ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

逃げることができないなんて……!

では、本編どぞ。



第六百十一話 二人ができる対策

 

「あっ……だ、だね……。ごめん……」

 

 

 アリアはハッとアベルを見上げ、すぐに目を伏せる。

 アベルが自分のブラを手に持って、女性二人の前でプロポーズ……の図を想像するとあまりにシュールだ。

 

 その後、彼がどんな目で見られるか……まで考え至ると顔を青褪めた。

 

 

 ……そこまでは考えてはいなかったらしい――。

 

 

 どうやらアリアはふざけていたのではなく、真面目に考えていたようだ。

 

 

「……アリアって、僕に負けず劣らずヘンタイだよね……」

 

「なっ!?」

 

 

 ――うわぁあああんんっっ! アベルにヘンタイって言われたぁあああっっ!!

 

 

 赤い顔のアベルにぼそっと冷静に言われてしまい、アリアの瞳に羞恥の涙が滲む。

 今になって恥ずかしくなったのだろう、彼女の全身が赤く染まっていた。

 

 アリアなりに色々考えた結果が、ああだったわけだが、アベルをただ困らせただけになってしまった。

 

 

(ど、どうしよう……なにか、別の手は……。)

 

 

 もうあまり時間がない。

 自分の持つものでアベルがわかりそうなもの……。

 

 ……アリアが考えを巡らせようとすると、アベルが口を開く。

 

 

「……視覚情報ったって、僕が認識できなきゃ意味ないんだよ? アリアのだってはっきりわかって、僕も思い入れのあるものじゃなきゃダメなんじゃ……」

 

「私だとはっきりわかって思い入れのあるもの……? それもそっか……ぱんつもブラも名前なんて書いてないものね……(思い入れはあると思うんだけど……)」

 

 

 ――アベル、私の下着時々嗅いでるよね……!

 

 

 アベルのもっともらしい話に耳を傾けつつも、彼が洗濯するからと言って、時々自分(アリア)の脱いだ下着を嬉しそうに嗅いでいるのを、アリアは知っているのだ。

 

 自分で洗うから洗わなくていいと言っても洗うと言ってきかないし、下着に対する思い入れはそこそこある気がするのだが……。

 

 

「名前……。あっ!」

 

「ん?」

 

 

 アベルが何か思い当たり、大きな声を上げた。

 

 

「名前が書いてある、思い出深いものなら僕持ってるよ!」

 

「ホント!?」

 

 

 アベルの話にアリアの顔がパッと明るくなる。

 

 

「ああ、これ……、ここに僕の名前が」

 

 

 アベルは【ふくろ】に手を突っ込み、ハンカチを取り出す。

 少し草臥(くたび)れたハンカチは使用頻度が高い、アベルのお気に入りのハンカチだ。

 

 

「なに? ハンカチ……? “アヘル”って……間違ってるし、私の名前でもないじゃない(確か前にも見たけど下手くそな字ね……)」

 

 

 目の前に差し出されたハンカチに“アヘル”の文字を見つけ、アリアは首を傾げる。

 確かにアベルはいつもこのハンカチを使用しているが、大人が使うには少々可愛らしいデザインだ。

 

 子どもの頃から愛用しているようだから、思い入れはあるのだろうが、アリアにはそれがどういった思い入れのある品物なのかよくわからない。

 

 

「…………いいんだ。これ、アリアが昔書いてくれたやつだから」

 

 

 ――アリア、まだ思い出せないんだね……。

 

 

 アベルはハンカチを見下ろし、にっこりと優しい笑みを浮かべる。

 

 

「あ……、そう、なんだ……。こ、個性的な字だね……今ならもうちょっと上手く書けるんだけど……(私が書いたの……!? 下手くそなんて言っちゃった……味のある字よねっ……!)」

 

 

 自分の文字だと言われたアリアは“こんなに下手くそだったなんて……”と過去の自分の恥部を“個性的”と置き換えておいた。

 

 ……自分で自分を悪く言うことはしたくない。

 過去の自分のダメなところは、今の自分にとっては愛おしい失敗であり、成功への軌跡となった。

 

