアンカとは、始めはルドマンを説得する相談をしていたのに、そんな状況じゃなくなってしまった。
こんなことになってしまって、ビアンカには申し訳ないことをした気がする。
彼女も早く山奥の村に帰りたいだろうに――。
「ふふっ、お役に立てたみたいでよかったわ。……でも、なんで昼間あの子ついて来なかったのかしら……」
「うん……教会で人助けをしてたんだって」
ビアンカが不可解そうに腕組みを首を捻ると、アベルは眉を下げた。
「そうなんだ……あの子、優しい子だものね……。ところでそのアリアはどうしたの? 一緒に来ればよかったのに」
「あ……うん。アリア今寝てて……」
アリアの様子を訊ねられ、アベルは薄っすらと笑みを浮かべる。
――アリア……まだ起きてないよね……?
そういえば宿屋を出てから、ずいぶん時間が経っているではないか。
……そろそろ戻った方が良さそうだ。
アベルはチラッと階段に視線を投げる。
するとビアンカは察したようにアベルを一瞥、笑みを溢した。
「そっか。ふふっ、明日が決戦だっていうのに呑気なものねえ……」
「決戦って……、ハハ……」
「フローラさんとアリアの一騎打ちよ!? もう、ワクワクしちゃう☆」
手を叩き合わせパチンと鳴らし、ビアンカがにっこりとアベルを見上げる。
「一騎打ちって、ビ、ビアンカ……戦いじゃないんだから……」
「……フローラさん、お淑やかで優しそうな人だったね。アベル、アリアと付き合ってるけど、ちょっといいなって思ったでしょ?」
「っ、僕はっ、……ア、アリアしか見てないからっ……!」
ビアンカの言葉にアベルの声が上擦った。
――なんでわかっちゃうの……!? けど、それは別世界の僕の感情なんだからね……! 勘違いしないでよねっ!!
アベルの額に汗粒が浮かぶ。
これでは肯定しているみたいではないか。
……確かにフローラは可愛い。
幾度も結婚した女性だ、可愛くないわけがないのである。
そして、それは目の前にいるビアンカにも言えることで――。
「フゥン? うふふっ。そういうことにしておきましょ」
ビアンカは嫣然と微笑み、アベルの鼻尖を“トンッ”と人差し指で突いた。
「あ……えっと……」
――くそっ……ビアンカが可愛い……! アリア、ごめんっ……!!
……この世界のビアンカは自分のことなんか、これっぽっちも思っていない。
それがすごく悔しいが、それでも目の前で自分に笑顔を向けてくれるビアンカが、アベルには眩しく見えた。
「……それじゃ アベルおやすみなさい。明日がんばろうね。私はもう少しここで夜風に当たってるわ。眠れそうにないもの……」
「あ、うん。おやすみビアンカ。明日もしビアンカが先に気付けたら、殴ってでもいいから僕に教えてね……!」
……ビアンカが再び窓の外へと目を向ける。
アベルは彼女の背中に声を掛けてから階段を下りた。
「……うん、アベル。……幸せになってね」
アベルの気配が背後から消えると、ビアンカは身体を反転させる。
……階段を下り、外扉へ向かうアベルの姿が別荘から消えるまで、彼女は静かにその背を見送っていた――。
ビアンカはアリア推しなので、嫁代理戦争みたいになってます。
アリアはビアンカの代理で、フローラとこう……バッチバチっていうねw
互いに褒め称え合いながら内心ではバッチバチ?
ビアンカか、フローラか。
もうずっと決着つかなくていいわw
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!