さあ、アベルは何パターン案を練ったのでしょうか。
では、本編どぞ。
◇
「……そうなんだ……そんなことがあったのね……」
部屋に戻り、アベルは取っておいた食事プレートを彼女に渡す。
……アリアはテーブルでそれを食べながら、アベルの話に耳を傾けていた。
「うん……。あの時僕の意識は歪められ、別世界の記憶と、君の記憶がすっぽり抜け落ちていたんだ。あれは……多分 世界の理のチカラが働いたんだと思う」
「……なるほど、ゲームの強制力かぁ……」
――アベルは主人公だから……余計に強く働くんだろうな……。
すっかり冷めてしまった
少し腹が満たされたからか、アベルの話が自然と頭に入って来る。
さっき取り乱したのは空腹のせいもあったのかも……なんて、アリアはモグモグ。
……そういえば前世では仕事の忙しさにかまけて食事を抜き、倒れたことがあったなと思い出した。
しっかり食べないと心も体も元気が出ないし、アベルの前で倒れたら心配されてしまう。
アベルには常に笑顔で接していたい。
……なにがあっても食事はしっかり摂ろうとアリアは心に誓った。
「っ、ゲームの……うん……そうなのかもね……」
――アリアはやっぱり簡単に納得するんだ……。
アリアがすんなり受け入れるので、彼女の向かいに座ったアベルは息を呑む。
……やはり彼女は特別な存在なのだと理解した。
けれども、そもそもアリアは最初から自分にとって特別な存在なわけで……。
「っ……アベルっ」
アベルがアリアの頬に付いたパンくずをそっと取り除いて、自らの口に放り込むと彼女の顔が瞬時に赤く染まる。
「フフ……パンくず付いてたから。おいしいパンだね?」
「……も、もぉ……、そういうことされると、ドキドキしちゃうでしょっ」
――このパンもう硬くなってるし、サンチョさんのパンの方が絶対おいしいのに……。
アベルがにこにこと機嫌が良さそうにテーブルに肘を突き、自分を見て来るのでアリアは気まずい。
手にしていたスプーンをスープ皿に置くと両手で顔を覆ってしまった。
「いいね! ドキドキしてよ」
「いっつもしてるよぅっっ!」
「ハハハッ、そうなんだ! 奇遇だね僕もだよ! 君といると毎日ドキドキするし、毎日楽しい!」
アリアが俯きあたふたする姿を楽しんでいるのか、アベルの声は明るい。
「っっ……!!」
――ひーん……アベルがまたおかしなこと言ってるぅ……。
アリアはアベルの口撃に頬が熱くなるのを抑えきれず、早くそれをやめてくれることを願った。
「……ははっ! アリアって恥ずかしがりだよね~。けど、さっきは僕の腕放さなかったよね。宿屋のご主人、びっくりしてたよ? 僕はうれしかったけど」
「……それは……だって……」
アベルが破顔してまた まじまじとアリアを見つめる。
アリアは顔を覆っていた手を下ろし、アベルと目を合わせようとはせず言い難そうに口ごもっていた。
「ん?」
「アベルは……私のだからちゃんと見せつけておかないと、でしょ……?」
アリアはどこぞへと泳がせていた目を戻し、アベルに視線を注ぐ。
「へ?(見せつけ……?)」
「……私、もう覚悟したもの。恥ずかしいって思うばっかりで遠慮なんかしてたら、アベル格好いいから余計な虫がついちゃう。ビアンカちゃんだって、フローラさんだって、アベルに惹かれてるんだよ? いつまでもモジモジなんてしてられないよ」
そう話すアリアの頬は真っ赤に染まっており、彼女はじぃっと上目遣いにアベルを窺っていた。
「アリア……」
――なに? アリアが僕と一緒にいるところを見せつけたいだって……!?
本当に……!?
……アベルの胸がざわざわとざわめく。
自分もヘンリーやデールやヨシュア、アリアに声を掛ける町の男達にアリアとの仲を見せつけ牽制したいと思っていたが、彼女にもそういう気持ちが芽生えていたとは……。
(これはひょっとして……アリアが陥落したと言ってもいいのでは……?)
