ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

ビアンカの婚約者は……。

では、本編どぞっ!



第六百二十九話 ビアンカの……

 

「あ、ええ……どうもすみません。……あの、旅の方ですよね?」

 

「あ、はい……」

 

 

 ――この人がビアンカの……。

 

 

 タオルを受け取り顔を拭う男を、アベルはついジロジロと見てしまう。

 

 ……以前顔を合せた時はカウンタ―越しでよくわからなかったが、間近で見た感じ、腕も身体も自分の方が逞しいし、背だって自分の方が高い。顔だって多分自分の方が――なんてアベルが考えていると、青年が口を開いた。

 

 

「以前うちに……、あ、私はこの村の宿屋の者なのですが、うちの宿にお泊りいただいたことがなかったでしょうか」

 

 

 青年はアベルの顔を憶えているらしい。

 彼が人懐っこい爽やかな笑顔を向けてくる。

 

 

「あっ、憶えて……?」

 

「やっぱり……! はいっ、一度お泊りいただいたお客さまのお顔は忘れません! それに、お客さまは……、その……お顔がかなり強張っていらしたので……」

 

 

 青年は客にこんなことを言っては、気を悪くしないだろうかと心配しながら少々気まずそうに零した。

 

 

「ぁ。ああ……すみません。ちょっとあの時は気分が優れなかったので、睨んでいるように見えてしまったかもしれません……」

 

「そうだったのですね。私がなにかミスをしたのではと心配していたのです。よかった……」

 

 

 アベルの返答に青年は、濡れたウェーブ掛かった金髪をタオルで拭うと、前髪を掻き上げほっとしたような笑顔を見せる。

 青年の邪気の無い笑顔には白い歯が輝いていた。

 

 

 ……前回宿に泊まった際、ビアンカの婚約者だと聞いていたアベルは、彼がアリアから“爽やかイケメン”と褒められていたこともあり、彼女と接触させないように気を遣ったが、同時、ビアンカの相手として相応しいのか、青年を品定めするかの如く凝視していたのだ。

 

 

「ははは……」

 

 

 ――いい人……なのか? いや、まだわからない……。

 

 

 目の前の青年が、ビアンカの惚れた相手だと思うと複雑極まりない。

 数多別世界でビアンカにそんな相手がいたなんてこと、一度もなかった。

 

 少し胸がざわつくが、この世界では友として大好きな幼なじみが選んだ相手――良い男なのか見定めてやらなければ。

 

 

 ビアンカにも幸せになって欲しい――。

 

 

 ……アベルはまたしてもジロジロと青年を見てしまった。

 

 青年を見定める……というより、嫉妬心からの行動もあるような気もするが、アベル本人は気付いていないだろう。

 

 

「あ、あの……?」

 

 

 再びアベルに睨まれてしまった青年が愛想笑いを浮かべる。

 

 

「あっ、すみません。急に目が霞んで……」

 

「そうでしたか、でしたら温泉水で目を洗えば治るかもしれません。宿にありますので差し上げますよ」

 

「え……」

 

 

 青年は「ここの温泉は万病に効くんです。どなたにも無料で差し上げているので良ろしければ」と飲泉や、目薬代わりの温泉水を常備しているそうで、アベルに無償で分けてくれるという。

 

 

 ――あ、いい人……、なのかな……、いや、まだまだ認めるわけには……!

 

 

 ビアンカが選んだ男という時点で、良い人……というのはわかっていたのだが、複雑な男心とでも言うのか――アベルは認めたくなかった。

 

 

「ああそうだ、もし今夜の宿が必要でしたら泊まりに来て下さい。土砂降りで今晩は温泉には入れませんが、ベッドはいつでもふかふかですから」

 

 

 アベルが眉を寄せていると、青年は爽やかな営業スマイルを向けて来る。

 

 

「あ、いえ、もうすぐ村を出るので結構です」

 

「そうですか……? あんな雨の中を……?」

 

「ハハハ……はい」

 

 

 ――【ルーラ】が使えるので……あっ! アリアが待ってるんだった……!!

 

 

 そろそろ戻らないと……!

 

 

 アベルは青年の申し出を断り、もう少し彼のことを知りたかったが、アリアが待っていることを思い出す。「僕はそろそろ失礼します」と会釈し、すれ違った。

 

 歩き出したアベルの前で、丁度ロープの束を大量に持ったドワーフが、奥の部屋からえっちらおっちら走ってくる。

 

 

「はぁっはぁっ、お待たせ! ロープ10束準備できたでよ! 持っていってくんな!」

 

「ありがとうございます! お代はカウンターに……」

 

「おつりは後日宿に届けるでよ!」

 

「ありがとうございます!!」

 

 

 青年はロープを受け取ると踵を返して、アベルを追い越し入口に向け走って行く。

 

 

「…………(そんなに雨が酷いのかな……)」

 

 

 アベルもドワーフに軽く会釈して入口に向かう。

 歩いて行くにつれ、ザァザァ……と、雨の音が聞こえてきた。

 

 

「うわー……すごい雨だな……」

 

 

