え、なになに、また告白……?
では、本編どぞ。
◇
アベルがアリアを引き連れ応接間に入ると、ルドマンは大きなテーブルの向こう、暖炉の前の席に腰掛け、フローラとビアンカがそれぞれテーブルの左右に立っている。
「……っ」
……この光景、どこかで見たような……と、アベルは既視感を覚え息を呑んだ。
なんだが空気が重い気がするのは気のせいだろうか……。
「アベル……?」
「あ、うん、大丈夫」
「ん? なにが?」
アリアが握った手を引いてくるので、アベルは彼女を安心させるように笑顔を向ける。
……アリアはなんのことかわからず首を傾げた。
「あ、ハハハ……」
「あ、恥ずかしいからもう手放すね……」
「え、あ……うん」
アベルにずっと手を握られていたアリアは、お屋敷の中に入れたし もういいよねと手を放した。
……実は恥ずかしかったらしい。
「さあアリア、お前は私の隣へおいで」
「え、あ、はい、お父さま」
ルドマンの隣に来るようにと促され、アリアは素直に従う。
……アリアの“お父さま”呼びにルドマンの顔は嬉しそうに綻んでいた。
「いいかいアリア。これからアベルには大事な選択をしてもらおうと思う」
「え、あ、はあ……(大事な選択ってなんだろう……?)」
ルドマンの言葉にアリアが要領を得ない様子で軽く頷く。
「……大事な選択ってまさか……」
テーブルを挟んだ向かい側でアベルは察した。
「さてアベル。花嫁候補が三人となったわけだが、キミは誰を選ぶんだね? ……まあ先ほど目撃したからな、わかってはいるが……一応この場で決めてもらいたい」
「っ、この場で決めてって……」
――なんだ……? なぜこんな意味のないことを……??
ルドマンがフローラ、アリア、ビアンカと三人を順に見ながらアベルに花嫁を選べと迫る。
アベルは察していたものの、この流れの意味がよくわからなかった。
また【世界の理】の強制力が働いたというのか――。
……とはいえ、答えは決まっている。
「……アリア」
「なんとこの私が好きと申すか!? そ、それはいかん! もう1度考えてみなさい」
テーブルの向かい側から、アベルは優し気な瞳でアリアに声を掛けるが、なぜかルドマンが反応して頬を赤く染めた。
「ルドマンさんぇ……?」
「わっはっは。やあ ゆかいゆかい! 私もまだまだイケるなと思っただけだよ。キミのような若者に好きと言ってもらえるとは嬉しいじゃないか!」
「いや、僕は好きなんて一言も言ってませんけどっ!?」
アベルが眉間に皺を寄せると、ルドマンは髭を
「ははは……お父さまってば、アベルにプロポーズして欲しかったんですか?」
「わっはっは。アリアは私のことをよくわかっているようだな。さすが私の娘だ。やあ ゆかいゆかい!」
――アベルに好きと言われると年甲斐もなくときめいてな……。
アリアのツッコミにルドマンが満面の笑みを浮かべ、髭を弄ぶ。
「えぇ……?」
――まさかルドマンさん、僕のことを……??
アベルはちょっと引き気味でルドマンを窺った。
ルドマンは笑顔のままで、アベルを見つめていて真意はわからない。
だが、彼の頬がほんのり赤い気がする……。
視線もなんだか……熱い、ような……。
……アベルは寒気を覚えた!
「…………(お父さま、アベルさんのことがお好きなのですね……)」
「…………(ルドマンさん、アベルのこと好き過ぎでしょ……)」
テーブルの両端でフローラとビアンカが生暖かい目をルドマンに送っていた。
どうやらルドマンは、アベルからの告白をもう一度受けたかったようだ。
そんなしょうもない理由でここに呼んだというのか……。
さて、気を取り直して――。
「……コホン、アリア」
――この世界のルドマンさんもやっぱり気の良い人なのかも……。
ルドマンの様子に別世界の彼を思い出すが、この世界の彼は癖が強い。気を抜かずに切り抜けなければ……。
アベルはテーブル越しだとルドマンが邪魔してきそうなので、アリアの傍まで移動し、彼女に話し掛けた。
……アベルが目の前にやって来ると、アリアは背筋を伸ばす。
「あっ、はい」
アリアにはこれまで散々プロポーズをした。
もう二人の間にこれ以上の言葉は必要ない気がして、アベルは彼女の手を取りシンプルに一言告げる。
「……結婚しよ?」
「ぁ、うんっ。しよっ♡ アベルのことずーっと幸せにしてあげるっ♡」
「あっ……それ僕のセリ……うん……♡」
アリアが掴まれた手を握り返すと、アベルは目を細めて頷いた。
「よし 決まったな! アリアを選ぶとはやはり私が思った通りの若者だな。では、さっそく式の準備だ! 花嫁の支度は私の別荘で整えさせよう」
ルドマンが手をパンパンと叩き合わせる。
……すると中年の召使女性が応接間にやって来た。
「お呼びでしょうか」
「ああ、アリアを別荘へ頼む」
「かしこまりました。ではお嬢さま、ご案内します。参りましょう」
ルドマンに呼び出された召使女性は、アリアに別荘へついて来るようにと促す。
「お嬢さま……? あっ、私か……」
……アリアは呼ばれ慣れていない呼称に、一瞬首を傾げるも召使女性の元へ向かった。
「待って下さい。私もお手伝いします」
「あっ、私も手伝います」
応接間から出ようとするアリアの後をフローラとビアンカが追う。
……女性達は皆応接間から出て行ってしまった。
「……ぁ……」
――この光景……見たことあるような……?
アベルは別世界と似たような光景に目を瞬かせる。
確か、ビアンカを選んだ時はフローラが、フローラを選んだ時はビアンカが支度の手伝いを申し出ていたような気がしたが、アリアが選ばれると二人が手伝いに行くのか……と、【世界の理】の強制力からは脱したと思っていたが、そうでもないようだとアベルは気が付いた。
(……まあでも……アリアと結婚できるなら……いいか……。)
いまさらアリアと結婚できないことはないはず――。
チラッとダイニングへ目を移し、先ほどアベルが割った窓を見る。
屋内の床にも飛び散ったであろう破片は既に綺麗に片付けられており、窓は現在修繕中。新しい窓と入れ替えるらしく、男数人が外で作業を行っていた。
……窓はもうすぐ元通りになってしまう。
アベルは僅かだが、警戒心を抱きながら窓の修繕作業を見守る。
そうしている内に新しい窓が嵌め込まれ、ルドマンの屋敷は元通りになってしまった。
「! ……ぁ……。はぁ~……」
――よかった……、やっぱりあの時だけ強制されたみたいだ……。
窓を割る前に感じていたあの妙な空気感を感じなかったため、アベルの口から安堵のため息が漏れる。
(けどアリアは別荘で支度して、ビアンカとフローラさんが手伝いか……。)
窓を割る前の時のように、強引な
……今に始まったことではないから、悲観したりはしない。アベルはそれはそれで、アリアに降り掛かる災厄も減るし、ある程度の未来予測も可能だとポジティブに捉えることにした。
ルドマン氏、アベルにもう一度告白されたかったみたい……☆
ただの茶番です茶番。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!