ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

ちょっとしたホラー。
ほらほら!

では、本編どぞ。



第六百十三話 ホラーハウス

 

 ……もう十年以上前のことだ。

 

 ラインハット城の一室で、幼いアベルはヘンリーと一緒に文字の練習をした。

 そこには小さな天使の女の子がいて、その子はアベルのハンカチに覚えたての文字で間違ってはいるがアベルの名を書いてくれたのだ。

 

 アベルはそのハンカチを大事にしていたが、ハンカチは奴隷生活中は行方不明となり、その存在も忘却の彼方へ。

 奴隷生活の終わりにハンカチと再会し、アベルは彼女を強く想ったものである。

 

 ……再会した彼女は記憶を失くしていたが、アベルはその記憶を取り戻すために奮闘し、見事記憶を一部取り戻すことに成功した。

 要所要所で彼女の涙を拭ったり、顔を拭いてやったりとハンカチの出番は少なくない。

 

 

 

 

 ……そんな思い入れのあるハンカチを、アベルが忘れるはずがなかった。

 

 

 

 

 アベルはアリアの存在を思い出したのだ――。

 

 

 

 

 彼女を思い出した途端、さっきまでの頭痛は消え去り頭の中は冴え渡る。

 

 

 

 

「アリア」

 

 

 

 

 アベルがぽつりと零す。

 目の前のビアンカが、その言葉にピクリと身体を揺らした気がした。

 

 

「……ビアンカ……?」

 

 

 アベルはハンカチから目を離し、ビアンカを見上げる。

 するとビアンカはさっきまでと打って変わり無表情になってしまったが、瞳から涙を零していた。

 

 

「ビアンカ……、君も思い出したんだね……?」

 

 

 アベルが訊ねても、ビアンカは無表情のまま何も言わない。

 恐らく言うことができないのだろうとアベルは察して、フローラとルドマンの様子も窺う。

 

 

「フローラさん! ルドマンさん! 僕とアリアは本当は兄妹なんかじゃないんです。僕はアリアと結婚します!!」

 

 

 アベルは宣言しながら二人に駆け寄るが、二人も言葉を失くし、さっきまでの緊張した顔や赤い顔は消え失せ、無表情のそれ……。

 ビアンカ同様、二人は言葉を発することはなく、瞳には涙を湛えていた。

 

 

「……僕はアリアを愛してる。だから二人を選ぶことはできません。フローラさんごめんね。どうか別の方とお幸せに! 失礼します……!」

 

 

 ――僕は【世界の理】に打ち勝つことができたんだ……!

 

 

 ルドマン達の様子はおかしいが、アリアを思い出したことにより、アベルははっきりと彼女との結婚を宣言することができた。

 アリアがこの場にいないため、やはりルドマンの屋敷に来れなかったみたいだと気付いて、アベルの足は扉へと向かう。

 

 

 ……早くアリアと合流しなければ。

 

 

 “自分が彼女を思い出せば、どうとでもなる……!”

 

 

 アベルはこの時までそう信じて疑わなかった。

 

 

 

 

「あら いやですよアベルさん。年寄りをからかわないで下さいな」

 

 

 

 

 ……玄関ホールに続く応接間の扉を開くと、先ほどの召使女性がまるで通せんぼでもするかの如く、背筋を伸ばし立っているではないか。

 アベルの姿を見るなり照れた素振りで片手を軽く挙げ、やって来たアベルの腕を叩いた。

 

 

「っ……あの! アリアが! 僕の花嫁が外で待ってるんです、ここを通して下さい!」

 

 

 アベルが退いてもらおうと声を掛けるが、途端、召使女性の顔が無表情に変わる。

 

 

「その方向にはダレモイナイ。」

 

「っっ!?!?」

 

 

 お面のように張り付いた無の表情の召使女性にアベルは身構える。

 昨夜ルドマンから聞いた同じセリフに戦慄した。

 

 召使女性が退く気配はなく、彼女は腕を組み仁王立ちを始めてしまう。

 

 

 

 

 ……フローラかビアンカか、どちらかを選べ……という無言の圧力を感じた。

 

 

 

 

 アベルがそっと横から出ようとすると、召使女性はそちらに身体を倒し、無表情のまま邪魔をする。

 反対側を試しても同じだ――。

 

 

「あら いやですよアベルさん。年寄りをからかわないで下さいな」

 

「僕はアリアと」

 

「その方向にはダレモイナイ。」

 

「っく……!」

 

 

 アベルの様子に召使女性がまた同じことを言い出すので、アベルも再びアリアの名を出してみる。

 するとまた同じ言葉を彼女は吐き出していた。

 

 

 ……アベルはそれを何度か繰り返した。

 

 

 そうして、10回ほど繰り返し漸く悟る――。

 

 

「……っ、出られないというのか……?」

 

 

 ――せっかく思い出したのに……!! 【世界の理】め……!!