 アベルが入口まで戻って来ると、外に出るのを躊躇うほど横殴りの雨が村を襲っている。

 

 

「……さっきより酷くなってるな……」

 

 

 先ほど走って行った青年が、入口で立ち止まって二の足を踏んでいた。

 

 ……無理もない。

 風が強く、洞穴から見える果樹園の木々がしなり、一部の枝が折れてしまっている。

 

 短い距離とはいえ、あの中を歩き斜面を上っていくとなると、地肌は濡れているし、転んだり怪我をし兼ねない。

 

 

「はー……これはまた……」

 

 

 ――こんな嵐初めてだ……。

 

 

 暴風雨――、遠くで雷鳴も聞こえる。

 ……アベルは初めて見る光景だ。

 

 自分の唱える【バギマ】をもっと強くしたら……いや、上位の呪文【バギクロス】――まではいかないが、東の大陸を襲った嵐はこんな感じだったのかもしれない。

 

 自然の猛威を前にアベルは冷静に考える。

 

 

(【ルーラ】使えるかな……?)

 

 

 ……【ルーラ】を使うにはまず洞穴から出なくてはならない。でなければ頭を打ち付けてしまう。

 

 

「はぁ……(濡れちゃうけど……仕方ないよね)」

 

 

 洞穴の外に出れば、一瞬でアベル達はびしょ濡れだ。

 だが【ルーラ】を使うには外に出ねばならない。

 

 

「ピエール、プックル、スラりん、行こうか」

 

「はい、主殿。雨に濡れるのも致し方ありません」

 

「グルルル(我、濡れるのはイヤだぞ)」

 

「ピキー! ボク、雨だーいすきっ♡」

 

 

 アベルが仲魔に声を掛けると、三者三様の答えが返ってくる。

 ……アベルは青年を横目に外へと一歩足を踏み出した。

 

 

「う゛わ゛~~!! い゛だい゛い゛だい゛!!」

 

 

 ――さっさと【ルーラ】を唱えないと……!

 

 

 勢いのある雨がアベルの頭、頬や、身体を打ち付ける。

 激しい風を伴う雨は、降り付けると痛みを誘った。

 

 

(アリア……待っててね……!)

 

 

 アベルはサラボナの町をイメージし、雨に少々思考を乱されるも魔力を集中させる。

 

 

「ル――わっ!?(なんだ……!?)」

 

 

 突然、移動呪文(【ルーラ】)を唱えようとするアベルの腕を、青年ががっちりと掴んでいた。

 再び洞穴の中へとアベルは引っ張られる。

 

 

「……っ、あのっ、旅のお方! あなたのその逞しい腕を見込んでお願いがあります……!」

 

「えっ」

 

 

 ――なんか嫌な予感……!

 

 

 青年の言葉にアベルは嫌な予感を覚える。

 自分は急いでいるのだが――、なれどアベルは青年のことが気に掛かっていたこともあり、話だけは聞くことにした。

 

 

「なんでしょうか……」

 

「……今、この山奥の村では新たな温泉施設を建設中なんですが、その建設現場で積んでいた資材が、山の上から転がって来た岩のせいでバラバラになってしまって……。独りでなんとか纏めようとしたのですが、風が随分強くなってきたので時間が掛かりそうなのです。このままだと水はけも悪くなって、施設内だけでなく、村に被害が出るかもしれません。どうか資材を纏めるお手伝いをしていただけないでしょうか?」

 

 

 アベルが伺うと、青年が建設中のスパの現状について話し出す。

 大規模な土砂崩れが起きたわけでは無いが、大雨によって水の流れが激しく、多少崩れた箇所があるようだ。そこから崩れた岩が建設現場に入り込んでしまった……というわけらしい。

 

 なぜ、青年がスパの話を? アベルは疑問に思ったが、ビアンカの婚約者だし、手伝いをしているのかもしれない。

 

 ……気付けば青年に訊ねていた。

 

 

「温泉施設を建設って……あなたはいったい……」

 

「あ、ボクは経営者の一人なんです。経営についてはまだ半人前で勉強中なんですが……共同経営者が他に二人いまして。三人で経営することになっているんです。代表が今留守にしているので、ボクは留守を守らないと」

 

「っ……あなたが三人目……!?」

 

 

 ――もう一人の経営者って、ビアンカの婚約者だったのか……!

 

 




ゲーム中だとフローラを選んだ場合、ビアンカはEDまでずっと独り身なんですよね……。
主人公を忘れられないって……うーん……。
わかるようなわからないような……、アラサーで独り身か……。

そんなわけで、このお話ではおかみが生きていたため、おかみにせっつかれたビアンカさんは婚約済みとなっております。
母親の力は偉大なり。

ちなみに、宿屋の息子は姿形も性格もゲーム中とは異なり、独自設定です。
やっぱビアンカにはイケメンと幸せになって欲しいので。
筋肉イケメンアベルとタイプは違い、細マッチョタイプの物腰柔らかな爽やか好青年です。しかも年下なんだぜ……。
一応名前があります。
その内キャラ紹介②に載せておきまーす。

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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!
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