久しぶりのサブクエです。
では、本編どぞ。
思わぬところで謎だった三人目の経営者が判明し、アベルは目を丸くした。
……それもそうだ。
彼は宿屋の息子でビアンカよりも年下だと聞いている。見た目も細身だし、魔物を倒して金を稼ぐタイプには見えない。
宿屋で受付をしている彼が、あの巨大な施設を建てるのにどうやって出資したというのか――。
ビアンカに聞くところによると、三人目の経営者が殆ど出資したとのことだったが、ただの宿屋の息子がどうやって?
この青年はいったい……?
人は見掛けよらないというのは、これまで様々な人々を目にしてきたアベルもわかってはいるが、謎過ぎる。
……アベルはまたもじぃっと青年を見つめてしまった。
「え……? 三人目……?」
アベルの言葉に青年は首を傾げる。
「あっ、いえ、なんでもないです。それより急ぎましょう」
「お願いしてもいいんですか!?」
「困ったときはお互い様ですよ!」
――ビアンカの夢が詰まった施設だ、アリアも完成を楽しみにしてる……守らなきゃ。
アリア、待っててね。
終わったらすぐ帰るから――。
青年の背景は気になるが、今は一刻を争う。
アベルは青年の申し出を快く受け、彼と共に建設現場へと向かった。
◇
……建設現場に辿り着くと、建築資材があちこちに転がり散らばっていた。
どうやら青年の言っていたように、山の上から転がって来た大きな岩達のせいで、積まれていた板や丸太が散乱してしまったようだ。
まずは大きな岩を除去し、それから資材を集めて纏める……のだが。
「うわっ! 爆弾岩じゃないか……!!」
――あっぶな……!
アベルが大岩に近付くと、ギロリと睨まれた。
転がっている岩を除去している途中で、まさかの【ばくだんいわ】と遭遇してしまう。
アベルはすぐさま武器を手にして【ばくだんいわ】と戦うことにした。
……【ばくだんいわ】を下手に刺激すると【メガンテ】されて、辺りが破壊されてしまう。
建設途中の建物に被害が及ぶから、細心の注意を払って――と、アベルが考えている横を、なにかが通り過ぎた。
「それは戦わず、こちらに転がしてください……! ここから転がせば村の外へと勝手に転がって行きますので……!」
青年がそう話しながらゴロゴロゴロと【ばくだんいわ】を器用に転がしている。
そして急斜面に差し掛かったところで、彼は勢いよく【ばくだんいわ】を押し出した。
メ、メ、メ……、メ…………――。
【ばくだんいわ】は「メ」とだけ言葉を残し、山の麓へ転がっていく。
山の急斜面は水の流れも相まって、さながらウォータースライダーである。
【ばくだんいわ】の中には楽しんでいる者もいたかもしれない。
……アリアがここにいれば彼等の言葉を訳してくれたことだろう。
『メ、メ……、メッチャ、タノシィィ~~♡』
とかなんとか言っていたかもしれない。
「えぇっ……!?(爆弾岩って転がせたんだ!?)」
――すごいなこの人……!
