あぁ~……九十三話と逆なんだけど。
バイバイですよ、バイバイ。
では、本編どぞ~。
「っ……!? ぁっ」
アベルの声が届いたのか、アリアの肩がビクリと揺れる。
彼女は俯いた顔を上げ、一瞬安堵したような様相を見せたものの、すぐに瞳が大きく見開かれまた俯いてしまった。
「ぁ……、ぇと……。お、おめでと……」
アベルがフローラに付き添われやって来ると、アリアは俯いたまま、その表情はよく見えないが口角を上げている。
「アリア……? なに言ってるんだ……?」
「お姉さま……??」
アベルとフローラは二人して首を捻った。
「……ぇっと……ご、ごめんねアベル、フローラさん。私、もう一緒に旅を続けられなくなっちゃった」
「は? なに言って……」
――アリアいったいどうしたんだ……?
……アリアの声が震えている。
どうにか絞り出すように、彼女はゆっくりとか細い声で続けた。
「い、急ぐから、二人の結婚式も……出られそうにないや……。でも、二人の幸せは祈ってるから……」
「……アリア?」
アリアの様子がおかしい気がして、アベルはフローラから離れ、彼女の頬に触れようと手を伸ばす。
ところが――。
「……さよならアベル」
“パシンッ!”
アリアはアベルの手を跳ね除けると急に身体を反転させ、走り出した。
「あっ! アリアっ、待って……! なんでっっ!?!?」
――くそっ、足が痛くて走れない……!!
アベルも走り出そうとしたが、捻った足が痛くて走れない。
……このままではアリアは独りでどこかに行ってしまう。
アベルの顔は青褪め、アリアに弾かれた手をそのままに固まっていた。
ルドマンの屋敷に入るまでは、あんなにくっついて離れなかった彼女が――。
……アベルはまさかアリアが、自分から逃げるとは思わなかったのだ。
(いったいどうすれば彼女を引き留められる……!?)
せっかく【世界の理】の強制力を突破したというのに、これでは意味がない。
ここまで頑張って来たアベルだったが、アリア本人から別れを告げられるとは……絶望しかない。
歩くことはなんとかできるが、足が動かなかった。
……アリアの拒絶がアベルの動きを停止させている。
そんな時、アベルの横を風が通り過ぎていった――。
「はぁっはぁっ、アリアのバカぁああああーーっ! 勘違いよーーっっ!!」
……ビアンカの声だ。
ビアンカが駆けて来て、アベルの少し前に立つと、口元に両手を添え大声でアリアの背に言葉を投げ掛けていた。
「っっ!?!?(勘違いっ……!?)」
走っていたアリアの足が止まる。
アリアはビアンカの声に振り返り、ビアンカの様子を窺った。
ビアンカは再び走り出し、アリアの傍まで行くと彼女を抱きしめる。
「アリアごめんっ! 私が黙ってたからいけなかったのね……! 全部説明するから戻って来て……!」
「ビアンカちゃん……」
――ビアンカちゃんも振られちゃったんだもんね……、ビアンカちゃん好い匂い……、説明ってなんだろう……?
ビアンカに抱きしめられたアリアは、甘えるように
……ビアンカとアリア、二人はアベル達のいる町の入口まで戻って行く。
「アベル怪我が酷いの、回復してあげてくれない?」
「……怪我ならフローラさんが回復できるんじゃ……?」
アリアが反論すると、ビシッ!
アリアの額にビアンカの手刀が入っていた。
「ぃ、痛っ……! ビアンカちゃん痛いよっ!?(な、なんでチョップ!?)」
アリアは額を押さえ、涙目で困惑した顔をビアンカに向ける。
「アリア、思い込み激し過ぎって言われたことない?」
「思い込み……?」
「アベルはフローラさんを選んでないし、私も選んでないわよ?」
「え……?」
――どういうこと……? だって、私……。
ビアンカの話にアリアはさっきまでの出来事を思い出していた――。
◇
◇
◇
……ルドマンの屋敷に二人で行こうと決めて、アベルを先頭にアリアは後ろについていた。
アベルがルドマンの屋敷へ入り、自分も……とアリアが玄関を通ろうとしたまさにその時――。
「っ……!?」
……アリアの身体は宙を舞っていた。
アベルがあっさりと通り抜けた玄関。急に扉が閉じたのではない、扉は開いたままで、アリアは透明な何かに弾き飛ばされたのだ。
“ドサッ……!”