 

 

 愛しい恋人の記憶を思い出したというのに、この屋敷から出られないとは……。

 

 力づくで出ようかとも思ったが攻撃呪文は発動する気配がないし、罪のない人を傷つけることもしたくない。

 

 

「……っ、どうすればいいんだ……! このままじゃ……!!」

 

 

 アベルの額から冷や汗が零れ落ち、彼はどうにかこの屋敷から出る方法を探すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(窓から出られないだろうか……。)

 

 

 ……アベルは応接間奥にあるダイニングへと向かう。

 

 

「っ、開かない……!!」

 

 

 窓枠に手を掛け窓が開かないが試すが、窓はビクともしなかった。

 窓の外の様子を見てみたが、外にアリアの姿は見当たらない。

 

 いったいどこへいったのだろう。

 

 

 ――アリア……近くにいるよね……?

 

 

 アベルは不安に駆られ、開かない窓から離れて、次の手を探す。

 

 

(二階から出られないだろうか……。)

 

 

 そう考えながらルドマン達の横を通り過ぎたアベルだが、ルドマン達は無言のまま固まっており、アベルには見向きもしなかった。

 

 

「……はぁ……怖いよアリア……助けて」

 

 

 ……二階へ続く階段を上りながら、アベルの口からつい泣き言が漏れ出てしまう。

 

 

 この屋敷にいる人々はアベル以外、操られたように同じことと謎の言葉しか吐かない。

 

 

 アリアなら「怖かったね」と、きっと自分を包み込み慰めてくれただろう。

 彼女の前では常に格好良くありたいアベルだったが、同時、甘えもしたい。

 

 ありのままの自分を受け入れてくれるアリアに、アベルは全幅の信頼を寄せているのだ。

 

 

「あっ!」

 

 

 二階に上がり、昨夜訊ねたルドマンの部屋を訪れると、ルドマン夫人がお茶を飲み飲みやって来たアベルと目を合わせる。

 

 ……目を合わせるなり夫人は話し始めた。

 

 

「なんだか私の若い頃を思い出すわ。うちの人もね私と結婚するために危険な冒険をしたのよ。それで大ケガをして……。何日も看病したわね」

 

「……何日も看病……。アンディさんみたいだな……」

 

 

 突然話し掛けてきた夫人に、アベルはなんとなくアンディを思い出し呟く。

 何気なく呟いたアベルの声に夫人は眉を下げた。

 

 

「アンディ……。そうね、あの子フローラのために大ヤケドを負ったのよね……」

 

 

 夫人の言葉にアベルはハッとした。

 

 もしかして夫人は【世界の理】から外されているのでは……と、アベルはアリアのことを訊ねてみる。

 

 

「あ、あのご夫人……!」

 

「はい……?」

 

「僕、アリアと結婚したいんです……!」

 

「アリア…………――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア、アリア――――

 

 

 

 

 アベルがアリアの名を出すと夫人の瞳は濁り、瞬刻、壊れた人形のように抑揚のない声で何度も彼女の名を繰り返した。

 

 

 

 

「わぁああああっっ!! すみませんでしたぁああああっっ!!」

 

 

 

 

 アベルは自身を見つめながらぶつぶつと呟く夫人が恐ろしくなって部屋から飛び出す。

 

 ……扉が開いたままの部屋からはまだ「アリア、アリア」とルドマン夫人の声が聞こえていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリア……」

 

 

 ――絶対ここから脱出してみせるから、待っててね……!

 

 

 ふとアベルは二階にバルコニーがあったことを思い出し、そこから下りようと考えバルコニーに出ることにした。

 

 

「……よし、ここから下りればあとはアリアを捜すだけ……!」

 

 

 地上を見渡してもアリアの存在は見当たらなかったが、もしかするとまた教会に行っているのかもしれない。

 

 

 アベルは一刻も早くこの奇妙な屋敷から出たくてバルコニーの手摺りに足を掛け……――

 

 

 ……ようとしたのだが、アベルの足は見えない何かに弾かれてしまった。

 

 

「っっ!?!?」

 

 

 ――なに? なんだ……見えない壁……?

 

 

 アベルが手摺りの上に腕を突っ張ると、そこには何も見えないのに、何かが触れている。

 

 

 ……見えない壁に囲まれているようだ……。

 

 

「なんで……、ここまでするか……?」

 

 

 アベルは見えない壁に拳をぶつけてみたが壁は衝撃もなく、ただアベルの拳を受け止め、その場に彼を留めた。

 

 

「……っ、これじゃあ……僕は、アリアと結婚できないじゃないか……!!」

 

 

 アリアの姿も見えず、自分はルドマンの屋敷に囚われたまま。

 ここから出るには、フローラかビアンカにプロポーズしなければならない……。

 

 

 ……アベルは打ちひしがれ、その場にへたり込んだ。

 

 




ほらーね~!(まだ言うか)
夏なんでちょっとホラーもいいかな、なんて。

アリアの名前がキーになっているのか、ルドマンの屋敷内ではアベル以外の人物はおかしくなってしまうようです。
ループ処理がうまくいってないみたいですねえwww

アベルにしてみたら恐怖ですよね……。

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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!
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