ウワサはいつの間にか広がっている。
では、本編どぞ。
「……アリア……??(アリアが消される……?)」
――いや、そんなはずないでしょ……、マザーは僕達の結婚を楽しみにしている いい人のはず……。
アベルは怯えるアリアの頭をぽんぽんと撫でてやる。
“消す”とは穏やかじゃない……この場合の
……確かにマザーは【メタルスライム】も真っ青な素早さの持ち主ではある、だが強さはどうなのだろうか。彼女と戦ったことはないし、そういう対象だと思ったことがないから見当がつかない。
ただ、マザー……彼女は物腰柔らかながらも、確かにアリアを掌握している。マザーを前にするとアリアは強く出ることができないから。
母親代わりだからそうなのかと思っていたが、もしかしたらそれだけではないのかもしれない――。
いつかマザーがどんな人なのかわかるといいな……と、アベルは別世界では気にしたことのなかったマザーの背景がちょっぴり気になってしまった。
「……コホン。あい、わかった。私の愛娘アリアとアベル、二人の結婚式を執り行おう。ささ、アリア、アベル。二人ともついて来たまえ。ああ、フローラとビアンカさんも」
……アベルがアリアを慰めていると、ルドマンが咳払いをして屋敷へ移動しようと誘う。
そういえば さっきから道行く人々がアベル達の様子を窺っていた。
町の入口とはいえ、昼間は人通りが多い。
アベルの公開プロポーズに拍手を贈る者、アリアを見てアベルを羨む者、フローラがフリーになったことを知り新たな婿に名乗りでようと浮足立つ者、ビアンカの美しさに溜息を吐く者、――様々である。
……とにかく目立つので一旦屋敷へ――ということらしい。
ルドマンはフローラとビアンカ、アベルとアリアを連れだって屋敷へ戻って行く。
屋敷に続くメインストリートでは、公開プロポーズを目にしていないはずの、一部の町の人々までもがアベルとアリアを見て拍手をしていた。
……アベルがプロポーズをしたのはついさっきのことなのだが、いつの間に知られたのだろうか――。
アベルとアリアは照れ臭くなってしまい、二人して軽く会釈しながら人々の前を通り過ぎた。
「おや ルドマンさん。新しく養女を取ったって聞いたよ。可愛い
「わっはっは。やあ ゆかいゆかい! もう聞いたのか、さすがだなあ。そう、私の新しい娘が結婚するのだよ! 町のみんなにも知らせて欲しい」
教会の前を通り掛かるとぽっちゃりした中年女性に声を掛けられ、ルドマンは朗らかに笑って答える。
ルドマンの後ろにはフローラとビアンカ、その後ろに手を繋いでいるアベルとアリアの姿があり、中年女性はにこにこと微笑んでいた。
「わかったよ、任せておくれ。もう一部には知らせたから……そうだねえ、結婚式が始まる前にはみんなに周知できるかねえ」
「ああ 頼むよ。ルーモア殿」
ルドマンは中年女性……【ルーモア】に軽く手を挙げ屋敷に向かう。
アベルとアリアは“なんなんだろう……”と、不思議顔ながらルーモアにも会釈してルドマンについて行った。
「うふふ。ルーモアさんは、町一番のウワサの早耳女王と呼ばれていますの。彼女に秘密を知られてしまうと、三日後には大陸中に知れ渡っているとか……。この町のウワサの発信元を辿ると 大体が彼女に行きつくそうです。ですからアベルさんとアリアお姉さまが結婚するウワサもすぐに広がりますわ」
「ええっ、そうなの!? すごいわねっ」
……アベルとアリアの前でフローラとビアンカの声が聞こえる。
「す、すごいね……、普通の人に見えるのに……」
「……あぁ……だから僕のことを町の人が知ってたのか……」
アリアがちらっと通り過ぎたルーモアを見ると、彼女はにっこり笑って手を振っていた。
……ルーモア、彼女は昨夜アベルが宿屋を出たところで鉢合わせた女性であるが、見た目はどの街にも居そうな中年女性である。
一見普通の人に見える人が、実はすごい力を持っていたりするんだな……、なんてアベルは町の人に自らのことを知られていた理由がわかり、噂の中心となるのは少し照れ臭かったが、アリアとの結婚が周知されるのは大歓迎――。
【世界の理】がいくら別世界の時間軸に戻そうとしても、周知されてしまった事実を捻じ曲げるのは難しいだろう。
――未来は変えられるものだ、これからも僕はアリアとまだ見ぬ未来を歩んでいく……。
ルーモアのことを詳しく知ったのもまた、初めてのことである。
……アベルは隣りを歩くアリアの横顔を盗み見て目を細めた。
◇
ルドマンの屋敷までやって来ると、屋敷の扉は開いており、中年の召使女性が玄関ホールで頭を下げてアベル達がやって来るのを待っている。
……ルドマンとフローラ、ビアンカは早々に屋敷へと入って行った。
最後はアベルとアリア――なのだが、アリアは玄関の前で立ち止まってしまう。
「アリア……? どうかした?」
アベルもアリアを窺い、立ち止まった。
「大丈夫かな……私、入れる……?」
「え……? 入れるってなにが……?」
――アリア震えてる……? なんで……?