 今の自分は文字も相変わらずちょっと癖はあるが、アベルのハンカチに刻まれた文字よりも上手に書けているのだからそれでいい。

 

 できればそのハンカチは焼いてしまいたかったが、アベルにとっては大事なものらしいし、気にしなければどうということはないのだ。

 

 

「フフ。これを手に巻いてくれるかい? これなら絶対目に入るし、気が付くよ」

 

「あ、うん」

 

 

 アベルがアリアにハンカチを手渡すと、彼女は“アヘル”の文字が見えるようにアベルの手にそれを巻いて結んだ。

 

 

「……うん、いい感じ。これならきっと大丈夫」

 

「アベル……」

 

「アリアも一緒だし……きっと大丈夫だよ」

 

「うん……」

 

 

 ハンカチが巻かれた左手を手の平、甲と交互に動かしてみせて、アベルは不安そうなアリアを抱き寄せる。

 

 

「……アリア、行こうか」

 

「はい……」

 

 

 ……結局二人ができる対策は大したことはなかった。

 

 

 アリアを同行させ、自我を封じられたなら、ハンカチを見て彼女を思い出す……。

 

 

 その二つしか、二人には用意ができなかったのだ。

 意識を強制的に支配されるあの空間で、どこまでその支配から抜け出せるのか――。

 

 

 二人はそれ以上なにも言えず、黙り込むと口付けを交わす。

 互いに触れた唇から不安が解けるような気がして、少しの間二人は屋敷の陰で寄り添い合った。

 

 

 

 

 ……そしていざ、ルドマンの屋敷へ――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アベルとアリアは互いに手を繋ぎ、ルドマンの屋敷――閉じられた玄関扉の前に立っていた。

 ルドマンの屋敷の立派な玄関扉が、まるで魔界の扉のように感じられる。

 

 禍々しさがあるわけではないというのに、この扉を開けるのが、アベルは少し怖かった。

 

 

(この扉を開けると……いや、確か応接間までは平気だったような……?)

 

 

 アベルは扉に手を掛け、隣に立つ彼女を見下ろした。

 

 

「…………アリアが先に行くかい?」

 

「あ……さすがに先に入るのは気が引けるかな……。手を繋いで入って行くのも気まずいし……すぐ後ろについていくよ」

 

 

 アリアはアベルから手を放し、アベルの背後に回るとぎゅっと後ろから抱きつく。

 離れたくないのだろうか……、背に触れる柔らかく温かい感触が心地良く感じられたアベルは目を細めた。

 

 

「そっか……。君が居てくれるなら、僕は安心だよ」

 

 

 ――アリア、絶対結婚しようね。

 

 

 アリアから回された手を取り、アベルは彼女の左手薬指に口付けた。

 

 

 ……アリアは手を放し、アベルから離れると彼のマントをちょんと抓む。

 控えめに引かれたマントが少しくすぐったく感じたが、アベルは嬉しかった。

 

 

「……ちゃんとついて来てね」

 

「うん、アベル♡」

 

 

 アベルの声に、アリアは素直に従う。

 

 

 ……このままならきっと上手くいく。

 

 

 【世界の理】の思惑など、これまで変えてきた未来同様、捻じ曲げてやる。

 未来は自らの行動によって常に変化し、自ら望んだものを掴み取ることができるのだ。

 

 

 

 

 二人で立ち向かえばきっと未来を変えることができる……。

 

 

 

 

 ……アベルとアリアは、この時までそう思っていた――。

 

 




アベルのハンカチはゲーム中に関係ありませんが、このお話の中ではよく出て来る道具が色々あります(ちなみにアベルのハンカチは昔旅先でパパスが買い与えたものです。模様や色は特に決めていないので詳しい描写もなしです。子ども用なので可愛らしいとだけ)。

特に安眠まくら・いのりのゆびわは頻回してるかな。
いつかMVPとか順位表作ってみるのも楽しそうです。

小道具好きだわ~……。

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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!
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