花達の――。
では、本編どぞ。
「あの、ルドマンさん、窓なんですが……」
「さて……。いよいよ結婚式だが……。実は山奥の温泉村の洞穴に腕のいい道具屋が住んでると聞いてね。花嫁に被せるシルクのヴェールを注文しておいたのだ。キミには花嫁のため、そのヴェールを取って来てもらいたい。キミが戻る頃には式の準備も終わるだろう!」
アベルが窓を割ったことを詫びようとすると、ルドマンは軽く手を押し出し、にこりと笑顔で何度か頷いてから、アベルの話を無視して花嫁のヴェールについて話し出す。
……ルドマンも【世界の理】の強制力から解放された身――。窓の一枚や二枚、気にするなということだろう。
「ヴェール……アリアを選んだのにいいんですか……? フローラさんのものだったんじゃ……」
ルドマン、彼の厚意にアベルはそれ以上窓については触れず、花嫁のヴェールについて訊ねた。
「なに、私の可愛い娘の結婚だ、いいに決まっている。ああ、フローラのことなら気にせんでいい。またいい相手が見つかるさ。それより、キミこそあとで後悔しないようにな。わっはっはっ」
「ルドマンさん……」
――ルドマンさんはやっぱり良い人なんだな……。
ルドマンが別世界と同じく気の良い貴族の顔で笑うので、アベルも釣られて口角を上げる。
この世界のルドマンは癖が強いなと思っていたのに、意外とアリアとの結婚をあっさり認めてくれて、結婚式も挙げてくれるとは……なんだか拍子抜けだが、中々手強かったのでこれでいい気がした。
「ではヴェールを頼んだぞ」
……ルドマンに見送られ、アベルは屋敷を出る。
「アリアと結婚っ……! っぅ! やっ……たぁああああっっ!!」
屋敷を出たアベルは両手拳を握り締め、力を込めてから万歳するように空に解放した。
『……アベル~!』
不意にアリアの声がどこからともなく聞こえてくる。
「ん……? アリアの声……? あ、アリア……! お~い!」
アベルが声のする方へ顔を向けると、ルドマンの別荘、二階の窓からアリアが手を振っていた。
……まだ着替えてはいないようだが、彼女は朗らかに笑っている。
アベルは破顔し、アリアに目一杯手を振った。
すると彼女が手招きをするが、アベルは首を横に振る。
――君に被せるヴェールを取って来るからね……!
アベルはアリアに再び手を振って、町の入口へ向け歩き出したのだった。
◇
「アベル行っちゃった……」
別荘の二階で、アリアはアベルが去って行く姿を残念そうに見送る。
二階には丸いテーブルと椅子が四脚設置され、その卓上には焼き菓子やケーキと言った甘味品が並んでいた。
……その内に召使女性が紅茶を淹れだす。茶葉の好い香りが窓際まで漂ってきた。
「アリア、なに不安そうな顔してるの?」
「あ、アベルがお屋敷から出てきたんだけど、どっかに行っちゃったの……どこ行ったのかなって……。一緒にお茶しようと思ったのに……」
テーブルを一瞥し、窓際に立つアリアの肩にビアンカが触れる。
「うふふ。アベルさんは、お父さまに何か頼まれたのかもしれませんわね。ほらアリアお姉さま、ビアンカさん、お茶が入りましたわ。座りましょ」
丁度階段を上がって来たフローラは、アリアとビアンカに席に着くよう促した。
アリアとビアンカは頷き「「わーい、スイーツ♡」」と顔を綻ばせながら椅子に腰掛ける。
アリアを挟む様にビアンカとフローラが席に着き、一つ席が空いているが、アベルが来るものだと思っていたのに、その彼はどこかへ行ってしまった。
「式前にこんなのんびりしてていいのかなぁ……。ぁぁ、おいひぃ……♡」
「ふふふ♡ お父さまのご指示だそうなので、いいのではないでしょうか」
……確か自分は結婚式の準備をするために別荘に来たはず――。