扉が開いた玄関を前に、アリアの身体が僅かだが震えている。表情もなんだか暗い。
いったいなにがあったのだろうと、アベルは怯えるような様子の彼女の頬に触れた。
「あ、えと……さっき、玄関が開いているのに中に入れなかったの……。私、弾かれちゃって……」
「弾かれ……なっ……っ、そうだったんだ……」
アリアの言葉にアベルは息を呑む。
弾かれたとはいったいどういうことなのだろうか……。
……アベルは話の続きを待つことにした。
「うん……、私が入ろうとするとビリビリって小さな
「っ、それで髪が濡れていたんだね……可哀想に……。ごめん、僕が手を繋いでいれば入れたかもしれなかったのに」
そういえば……と、今は殆ど乾いているが、さっき抱きしめたアリアの髪が濡れていることにアベルは気が付いていた。
――僕が独りで先に行ってしまったからアリアは……。
やはりアリアはアベルとは違うところで苦労していたようだ。
彼女はぎりぎりまで諦めずに奮闘したが、命の危険を感じて諦めざるを得なかった――ということなのか。
(……やっぱり。僕が未来を変えようとする度にアリアに厄災が降り掛かるんだな……。)
……薄々感じていた因果がここに来て確信に変わる。
いや、本当はもうわかっていたのだが、アベルは認めたくなかったのだ。
アリアがそのことに気付いている様子はないが、この先彼女に幾度となく不幸が襲い掛かるのかもしれない……なんて、そんなこと認めるわけにはいかない。
これから結婚してアリアを幸せにしてやりたいと思っているのに、その結婚のせいで彼女が不幸な目に遭うかもしれない――などとアベルは考えたくなかった。
(僕のせいで――。)
――でも、手放せないんだ、ごめんねアリア……。
アベルは申し訳なさを感じながら、まだ少し濡れているアリアの髪を撫でる。
「ううん、アベルのせいじゃ……。原作の意志が拒んでいたからしょうがないよ」
アリアが優しく目を細め、首を左右に振ってアベルを見上げる。
……彼女はなにも知らない。
アベルが気付いた事実を話せばなんと言うのだろう。
結婚を辞めると言い出すかもしれない。
そしてアベルの前から姿を消すことだってあるかもしれない。
……そんなことをアベルが話せるはずもなく、彼は穏やかに微笑んでみせた。
「……アリア、きっともう大丈夫。一緒に入ろう」
「ん……、アベル……うん!」
罪悪感と共にアベルがアリアに唇を落とすと、彼女はぽっと頬を紅く染めて嬉しそうにはにかむ。
……そうして今度こそ、と。アベルとアリアは手を繋いでルドマンの屋敷の玄関を潜った。
「ぁ、入れた~……よかったぁ……」
「ほらね、大丈夫って言ったでしょ?」
無事に玄関を通過でき、アリアは胸に手を当てほっと一息吐く。
――あいつとあの空気を換えたんだ……もうこの屋敷は大丈夫なはず。
アベルは左手を見下ろす。
手には未だハンカチを巻いたまま。
窓に罅を入れた一瞬左腕に痛みを感じたが、今は特に痛みなどない。
……謎の人物の助けを借りていなければ、今自分はアリアとここにいなかった。
別世界と違う時の流れの始まりにアベルはアリアの手を引いて、ルドマン達が居るであろう応接間へと向かった。
教会の前に立ってたおばちゃん、名前を付けました。
その名は【ルーモア】。意味は「噂」ですw
※明日、明後日はお休みです。
次回は11日(金)投稿予定。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!