人間界に帰ってきましたよ……ってね。
では、本編どうぞっ。
第六十二話 もう少しだけ
「……ここは……」
アベルの瞳に、自宅の地下室が映る。
ゴロゴロゴロとプックルの咽喉が鳴る音が背後から聞こえていた。
「っ、そうだっ、アリアは……!?」
はっとして振り返ると、アリアはプックルを撫でている。
「あ、アベル。……もう少しだけ、一緒に居るね?」
「っ……よかった……」
アベルは“ほっ”と胸を撫で下ろす。
「ふふっ、アベルが納得してくれないと、私も離れ難いからね」
「納得なんてできないよ」
アベルはぷぅ。っと不満気に頬を膨らました。
アリアは
彼女と居ると感じる新鮮さをこのままずっと感じていたい。
アベルはどうにかアリアをこのまま引き留めようとしていたのだった。
「はは……そう我儘言わないで? 私だって自分のこと知らなきゃなんだしさ」
アリアはぶー垂れるアベルを宥める様に説得する。
私、天空人って云われてるけど、ゲーム的に多分モブキャラだと思うんだよね~……。
呪文使える今ならともかく、始めは姿見えない、戦えないっていう時点で、まるで役に立ってないから、そんなキャラが仲間だなんておかしいもの。
何の手違いで主人公と出会ったのかはわからないけど、モブはモブなりに自分のことを知りたいわけですよ……。
でなきゃ不便過ぎるわけで。
アリアは今の自分が何者なのか、真剣に考え始めていたのだった。
転生したとはいえ自分がわからないというのは、とにかく不便なのである。
「そんなの、僕と一緒にいて探せばいいんだよ。僕が手伝うし、父さんにも協力してもらえばきっと見つかるよ……!」
「うーん……そう、かなぁ……」
アベルも負けじと説得に掛かるが、アリアは腕を組んで思案顔である。
アベルは主人公だから、これからも旅したりするんだろうし、私の過去探しを手伝わせるわけには行かないよね……。
お別れしたら淋しくなるなーとは思うけど……、お姉さんはアベルの未来が明るいものだって信じてるからさ!
可愛いお嫁さん貰うんでしょ?
未来は明るいよねっ!
私は、二十八歳で未婚だったんだから……。
アリアは“結婚、してみたかったな……”と深いため息を吐いていた。
「はぁ……」
「……アリア? 何でため息? とにかく、僕は納得してないから! 行くよ!」
アベルはアリアの手を取り、繋ぐと強引に引っ張っていく。
「えっ、あっ! も~……!(ポワン様に言われたばっかりなのに強引なんだから……!)」
二人はそのまま地下室を出て階段を駆け上がった。
◇
「や! 坊ちゃん! 今までどこにっ!?」
「さ、サンチョ!? な、何……?」
地下室から一階へと戻って来ると、サンチョが驚きの表情でアベルを見るので、アベルは咄嗟にアリアを庇うようにして腕を広げた。
ところが、サンチョはこれまで通りアリアが見えない様子で、続きを話し出す。
「だんな様にラインハットの城から使いが来て出掛けることになったんです! 坊ちゃんも連れて行くつもりで、随分探したんですが……。見つからなくて、だんな様はたった今、お出掛けになられましたっ。すぐに追い掛ければまだ間に合うかもしれません」
「え……? ら、ラインハット……?」
その名前、聞いたことがある……!
