どういう……ことなんですかね。
では、本編どぞ。
「ピエール君、長い間ありがとう……あなたがいたから私、ここまで生きてこられた。あなたにはお礼をいくら言っても足りないくらい。……先ずはどこかにルーラして新しい仲間を探すよ。無茶はしないから心配しないで?」
アリアは改めて振り返り、掴まれたピエールの手を両手で包み込む。
そして……泣き腫らした目で優しくはにかんだ。
「アリア嬢……、未練はないというのですか……?」
「……んー……そうだね……心残りはピエール君の素顔が見れなかったことかなぁ? ふふっ、イケメンなんだっけ?」
ピエールが訊ねるとアリアは楽しそうに笑う。
「……っ、そうですよ? アリア嬢が残ってくださればっ、っ、いつかお見せできたものを……くっ……残念ですねっ!」
いつもの朗らかなアリアのその姿に、ピエールは彼女を引き留めるのは無理だと悟り、腕組みしておどけてみせた。
――私の言葉で彼女を引き留められるわけがない……。
アベル殿でなければ彼女を引き留めることは無理だろう。
ピエールはわかっていたが、もし、彼女が留まってくれたらという淡い期待と、無理であってもアリアの心が少しでも軽くなる様に、笑ってもらえたらいい――。
新たな旅路のはなむけに、兜の中、頬に伝う熱い雫のせいで鼻声になってもピエールは言い切った。
「ふふっ、そうだね。それはアベルの奥さんにでも見せてあげてね」
ピエールの様子にアリアは一瞬眉を下げたが、また朗らかに微笑みピエールの肩をぽんと優しく叩いて微笑む。
「っ……(アリア嬢……!)」
――独りで行かないで下さい……!
ピエールはアリアの手が離れ、彼女がまた自身に背を向けるのを黙って見ていた。
きっと止めても無駄だろう……。
彼女は自分で決めたことは簡単には曲げない
……アベルと再会前の記憶喪失中も、今も、それは変わっていない。
独りで平気だと……平気なはずはないのに強がる
他人の心には敏感なのに、自分の痛みには鈍感な
いつも笑顔で取り繕ってる孤独な
……約11年前。
大怪我を負ったアリアはピエールに助けられた。
アベルには話していなかったが、ピエールがアリアを連れて修道院に向かっている際、意識は戻らなかったものの、彼女は
『おとうさん、いつあえるの? わたしさみしい。ひとりはもうやだよ、おとうさん……』
ルドマンも似たようなことを聞いたが、ピエールも聞いたことがあった。
……彼女が大人になり修道院から現れた時は、出逢った時のように凛としていてすっかり忘れていたが、今の彼女は笑顔なのに――淋しそうだ。
修道院の修繕が終わり、サラボナに行くと知ってからずっとそうだった……。
「……それじゃ」
――どこに行こう……?
背中にピエールの視線を感じるが、アリアは魔力を集中させ、行き先をイメージする。
手には【ひのきのぼう】……。
今までアベルから貰った数々の武器や防具は馬車に置いて来た。
アベルに選ばれたビアンカかフローラが使ってくれることだろう。
ただ、アベルに初めて買ってもらった武器の【ひのきのぼう】だけは金額も少額だからと貰っておくことにし、アリアは大事に握りしめる。
そうしている所へ……。
『ア……アリア、っ、……アリアーーッ……!!』
アリアの背中に聞き慣れた声が届き、そこへアベル達がやって来たのだ――。
◇
◇
◇
……アリアがさっきまでの出来事を思い出しながら、アベルの元へと戻って来る。
ビアンカに引き留められ、同じ選ばれなかった者同士……ということで逃げるに逃げられず、アリアは大人しく連行され、アベルも少しずつではあるが
「……あ……アリア……」
「……ぉ、おめでとう……」
アベルと、アリア……互いにそれぞれフローラとビアンカに付き添われ、町の入口までやって来ると、アベルはほっとしたような顔で彼女の名を呼ぶが、アリアは目を合わせようとはせずにぼそっと、先ほどと同じことを呟く。
「こら、アリアっ!」
「あぅっ……!(痛っ……!)」
バシンッ!! と、ビアンカの平手がアリアの背中を勢いよく叩いた。
「あっ、ビアンカ、アリアをいじめちゃダメだよ!」
「やだ、いじめてないわよっ、アベルの過保護!」
すかさずアベルがアリアの腕を引いて彼女を庇う。
……ビアンカは「ちょっと発破掛けただけよっ」と苦々しく笑った。
「っ……アベル、放して……」
「アリアっ……! どうして……」
アリアが放せと、引かれた腕に掛かるアベルの手を避ける。彼は困惑の表情ながらも言われた通りに手を放した。
……アベルの手が離れ、アリアは一歩後ろへ下がって距離を取る。
「……アベル、フローラさんと結婚するのね……?」
――アベルの顔……
アリアの目は伏せがちで、チラッとだけアベルを見上げてまた目を伏せてしまった。
アリアから見たアベルの顔は、さっきから黒い靄が邪魔をしていてよく見えない。呪いの残渣である黒い靄は大きくなってはいないが、色は濃く、アベルの顔を丁度覆ってしまっている。
……アベルが今、どんな顔をしているのか……アリアにはわからなかった。
「し」
「致しません」
“しないよ”
……アベルが答えようとすると、被せる様にアベルの隣にいたフローラがはっきり告げる。
「……え?」
「アリアお姉さま。私はアベルさんと結婚なんて致しませんよ?」
フローラはアリアの手を取り、両手で包み込むように握っていた。
そして優し気な瞳でアリアを見つめ、にっこりと微笑んでいる。
不思議とフローラの顔ははっきりと見え、またビアンカも然り。アベルの顔だけが靄に覆われ見えないまま。
……やはりヒロイン二人には不思議な力が宿っているのかもしれない。
「じゃ、じゃあ……」
アリアはフローラに手を取られたまま、今度は自分の横に立っているビアンカを窺う。
――もしかして選ばれたのはビアンカちゃん……?
アリアは結婚式に参加して欲しくて呼び戻されたのだと気が付き、目に涙が滲んで来るのがわかった。
だが――。
「私もしないけど?」
「え……? え?」
――どういうこと……?
ビアンカがあっさり否定するので、アリアは目を瞬かせる。
驚いた拍子に一粒、瞳から透明な雫が零れ落ちた。
「アリアお姉さま……♡(泣いてしまわれるなんて……なんてお可愛らしいの……!)」
「アリア……(嬉しくて泣いちゃうんだ……? ザ・女の子って感じね……! 私も見習わなきゃっ)」
フローラとビアンカは、アリアの不意の涙にいじらしさを覚え萌えてしまう。
……フローラは握った手を上下に揺らし、ビアンカはアリアの頭を撫でて慰めていた。
「あ……えっと……どう、いうこと……??」
状況がよく掴めていないのか、アリアは自分を慰めてくれる二人にそれぞれ目配せをする。
すると、フローラもビアンカもにっこりと はにかんでアリアから離れ、二人はアベルの後ろへと移動した。
フローラもビアンカもアベルとは結婚しないのです……。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!