ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

今回で妖精の世界ともお別れです。

では、本編どうぞっ。



第六十一話 春風のフルート

 さて、【キメラのつばさ】で妖精の村まで戻って来たアベル達は、疲れた身体のままポワンの待つ切り株の城へと向かった。

 

 

「まあ! それはまさしく春風のフルート! さあ、アベル。あなたのお顔をよく見せて下さいな」

 

 

 アベル達が【春風のフルート】を手に、ポワンの座する場まで赴くと、ポワンが優し気な笑顔で迎えてくれる。

 

 アベルがちょっぴり恥ずかしそうにポワンの傍へと寄っていくと、ポワンはアベルの頬を優しく包んだ。

 

 

「まあまあ、こんなにボロボロになって……。大変だったでしょう?」

 

 

 ポワンはアベルをちらりと見て、後ろに居るアリア達にも視線を送る。

 ベラとアリアは目礼だけ返した。

 

 

 あの時、氷の館を出てすぐ【キメラのつばさ】を使っていればこんなことにはなってなかったんですけどね……。

 

 

 ベラとアリアは互いに顔を見合わせ「はは……」と小さく笑う。

 

 

「今、回復をして差し上げましょう」

 

 

 ポワンがアベルの頬から手を放し目を閉じ祈ると、アベル達の体力、魔力共に回復したのだった。

 そうして、再びポワンはアベルに向き直る。

 

 

「アベルや、よくやってくれました。これでやっと世界に春を告げることが出来ますわ。なんてお礼を言えばいいのやら……」

 

「お礼なんて……」

 

 

 アベルはポワンに見つめられ、照れた様子で後ろ頭を掻いていた。

 

 

「そうだわ、約束しましょう。あなたが大人になり、もし何かに困った時、再びこの国を訪ねなさい。きっとチカラになりましょう。いいですか? よく覚えておくのですよ」

 

 

 ポワンはアベルに言い聞かせるように告げて、小指を一本立て、アベルの小指に絡める。

 指切りげんまんをしたのだった。

 

 

「さあ、そろそろお別れの時です」

 

「アベル、あなたのことは忘れないわ。あなたも私のこと忘れないようにこれを持って行ってね」

 

 

 ポワンの声に、ベラがアリアとプックルから離れ、アベルの傍へとやって来ると、木の枝をそっとアベルの手に持たせる。

 

 

「ベラ……」

 

「その枝は今は寒くて枯れかかっているけど……。世界に春が告げられれば、すぐに元気になると思うわ。それじゃ、元気でね。アベル」

 

 

 楽しかったわ、とベラはアベルの頭を撫でた。

 

 

「……アリア。あなたもこちらに残るのでしょう?」

 

「へ? あ……、そっか……はい。そうします」

 

 

 ポワンが薄っすらと口角を上げて告げると、アリアはアベルとプックルから離れようとするが、

 

 

「アリアっ!」

 

「っ……!?」

 

 

 アベルはアリアの手首を握ったのだった。

 

 

 

 

「イヤだっ……!」

 

 

 

 

 アベルは眉間に皺を寄せ、ぎゅうぅっとアリアの手首を握りしめる。

 

 

「アベル……(痛い……っ! 力が強いんだってば……!)」

 

「これでお別れだなんて言わないよね……!?」

 

「きっとまた会えるよ……?」

 

「アリア、僕と一緒に冒険しようって言ったよね……!!」

 

「でも、私、自分のこと探さないと……」

 

 

 アリアが手を解こうとするが、アベルは絶対に逃がさなかった。

 

 

「まあ……ふふふ、どうしましょう。アベルはアリアがお気に入りなのですね」

 

「っ、何か懐かれちゃってて……いたた……」

 

 

 様子を見ていたポワンが微笑ましいわねと声を掛けるが、アリアは握られた手首が痛くて顔を顰める。

 ベラも「痛そー……」と遠巻きで見ていた。

 

 

「……アベル。女の子をそんな乱暴に扱ってはいけませんよ?」

 

「え? あっ……」

 

 

 アベルはアリアが痛みに涙目になっているのに気付き、慌てて手を放す。

 アベルが掴んでいたアリアの手首は真っ赤に色付いていた。

 

 

「ごめんなさい」

 

 

 僕はただ、手首を握っただけなのに……。

 女の子ってこんな簡単に怪我するの……?

 

 

 アベルは素直に詫びる。

 

 

「ううん、いいの。アベルって握力すごいよね(さすがは主人公……!)」

 

 

 アベルが謝るとアリアは首を左右に振り、赤くなった手首を擦りながら許してくれた。

 アベルは直ぐ様アリアに【ホイミ】を掛けたのだった。

 

 

「……では、こうしましょう。アリアはアベルを人間界まで送っておあげなさい。そして、再びこちらに戻って来ると良いでしょう」

 

「え……?」

 

「しばらく会えなくなることですし、しっかりお別れをした方がいいと思いますよ?」

 

「…………それもそうですね。今までアベルにはお世話になったし」

 

 

 ポワンの話にアリアが頷く間、アベルも何度も首を縦に下ろし同意する。

 ポワンは「アリアが戻って来た時には道を開くようにしますから安心するように」と告げて、春風のフルートをそっと唇に当てた……。

 

 ポワンが吐息を吹き込むと、優しいフルートの音色が村に響き渡る。

 すると、切り株の枝の先に桜が咲き始めたのだった。

 

 

「ぅわぁ~……桜の樹だったんだ……!!」

 

 

 異世界で桜が見られるとは……!

 

 

 徐々に乱れ咲く桜の花に目を奪われ、アリアは目を細める。

 毎年川沿いの桜を眺めたよね~と、郷愁を感じた。

 

 

「綺麗だね……」

 

「ね~!」

 

 

 隣に立つアベルも桜を見上げて瞳を輝かせている。

 

 そこへ、

 

 

 はらはらと。

 

 

 桜の花びらが漂って来たかと思うと、アベルやアリア、プックルの周りを風に乗って回転し出した。

 次第にそれは桜吹雪のように二人と一匹を包み込む。

 

 

「あっ……!?」

 

「っ、な、何?」

 

「がうがうっ」

 

 

 二人と一匹の目の前の景色が徐々に淡い桃色の花びらで埋め尽くされていく。

 次第に目を開けてはいられなくなり、みな目を閉じた。

 

 

 

 

 

 アリア。

 あなたは今度こそ自分の意思で姿を見せることが出来るかもしれません。人間界ではお気を付けなさい。

 戻って来るのを待っていますよ。

 

 

 そして、アベル。

 ありがとう……。いつか、またお会いしましょう。

 

 

 

 

 桜吹雪で視界を遮られ、耳の奥に残ったのはポワンの優しい声だった……。

 




これにて、妖精の世界クリアーでございます。
いや、長かった。楽しかった~!

個人的にはもっと長く書いていたかったけど、早く青年期に行きたいのでこの辺で切り上げ先を急ぎます。

さて、次回アリアとお別れ……するのでしょうか?

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評価いただけるとモチベ上がりますので、良かったら下さいっ。
感想など頂けたらめっちゃ嬉しいです。

読んでいただきありがとうございましたっ!

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