何だっけ……。
すごく、重要なところだった気がするんだけど……。
アベルは額を抱えるが、何も思い出せなかった。
『ラインハット……?(新しい名前ね。お城があるってことは国かな……?)』
アリアは初めて聞く地名にどんなところなのだろうと首を傾げていた。
「さあ、坊ちゃん!」
「……わかった。追い掛けてみるね! アリアも行こう!」
アベルはアリアの手を引いて家を出ようとするのだが、アリアはその場から動こうとしなかった。
『っ、私は行かないよ!?』
「っ、なら、村を出るまで見送ってよ! それくらいいいでしょ?」
じっとアベルが見つめると、アリアは『っ、しょうがないなぁ……』と渋々了承して、手を繋ぎ直してくれる。
きゅっ、と手をしっかり繋がれて、アベルは安堵して漸く柔和に微笑んだ。
「……あの、坊ちゃん、さっきから何をおっしゃって……?」
最近独り言が多くはないですか……? と、サンチョは心配なのかアベルの元に寄って来る。
「おや? 坊ちゃん。ちょっとお待ち下さい。ポケットから何かが……」
サンチョはアベルのポケットから落ちそうになっていた木の枝を抜いた。
サンチョが手にした木の枝には、桜の花が愛らしく咲き誇っている。
「あ、それ、ベラにもらった……!」
アベルが指摘すると『咲いたんだね! 可愛い~!』とアリアが嬉しそうに微笑む。
「おお! これは見事な桜の枝ですな! そういえば少し暖かくなって来たから花が咲いたんでしょうか……。それにしても美しい! 坊ちゃん達のお部屋にでも飾っておきましょうか?」
「え? あ、うん」
「承知しました。では、坊ちゃんは急いでだんな様を!」
サンチョは桜の枝を優しい目で眺めながら階段を上がって行ってしまった。
「サンチョ、行っちゃった……」
「……そういえば、私。サンチョさんにお礼言ってないわ」
「ん……?」
「美味しいパンをありがとうって。本っ当に美味しかったんだから! ……あ、ベラちゃんが隠した包丁は見つかったのかな……? アベルを見送ったら、こっそり何かお手伝いしてから妖精の村に戻ろうかなぁ~」
アリアはサンチョの作ったパンが気に入っているらしく「作り方こっそり盗み見しようかな」などと今後の楽しみを話している。
アベルはそんなアリアの様子が面白くなくて、
「……………………し、好きにすれば?」
「え? 今何か言った……?」
「……へへっ、何も~……?」
アベルはアリアの手を引いて家を出たのだった。
“僕は君を
アリアが聞き取れなかった言葉には、アベルの本心が隠されていた。
我儘だと言われようと、アリアと別れる気などさらさらないのである。
◇
「……いない……。もう行っちゃったのかな……」
「う~ん……。でもさっき出たばっかりだってサンチョさんが言ってたよ……?」
自宅を後にし、村の入口側までやって来たがパパスの姿は既になく……。
二人は途方に暮れるものの、突然プックルがアリアにじゃれつき出すので……。
「わっ、プックルってば。くすぐったいよ……!」
アリアは「えい、お返しっ!」とプックルを仰向けにし、しゃがんで腹を撫でまわしたのだった。
ここか?
ここがええのんかぁっ!?
アリアはプックルのツボを探しながらわしゃわしゃと掻いてやる。
すると、
「ふにゃぁ~~~、ゴロゴロゴロ……」
プックルは幸せそうに目を細めていた。
「とりあえず、そこの門番のおじさんに訊いてみるか……。あの!」
アベルはアリアとプックルをその場に残し、村の入口に立ち村外を見張っている門番に声を掛けた。
アベルの声に村の外を見ていた門番が振り返ると、
「やあ。村の外はとても危険だ。坊や、いい子だからお家に戻りなさい」
「あの、父さんがここを通らなかった?」
「え? パパスさんが出ていかなかったかって? いや、見ていないぞ」
「そうなんだ……」
門番はパパスを見ていないのか頭を左右に振るので、アベルは「どこに行っちゃったんだろう……」とアリア達の元に戻って来る。
アリアはアベルに気が付くと、プックルから手を放して立ち上がった。
「どうだった?」
「通ってないって」
「え? そう、なの? 村の出入口ってここしかないよね……?」
「うん、確か……」
「どこに行ったのかしら……」
二人はパパス捜しをすることになったのだった。
今回はアリアとの別れはなしでしたが、どうなることやら。
そんなことより、パパスはどこに!?
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