ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

町の入口で……。

では、本編どぞっ。



第六百十九話 公開プロポーズ

 

「……アリア。僕、勝ったんだ。ハハッ……ちょっとこう……身形がぼろぼろなんだけど……」

 

 

 アリアの目に映るアベルの顔はまだ靄が掛かっていて、その表情はよく見えない。

 彼は頭の後ろを掻き掻き、アリアに一歩近づいたと思ったら片膝を地面につけて屈んだ。

 

 

「っ!? アベルっ!?」

 

 

 ――な、なに急に……? そんなに怪我が酷いの!?

 

 

 今、回復を……!

 

 

 顔は黒い靄のせいでよくわからないが、そういえばアベルの身体のあちこちに切り傷が見える。

 ……ルドマンの屋敷でいったいなにがあったというのか――。

 

 目の前で跪くアベルにアリアは【ベホマ】を掛けようと片手を差し出すも、その手をアベルは掴んでいた。

 

 

 

 

「……アリア。僕と結婚してください。僕とずっと……一緒にいよう? 僕達は今は互いに独りぼっちだから、二人で家族になろうよ。二人一緒ならきっと毎日が楽しいよ」

 

 

 

 

 ――もう僕達を邪魔する存在はいないんだ、だからアリア。

 

 

 

 

 アベルは掴んだアリアの手を握り、真っ直ぐに見上げた。

 

 

「ア、ベル……なに言って……? フローラさんとけっ……あ、もしかしてビアンカちゃん……?」

 

「……ビアンカも、フローラさんも、ルドマンさんも……祝福してくれるって」

 

 

 アベルのプロポーズにアリアはまだ【世界の理】に操られたままなのだろうか――彼女は戸惑うように首を傾げる。

 

 ……アベルはしょうがないかと、諭すように静かに告げて目を細めた。

 

 

「で、でも……」

 

「……アリアごめんね。私が黙ってたせいで、あなたを苦しめちゃったのね」

 

 

 戸惑いのアリアに、ビアンカが眉を寄せ声を掛ける。

 アベルの笑顔がよく見えていないアリアは、(アベル)の後ろに立つビアンカに視線を移した。

 

 ……アリアの視線を受けたビアンカは微苦笑を浮かべている。

 

 

「え……?」

 

「アリア……あのさ……ビアンカは……」

 

 

 ……なぜビアンカが謝るのだろう?

 そういえばさっきも謝っていたっけ……とアリアが思っていると、アベルが気まずそうに口を開いた。

 

 

「っ、アベル、私から言うわ! あなたは黙ってて。アリア、私ね……」

 

 

 ……ビアンカの声に、アベルは口を噤む。

 

 アリアはゴクリと咽喉(のど)を鳴らす。唾を飲み込む音がやけに大きく感じた。

 

 

「…………うん」

 

 

 ――ビアンカちゃん、いったいなにを言うつもりなんだろ……。

 

 

 アリアはアベルに捉まれていない側の手を胸の前に持ってくると、拳を握ってビアンカの発する言葉の続きを待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、結婚するの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……アリアが話の続きを待っていると、ビアンカが頬をほんのりと赤く染めて恥ずかしそうに呟いた。

 

 

「っ!? や、やっぱりアベルとビアンカちゃんは……!!」

 

 

 ビアンカの言葉に“ぶわっ”とアリアの瞳に涙が溢れ出し、アベルは肩を揺らし狼狽える。

 だがビアンカに黙っていろと言われてしまった手前、話が終わるまで待つしかない。

 

 ……アベルは握ったアリアの手に少しだけ力を込めた。

 

 

「だから、違うんだってばっっ!! 私、もう婚約済みなのよっっ!」

 

「へ……? 婚約済み……??」

 

「……私……半年後に結婚するの。や、宿屋の息子さんと……」

 

 

 ほら……と、ビアンカは自分の持ち物から銀色の指輪を取り出し、左手の薬指にそれを嵌め、照れた様子で掲げてみせた。

 

 ……ビアンカの左手薬指にはキラキラと輝く無色透明な石が光っている。

 然程大きくはないが、指輪の台座に収められた中石は【ダイアモンド】ではなかろうか。

 

 

「まあっ! 素敵な指輪ですこと!」

 

 

 アリアが反応する前にビアンカの隣りにいたフローラが、彼女(ビアンカ)の指輪を目にして瞳を輝かせた。

 

 “そうだったのですね、ビアンカさんには他の方が……よかった……”と、フローラはほっとしたように目を細める。

 

 ……自分のことはともかく、フローラはビアンカのことが心配だったようだ。

 

 

「え……? 宿屋の息子さんて……?」

 

 

 漸くアリアも反応をみせるが、瞬きの回数が多い。

 

 

 ――その石……、ダイア……モンド……だよね……?

 

 

 ビアンカちゃんが既に婚約している……?

