過去に“いいえ”を選択してしまったがために。
では、本編どぞ。
「…………はい、これでいいかな……?」
「うん完璧……! ありがとうアリア!(ちょっと痛い……)」
さて、血が止まった頃――アリアがアベルの患部を包帯で巻き巻き、手当てをしてくれた。
アベルは手に巻かれた包帯を眺め、にっこりと微笑む。
「……そろそろ休もっか。……アベル痛いけど眠れそう?」
「たぶん……」
せっかくだから……と、テーブルに置いていた宿屋の主人に貰ったロウソクに火を灯すと、ラベンダーの香りが部屋に漂う。
ロウソクから香るふわりと柔らかく甘い匂いに、アベルの手は痛かったが多少気が紛れた。
いい香りね……なんてアリアが目を細めれば、アベルもそれに倣う。
二人は部屋の明かりを落としてそれぞれのベッドに向かい、身体を横たえ布団に包まって向かい合った。
「……ね、アベル。一緒に寝る……?」
……お誘いは突然に。
アリアが大胆にも掛け布団を捲って、アベルに
マントを脱いだ剥き出しの肩と、重なる二匹の白いスライムと……白い滑らかな太ももの間にアリアの片手が挟まり、スカートが引っ張られて下肢部を強調させる。
部屋の明かりを落とした部屋では月明かりが差し込み、アリアの肌を青白く照らしていた。
「あっ……寝たぃ……、っ……でもそれは……明日にする……」
あまりに扇情的な光景に、アベルの目はチカチカとして、息を呑む。
――したいーー……! でもっ、まだダメだ……!!
アベルの頬も身体も瞬時に熱くなり、身体が動きかけたがグッと堪えた。
まだ結婚前だ。
それに自分は十八になっていない。
……というのは建前で、したいのは山々だが今夜はダメだ。
下手に手を出したら朝まで掛かってしまいそうで、寝不足のまま明日を迎えるわけにはいかない――アベルは自重する。
「そっか……。あ、じゃあ今夜はアベルが安眠枕を使って?」
アリアは少しつまらなそうな顔をしてすぐに布団を元に戻し、半身を起こすと、ベッド脇に置いていた自分の荷物の中から【安眠まくら】を取り出しアベルに差し出した。
「僕は大丈夫だよ?」
「痛くて眠れないんじゃ、明日立ち向かえないよ? 私もベッドなら眠れるから」
「……わかった、じゃあ借りるね」
「ふふっ♡ それアベルのなのに」
アベルはアリアから【安眠まくら】を受け取り、宿屋の枕と入れ替える。
すると――。
「アリア……明日……けこん……てね……」
“明日結婚してね……。”
アベルはアリアに笑顔を向けながら眠りに落ちていった。
……疲れていたのだろう。
早速ぐぅぐぅというイビキが聞こえてくる。
「……はぁ、やっぱ安眠枕ってすごいなぁ……。さあ、私も寝なくっちゃ……明日……」
アリアも再び身体を倒し、枕に頭を預け暗い天井を眺める。
明日はアベルが花嫁を選択し、結婚する日――。
アベルは既に自分を選んでいると言っていた。
「アベルと結婚……できるのね……」
――でも、昼間みたいに邪魔されるんだろうな……。
アベルの作戦が上手くいくことを願ってはいるが、自分でもなにかできないだろうかと、アリアは眠くなるまで昼間の出来事を整理し、解決方法を模索してみる。
……昼間はずいぶん取り乱し、先ほどもアベルに泣き縋りついてしまったアリアだが、冷静に考えるとあまりに不自然な出来事だった。
あのまま、恋人との別れを受け入れるしかないと諦めさせるために、【原作の意志】は幼い少女を作り、アリアをアベルから遠ざけたわけだが……彼は彼女を思い出し戻って来た。
【原作の意志】は詰めが甘いのではなかろうか――。
(実はアベルによってストーリーが歪み過ぎて、修正が上手くできていない……とか?)
原作をプレイしていないアリアには、この世界の時の流れが原作とどう違っているのか さっぱりわからない。
ただ、ストーリーの歪みのせいで修正が追い付かないのなら、綻びが生まれることもあるかもしれない。
(それかもしくは……誰かが【原作の意志】の邪魔をしている……?)
もしそんな人がいるのなら、アベルとアリアにとっては味方となる頼もしい存在だ。
……考えられなくはない理由だが、では、それはいったい誰――である。
ルドマンもフローラも、ビアンカも。アベルと一緒に意識を乗っ取られていた。
ならば、その四人ではない。
もちろん仲魔たちも馬車に戻っていたから違うだろう。
では、“他には……?”
……そう考え至った時、アリアの頭に浮かんだ人物が一人だけいる。
「……あ。……はは……、まさかあの感じの悪い人が……?」
――いや、いまさらもう断っちゃったし、あれから私のところに来てないもの……諦めたのよね……?
プックルの居た洞窟、見はらしの塔、滝の洞窟……三度の邂逅で、切れた縁。
面倒そうだからと、はっきり断ってしまったのは間違っていたのだろうか……。
「いや、だって、あの人私に助けを求めてたんだよ……?」
……もし。
もし、その人物が実は【原作の意志】に触れることのできる人物ならば、あの不自然な出来事が起きてもおかしくはないのかもしれない。
アリアはそんな可能性を探ってみるが、だとしたら、あの人物はいったい……と、今度はそちらに疑問を持ってしまう。
「ぅーん……あの人は実はデバッカーで……なんてないか……」
デバッカー……ゲーム中のバグを探して修正する人のことだが、あの人物は手違いでアリアをつい溺れさせたが、殺そうとはしていない。
「でも、その人しか思い当たらない……。他にもいるのかな……。けど、その人がそうなら助けてくれないかな……」
“アベルと結婚したい……。”
見返りが怖いが、アベルと一緒になれるなら。
そう強く思うと――。
『お前はアベルとかいう男と結婚したいのだろう? その願い、私が叶えよう』
……不意に謎の人物の言葉が思い出された。
「あ……、あの人……! こうなることを知ってたっていうの……!?」
――確定じゃない!? ああっ、私のバカッ! 断っちゃったよ!!
アリアは過去の選択を後悔する。
未だアベルのところにも現れていないようだし、あの人物が誰かはわからないが、諦めて別の人に助けを求めに行ってしまったのだろう。
「ぁぁ……、でもダメ。悲観なんてしてられないの。私は私のできることをやるしかない……。最後まで諦めないって決めたんだから……」
――ね、アベル。
アリアは隣のベッドで眠るアベルを見つめる。
アベルはアリアに身体を向けて眠っており、包帯が巻かれた左手が痛々しかった。
「……アベル、愛してるよ」
“【ベホイミ】!!”
アリアはアベルに回復呪文を唱える。
恐らく痛みなど【原作の意志】は簡単に認識を歪めてしまうだろう。
自分にできることとえば、アベルが出した案の内の一つ、B案――。
――明日は、なにがなんでもルドマンさんの屋敷に一緒に行くんだから。
アリアの意志は固い。
……いつの間にか窓の外は白み、もうすぐ夜が明ける。
昼から夜まで何時間も眠っていたアリアは全く眠くならず、アベルの寝顔をずっと見守っていた。
アベルに頼るのもありですが、頼りきるのは好きではない。アリアにも女の意地ってものがあるのです。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!