アリアの想いは自分に100パーセント向いている……。
アベルは確かな手ごたえを感じる。
自分の想いばかりが強いと思っていたが、実はそうではないのかもしれない。
同じくらいアリアが想ってくれている――そう思うと口角が勝手に上がってしまうではないか。
……アベルの顔はふにゃりと崩れ、だらしなく蕩けた。
そんなアベルを前に、アリアは手を組み祈るような恰好で話を続ける。
「アベルは誰にも渡さない。ビアンカちゃんもフローラさんも素敵な女性よ? けど、別世界の花嫁二人が相手でも私、負けないから。ここまできたらもうアベルを放してあげられないから覚悟してね……?」
話し終えたアリアは最後に唇を窄めて、それを自らの人差し指に触れさせると、向かい合うアベルの唇にそっと当てた。
……そして艶っぽく微笑んだのだ。
「っ…………はい、覚悟してます……♡」
――ああ……ニンジンの香り……、好きになりそう……♡
アリアの指先からニンジンポタージュの素材の香りがほのかに香って、アベルはうっとり。
大人になって食べられるようにはなったニンジンが好きになれる気がした。
「そっか、よかったぁ♡ じゃあ、早く食べちゃうね! あ、アベルの話の続き聞かせて?」
「……っ! わ、わかった……じゃあ……――」
アベルの反応にアリアは満足したのか、普段通りの明るい笑顔を見せて、食事の残りを食べ始めると、アベルもハッとして続きを話すことにした。
昼間の出来事は先ほど伝えたので、さっき散歩中にあったことを中心に説明していく。
……ルドマンの屋敷内でおかしくなるのはどうやら確定で、ルドマン自体も苦しんでる様子だったこと、ビアンカもルドマンの屋敷を出てアリアを思い出し、自分とアリアの応援をしてくれているということ……――。
だがアベルは散歩に出る前に見た夢の話は出来なかった。
……口にしたことにより、本当になってしまうと思うと言えなかったのだ。
その内アリアが食事を終えて、アベルは思いついた案をアリアに伝える。
その案の一つ目、A案は――。
“アリアと逃げる”
「……――と思うんだけど……アリアはどう思う……?」
アベルはアリアに一緒にサラボナから出ようと誘った……のだが、話した途端彼女の眉はハの字に。
「……えぇ……ビアンカちゃんを置いて逃げられるわけないよ……。フローラさんだって可哀想だよ。それは不誠実だと思う……」
「けど、僕は君がいればいいから……、君さえ良ければ二人で町を出たい」
アベルはテーブルに置いたアリアの両手を包み込み、説得を試みた。
だが、やはり……。
「アベル……、あなたそんな無責任な人じゃないでしょう……? ビアンカちゃんもフローラさんも……心配じゃないの? 別世界では奥さんだったんでしょ?」
アリアはアベルの手から逃れて両手を膝の上へ。
眉を寄せたままアベルを窺い見る。
「ぅ……そ、そりゃあ……心配……、だけども……」
――やっぱりダメか……! この真面目っ子め……!
……実はここまでは想定内である。
アリアがビアンカとフローラを置いて去るなど、できないとはアベルも思っていた。
ではB案を……と思ったが、ここで想定外のことが――。
「……一度、試してみてもいいけど……、たぶん町から出られないんじゃないかなぁ……」
アリアは試すだけ試してもいいと、顎に人差し指を添え天井を見上げる。
「ん? どういうこと?」
「…………ふふっ。だって……」
「あ、その顔。またゲームだからとか言うつもりでしょ」
唇をニヤリ。得意気に弧を描かせたアリアにアベルは察した。
……こんな時のアリアは“ゲームだから”で納得しているに違いない。
アベルは“僕にだってそれくらいわかるんだからね!”と、本当はよくわからないが無理やりわかっているフリをしておいた。
「……っ……アベルってばすごーい……! なんでわかったの~?」
アリアはゲームのことを理解してくれているアベルに、瞳をキラキラと輝かせる。
そんな彼女の瞳に、“さすがはアベル! アベルってばなんて理解があるのかしら、素敵! 抱いて♡”……なんて思っているに違いない……とアベルはちょっと思ってしまった(勘違いである)。
「……ま、まあ僕は主人公だからね……それくらいはわかって当然というかなんというか……、ちょっと提案してみただけだよ……」
「すごーい! 自分が主人公ってわかってる主人公って珍しいよねっ! じゃあ、早速試すだけ試してみよっか♡」
アベルの返答に、アリアは嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
「あ、ああ……」
――アリアの言ってることが……よくわからない……!! でも、君の言うことはきっと正しいんだ……!
アリアの発言がまったく理解できないのは、彼女が【世界の理】を乱す存在だからなのだろう。
【世界の理】と彼女の関係はよくないのだろうが、アリアは【世界の理】の真理を知っている気がした。
ただ、アベルからすれば、アリアは変わったことを言う面白い
アリアを理解している風に話を合わせれば喜んでくれるので、彼女が笑顔でいてくれるならそれでいい。
アリアがいつも自分を肯定してくれる様に、自分もアリアを肯定しよう。
……そうアベルは、無邪気な笑顔を見せる愛しい彼女に微笑み返したのだった。
アリアが覚悟を決めてしまったため、アベルは逃げられなくなりましたw
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!