 

 

 ……簡単に壊れることがないと言われている【ダイアモンド】は愛を誓うのに相応しいとされ、婚約指輪に使われることが多い石――。

 アリアがアベルからもらった【いのりのゆびわ】とはえらい違いであるが、今ビアンカはその指輪を手に、頬をほんのり赤くしてはにかんでいる。

 

 

 だが、はて。

 宿屋の息子とは……?

 

 

 ……アリアは状況がまだ飲み込めないらしい。

 どういうことなのか、目を瞬かせながらビアンカをじっと見つめた。

 

 

「山奥の村の……宿屋の息子さん……。フロントにいた人、優しい人でしょ……? そこそこ格好いいし……、私、彼と婚約してるの。だからアベルとは結婚できないのよ」

 

 

 ――あの人とは喧嘩中だし、新規旅行事業の下見もしたかったし、アリアのことも心配だったし、ついでに気分転換もしたかったし……、だからアベルとアリアの旅について行っただなんて……――言えない。

 

 

 アリアの視線に、ビアンカは頬を掻きながら目を泳がせる。

 

 

 ……ビアンカ、彼女の事情は色々とあるのだ。

 

 宿屋の息子と半年後に結婚する予定のビアンカだが、二人は現在喧嘩中――。

 しばらく冷却期間を置いて……と、宿屋の息子には会っていなかった。

 

 そこにアベルとアリアの訪問で二人の事情を聞き、アリアを不憫に思ったビアンカは、旅行事業もいつか手掛けたいと思っていたということもあり、下見がてら滝の洞窟までついて行ったという……。

 

 アリアがアベルとの仲を黙っていたことに腹を立てたビアンカは、滝の洞窟で自分が婚約中であることをアベルに教えたが、アリアを心配してついて来ただけだと皆まで言わなかった。

 アベルに、アリアにはルドマンの説得に協力する代わりに黙っておくようにと強制した――というわけだ。

 

 アリアのことがあまりに可愛くて、可愛さ余って憎さ百倍。

 マリッジブルーも入っていたのだろう、ちょっと意地悪をしてしまったかもしれない。

 

 

 後で二人には全部説明して謝り倒さないとね……なんて、ビアンカは反省していた。

 

 

「なんっ……え……えぇっ!?!? だ、だってビアンカちゃんアベルのこと好きって言ってたよね……!?」

 

「ええ、好きだった(・・・)わよ!? 過去形(・・・)過去形(・・・)! 今の私は彼が一番っ!」

 

 

 アリアが驚きの声を上げて思わずビアンカに指を差してしまう。

 人を指で指してはいけないのだが、アリアの気持ちがわかるビアンカは、はっきりとアベルへの想いは過去(・・)だと言ってのけた。

 

 過去形(・・・)……が、やけに強調されているではないか。

 

 

「……過去形……(そう強調しなくても……)」

 

 

 ――なんかへこむ……。

 

 

 ビアンカに“過去形!”と強調されアベルは未だ跪いたまま項垂れる。

 別世界のビアンカを好きな自分達がへこんでいる感情がなだれ込み、胸が痛かった。

 

 ビアンカから婚約していることは滝の洞窟で聞いてはいたが、アリアには黙っておけと言われ今の今まで黙っていた。

 それを聞いた時は落ち込み、しばらくへこんだものだが、アリアのお陰でなんとか立ち直れた。

 

 

 黙っていたビアンカも、まさかこんなにアリアを苦しめるとは思っていなかっただろう……。

 

 

「ごめんなさい。私も幼なじみなのに、独り仲間外れにされてたことが悔しくて……意地悪しちゃった」

 

 

 ……ビアンカは深々と頭を下げる。

 

 

「そ、そうだったんだ……。そっか……うん、私もごめんなさい……。私一人で勝手に勘違いしてたんだね……。フローラさんもルドマンさんも、兄妹だなんて嘘吐いててごめんなさい」

 

 

 アリアもビアンカに頭を下げ、フローラにも謝罪した。

 フローラの後ろには、ルドマンもやって来ており、黙って様子を見ている。

 

 

「いえっ、私はなにもっっ!」

 

 

 ――むしろ、兄と妹だと思っておりましたから、それはもうドキドキでしたわ……!

 

 

 ……とは言えないフローラは、アリアの謝罪を満面の笑みで快く受け入れた。

 フローラの後ろのルドマンも穏やかに微笑み首を左右に振っている。

 

 

「……アベルもごめんなさい……、私一人で勘違いしてたみたい、ね……?」

 

 

 最後にアベルにも謝罪を……。

 アリアが頭を下げるとアベルは項垂れていた顔を上げた。

 

 

「あ……ううん。謝らなくていいよ。アリアがしたいことがあるなら、僕はいつでも協力するから」

 

「アベル……あなたって……、あっ――!」

 

 

 アベルの優しい声が聞こえると、彼の顔に掛かっていた黒い靄が一気に晴れる。

 

 

 ……辺りを漂っていた小さな靄達も瞬時に霧散した。

 




なんとビアンカ、実は婚約してました……!

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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!
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