青年の行動に度肝を抜かれたが、アベルも見様見真似で【ばくだんいわ】を転がす。
【ばくだんいわ】を転がすのは初めての体験だったが、どうやら【ばくだんいわ】は雨に濡れて冷え固まり、動きが鈍くなっているようで、すぐに反応ができないらしい。
ここは雨が降っていて良かったというべきか……。
かなりスリリングな体験だ。
……それからアベルは黙々と岩の除去と、資材纏めを手伝った。
◇
しばらくして――。
「おつかれさまでした……! 助かりました……!」
無事資材纏めも終わり、アベルは青年と共に完成している一部の建物内へと避難していた。
ここは施設のロビーなのだろうか……。屋内にカウンタ―はあるものの、椅子がいくつか置いてあるだけで、まだ建設途中だからか至るところに資材が置かれている。
青年が深々と頭を下げると、アベルは手を振り振り、盛大にくしゃみをした。
「いえぇ~っくしょんっ!!」
『ブシュ! クシュッ! クシュンッ!!(さ、寒い……我、濡れるの嫌い……)』
……アベルの後ろでプックルもくしゃみを連発する。
「ああ大変だ……! 奥に内風呂がありますから、良かったら浸かって下さい。布団はご用意できていないので、今日はここには泊まれませんが、宿屋まで来て下されば今晩は無料でお泊めします」
「あ……ども……」
「あなたも温泉が嫌でなければどうぞ」
アベルが軽く会釈している間に青年はプックルに近付き、濡れた目の周りにそっとタオルを押し当てた。
「がうぅ……?」
プックルは驚いた顔をしていたが、目蓋に掛かった水滴が拭き取られ、視界が開けたため威嚇することはない。
普段プックルはアベルやアリア、ビアンカ以外には恐れられて誰も近付かないのに、この青年は平気なようだ。
【ばくだんいわ】も転がしていたし……と、アベルは益々男の背景が気になってしまう。
「え……、あなたキラーパンサーが平気なんですか……?」
「あ……はい。昔、仲良くしていたキラーパンサーがいたのです。もう……亡くなってしまったんですけど……」
話しながら青年が、カウンタ―上に置いてあったタオルをアベルに手渡す。
「そうですか……」
「ボクの婚約者が飼っていたのですが、ある日病で……」
「え……あ……」
――その【キラーパンサー】……もしかしてゲレゲレって言いません……?
アベルは喉から出掛かってやめた。
その頃からこの青年はビアンカと知り合いだったというのか。
いや、でもお見合いだったって言っていたような……?
(サラボナに戻らないといけないのに……ああ、もう気になってしょうがない……!!)
アベルはずぶ濡れのターバンを取り去り、青年をチラチラしながら手渡されたタオルで頭と顔を拭った。
……青年もずぶ濡れになった服を脱いで絞っている。
青年は白く細い身体ながら、程よく筋肉がついており、先ほど【ばくだんいわ】を涼しい顔で転がしていたし、有事があってもビアンカを守ってくれそうだ。
アベルが心配することではないのだが、命懸けでビアンカの夢を守った男を見ると認めざるを得ない。
……彼は良い男である。
ぐうの音も出ずに黙り込んだアベルをよそに、青年は屋内にあった暖炉に火を点けると、近くにあった椅子を持ってきて、背もたれに服を掛け乾かし始めた。
「ハックション!!」
「大丈夫ですか?」
再びアベルが盛大にくしゃみをすると、青年が訊ねてくる。
「ぅぅ……明日は結婚式なのに……(ていうか、本当は今日だったんじゃ……?)」
ズズズッとアベルは鼻を啜った。
……別世界の結婚式は自分が戻り次第行われていた。
ならば今戻るとそうなる可能性が高い。
「……えっ!? そうだったんですか!? 風邪でも引いたら大変です、服は乾かしておきますから、早く湯に浸かって来てください!!」
「あ、じゃあそうさせてもらいます……」
――寒っ……!! よし、温泉に浸かって行こう……!
慌てたように青年が内湯のある場所を指差すと、アベルはピエール達を伴い温泉に浸かりに行くことにした。
このまま戻ったら体調不良でアリアに心配を掛けてしまう。
温まって体調を万全にした方がいいだろう。
外は相変わらず雨風が酷いが、新しい建物は頑丈でびくともしていない。
……スパがオープンしたら、いつかアリアと一緒に遊びに来よう――。
ばくだんいわ転がし……スリル満点のミニゲームがあっても面白いんじゃないかな~、なんて思って書いてみました。
ばくだんいわが、なぜかお茶目キャラ扱いになってしまっていますが、気に入ってます。
このお話のばくだんいわさん達は「メ」から始まる言葉は喋れるのです。
そうそう、宿屋の息子、実はある特技がございまして。
それで稼いでビアンカに貢い――否、投資したっていう……ね。
その内外伝か後の女子会で判明させようかと思います。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!