なのになぜ、こんなのんびりお茶をしているのだろう……。
アリアは目的を忘れてはいないが、目の前の【スライム】の形をした色とりどりの【クッキー】の中から一つ抓んで口に放り込む。
途端、至福に包まれ顔が勝手に綻んだ。
それをフローラが嬉しそうに眺め、紅茶の入ったカップを傾ける。
「ンッ♡ この柔らかいのおいし~!」
「あ、それマカロン! 私も食べる~」
「へえ、マカロンっていうんだ。カワイイ! おしゃれね~」
ビアンカが卓上にあったピンク色のマカロンに手を伸ばし、齧ると目元を緩める。
アリアもマカロンに手を伸ばそうとするが、位置が遠かったためフローラがにこにこしながら取ってくれた。
卵白とアーモンド、それから砂糖を原材料にしたコックと呼ばれる上下の甘い生地、外はさっくりしているのに中はしっとり。真ん中に苺ジャムが挟まっているのか酸味が絶妙にマッチして、ビアンカは上機嫌で一つ目を早々に平らげ、二つ目に手を伸ばす。
……二つ目は緑色のマカロン……いったいどんな味なのだろうか。
「ふふふっ、お二人に気に入っていただけたようで よかったです♡」
私も……と、フローラも黄色いマカロンを手にして齧った。
「ン♡ おいしい♡」
フローラの食べたマカロンはパイン味である。
甘酸っぱい爽やかな風味が鼻に抜けて、フローラは可愛く微笑んでいた。
「……わぁ~……なんだか夢みたい」
「ん?」
「はい?」
アリアがぼそっと呟くと、ビアンカとフローラが注目してくる。
「あ、えと、まさかヒロインのお二人と、女子会が出来るなんて思わなかったから」
――ゲームの中のヒロイン二人と、お茶が出来るとは思わなかったよ……。
アリアは紅茶を飲み飲み、二人を交互に見ながら告げてはにかんだ。
「「じょしかい……?」」
……はて、“じょしかい”とはいったいなんであろうか……。
ビアンカとフローラは互いに目配せをして首を傾げる。
「……うん。女の子だけで集まって、こうやってお茶を飲んだり、食事をしたりしながらお喋りすることを言うの。会社の子がよくしてるって聞いたことがあったんだけど、私はしたことなかったから、嬉しいなって」
「女子会……か」
「女子会……」
アリアの話にビアンカとフローラが、会社の子……という下りはよくわからないが、女子会を理解し始めた。
「ほら、女の子同士だと男の人に言えないことも相談できるでしょ?」
「ほう……」
「確かに……」
なるほど、女子会は男子禁制、女だけの集まり……。
ビアンカとフローラは理解したのか、うんうんと首を縦に何度も下ろす。
……そういえば私、同年代、同性のお友達とこんな風に集まったことなんてなかったわ――と、女三人それぞれ思うところがあり、互いに目を合わせた。
「女子会いいわね! たまにしたいわ!」
「私もです!」
「あっ、私も今言おうと……」
ビアンカの発声を元にフローラ、アリアと続き、三人はそれとなく手を繋ぎ合う。
三人は互いに笑みを交わしながら「また女子会しようね」と約束をした。
……それからは、結婚式の準備の声が掛かるまで他愛のない話をすることにし――、今日の話題はもっぱらアリアの結婚についてであるが、アリアが照れてスイーツの話題に話を逸らそうとするので、ビアンカとフローラはニヤニヤしながらアリアを
アリアは顔を真っ赤にしながら「このチーズケーキおいしいよねっ! あっ、このカヌレも最高っ♡」と必死に話題を逸らしていた。
……ルドマンの別荘、二階で急遽開かれたティーパーティーは女子三人の楽し気な雰囲気に包まれ賑やかである。
そんな中――。
ヒロインズとお茶したかってん……。
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