と、宙に浮いたアリアの身体が、ルドマンの屋敷前の石畳の道に打ち付けられる。
「ぅぅ……なに……? こんなことがあるの……??」
アリアは背中を打ち付け痛みに苦しむが、なんとか立ち上がった。
扉の開いたルドマンの屋敷では、アベルを案内しながら中年の召使女性がアリアを無表情で見ている。
「……っ、でも諦めないって決めたんだもの……!」
アリアはもう一度アベルについて行かなくてはと玄関に向かう。
……扉はまだ開いたまま。
だが、扉に近付くと、玄関ホールにいたアベルの姿は見えなくなっていた。
「……アベル……、また操られちゃったの……?」
――助けなきゃ……!
アリアは痛む背中をそのままに再び玄関の前に立つ。
足から先に入ろうとしたからいけなかったのかもしれない。
さっきは足から宙に浮いた気がして、アリアは今度は手を差し出してみた。
「っ……弾かれる……」
“バチバチッ!”と電流のようなものがアリアの手を弾くので、咄嗟に手を引っ込める。
「痛っ……! なに? 電気……??」
アリアの手は火傷を負っていた。
玄関に触れた手は赤く
「……ベホイミ! 負けないんだから……!」
アリアは回復呪文を唱えて手を回復。ついでに背中の痛みも消え、再び手を玄関に
「……ぅーん……、呪文でどうにかなるかな……」
自分の憶えている呪文で有用なものはなにがあるだろう……、考えてみるがこれといって使えそうな呪文が思い浮かばない。
下手に攻撃呪文を放てばルドマンの屋敷を破壊してしまいかねない。
……ちょんちょん、と、アリアは人差し指で軽く見えない壁に触れてみるが、壁からパチパチッと白く放電するような光が放たれ、アリアの指先を傷付ける。
「っ……私を拒絶してるのね……」
――でも、もうアベルと離れたくない……!
アリアは【まふうじのつえ】を取り出し、壁があるなら壊せばいいと、玄関に向けて振り下ろした。
【まふうじのつえ】は空を切り、なんの手応えもなく玄関ホールの床に“カツン”と音を立てるだけ……。
「魔封じの杖はよくても私はダメってこと……?」
もう一度と、アリアが手を翳せばやはり“バチバチッ”と拒絶するようにアリアの手の平を傷付ける。
「っ……どうすればいいの……!?」
――諦めないって決めたのに……!!
アリアは思い切って両腕で玄関の見えない壁を叩く。
……が、壁にふれた腕に激痛が走り、アリアの前腕は焼け
「ぅっ、ぅっ……、痛いっ、よぅ……っ! でもっ、諦められないの……! 私、アベルと結婚するんだからぁっ……!」
今度は脚を上げ、蹴りの格好で中へ入れないか試みる。
先ほど足から入ろうとした時、電流は感じなかった。靴底が絶縁体となるから火傷を負うことはないだろう。
……そう思ったのだが。
「ぅ、わぁあああっ……!!」
――そうだ! 足からだと弾き飛ばされるんだった……!!
アリアが気付いた時にはもう、身体は宙に浮いて、前回よりも早いスピードで勢いよく弾き飛ばされてしまっていた。
“バッシャーーン……!!”
アリアの身体はルドマンの屋敷からずいぶん離れ、角度が悪かったのだろう、本宅と別荘を隔てる小川の中へと落下する。
(ウソでしょ……、川に落ちるなんて……!)
幸いなことに小川の水深は浅く、流れも穏やかでアリアはどうにか岸に上がった。
「……ぅ……、ぅっ、ぅっ……」
なんとか岸に上がったアリアだったが、頬には涙が伝っている。
涙で視界のぼやける中、ルドマンの屋敷の玄関扉に目を向けた。
……扉は開いたままだ。
扉は開いているのに、アリアは中に入ることが出来ない――。
諦めないと決めたのに、ずぶ濡れになってしまった。
ずぶ濡れのままあの玄関の見えない壁に触れれば、自分は感電死してしまうだろう。
「……ごめんね、アベル……、やっぱり私とあなたは結ばれることはないんだよ……」
……諦めたいわけではない。
だがこれ以上アリアにはなにも出来そうになかった。
結局アベルはビアンカとフローラ、どちらかと結婚するのだ。
……お互いの気持ちなど、既に未来が決められた世界ではやはりどうでも良かったのだ。
「あはは……やっぱゲームだもん……そう、だよ、ねえ……?」
“アハハハッ!!”
アリアはなにが可笑しいのかわからずに笑い出す。
頬には滂沱の涙――。
だが、その表情は笑顔だ。
「アハハハハッ!! あはっ……! ウフフフッ!! アベルッ……!」
“バイバイ、アベル! お幸せに……!”
……アリアはルドマンの屋敷を遠見し、ずぶ濡れのまま町の入口に向け歩き出す。
アリアの周りには黒い靄が色濃く渦巻いて、彼女は一度もルドマンの屋敷を振り返らなかった――。
あまりに悲しくなり過ぎると笑っちゃう。
アハハハッ!!
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!