ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

冷えた体には温泉が効く!

では、本編ど~ぞ~。



第六百三十一話 いい湯だな

 

 

 

 

「あぁ~~……いい湯だなぁ……」

 

 

 気付けばアベルは屋内の大浴場に浸かっていた。

 

 初めての大浴場……。

 今まで渡り歩いた世界で、一度も経験したことのない広い湯船である。

 

 ひょっとしたら、アリアが存在した別世界にもあったのかもしれないが、思い出せないから、これは初めてと言っていい。

 

 大浴場には大きなガラス窓があり、外は嵐だが、窓一枚隔てたこちらは極楽。ピエールも、プックルも、スラりんも、皆リラックスモードで温泉の心地良さを満喫していた。

 

 

「温泉は良いものですね……ほぅ……」

 

 

 ピエールが外を眺めながら一息吐いている。風呂嫌いのピエールも温泉は別らしい。

 

 ところで兜に水滴が浮いているが、中は蒸れないのだろうか……。

 

 

「はははピエール、息苦しくないのかい?」

 

「ははは。慣れておりますゆえ、問題ありませんよ。ふー、暑い暑い」

 

「ふーん」

 

 

 ――暑いなら兜を外せばいいのに……。

 

 

 アベルは指摘したが、ピエールは兜を外す気は無いらしい。

 未だピエールの素顔は謎のままである。

 

 彼はいつか素顔を見せてくれるのだろうか。

 

 

 ……この世界は別世界と違って謎が多い。

 だが、初めてのことが多くて飽きなくていい――。

 

 

 アベルは目元を緩めて口を開いた。

 

 

「スラりん、湯船で泳いじゃいけないよ。プックルみたく大人しく浸かってね」

 

「ピキー! 了解しましたっ……!」

 

 

 アベルは広い湯船に湯飛沫(しぶき)を上げて泳ぐスラりんを(たしな)め、静かに湯に浸かるプックルに視線を移す。

 

 

「グルルルル……(あぁ~……生き返る~~、寒くて死ぬかと思った……)」

 

 

 プックルは顎を湯船の縁に乗せうっとりしていた。

 

 

 

 

 ……仲魔たちみんな、温泉が大好きだ。

 

 

 

 

「お湯はどうですか? こちら最近完成したばかりで、実はお客様が一番乗りなんですよ」

 

 

 青年の声がアベルの背後から聞こえる。

 アベルの服を乾かし、彼も浸かりに来たようだ。

 

 

 ……彼はかけ湯をしてから湯船に浸かった。

 

 

「いいお湯ですね。村の温泉もいいけど、こちらもなかなか」

 

「そうでしょう、そうでしょう。代表が拘って作っていますから」

 

 

 アベルが頷き答えると、青年は嬉しそうに目を細める。

 

 

「……そうですか……」

 

 

 ――代表って……、ビアンカかおかみさんのどちらかなんだな……。

 

 

 青年の笑顔を見るに、アベルはこのスパの代表者はビアンカな気がした。

 

 

 ……自分の与り知らないところで、目の前の彼とビアンカは愛を育んでいる……。

 

 アベルの胸がちくちく痛むがビアンカが幸せなら、それでいい。

 この世界では、彼がビアンカの結婚相手なのだ。

 

 

「…………」

 

 

 ――これでいい、これでいいのに……。

 

 

 アベルは黙り込んでしまった。

 

 

「……ああ、そうだ。そろそろ服も乾いていると思います。風も多少弱くなって来ましたし、お風呂から上がったら宿屋に行きませんか?」

 

 

 なにも知らない青年が窓の外を見て、アベルを宿屋へ誘う。

 青年の言うように、外の風雨はよろず屋を出てすぐの頃よりは、ましになった気がした。

 これなら、外に出れば多少濡れてしまうのは仕方ないが、ターバンとマントでどうにか凌げるだろう。

 

 

「あ……はい……、けど僕、そろそろ戻らないと」

 

「この雨の中を?」

 

「ええ……まあ」

 

「あぁ、明日は結婚式……! 酒場で温かいものでもと思ったのですが、お引き留めしてもご迷惑でしたね。すみません、そんな大事な時にお手伝いを頼んでしまって」

 

 

 青年はアベルに夕飯をご馳走しようと思っていたのだが、アベルの浮かない顔に、明日が結婚式だと思い出し頭を下げた。

 

 

「あっ、いやっ、別にもう済んだことですから……!」

 

 

 ――まあ、僕不在で結婚式を敢行するとは思えないから、一泊しても大丈夫な気もするけどね……。

 

 

 アベルは頭を下げる青年に両手を振り振り、頭も振り振り。

 

 

 経緯はどうであれ、ビアンカの夢を守ることができたのは良かった。

 表立って名乗ることはしないが、幼なじみ……友達として、彼女の役に立てて満足している。

 

 

 と、アベルは名乗らず立ち去るつもりだったのだが――。

 

 

「……あの、お客様のお名前はなんとおっしゃるんですか……?」

 

 

 “ザバァァッ!!”

 

 

 不意にアベルは勢いよく立ち上がった。

 

 

「…………ぼ、僕もう上がりますね! 逆上せそうなんで!」

 

 

 青年に名を訊かれてしまい、アベルは聞こえなかった体で湯船から脱出する。

 ……ピエール達も後ろに続く。

 

 

「え、あの、お名前を……」

 

「ではお先に……!」

 

 

 軽く手を挙げ、青年に挨拶してアベルは大浴場を後にした。

 ピエール、スラりん、最後尾にはプックルがひたひたと洗い場を歩いて行く。

 

 

 そしてプックルは青年の前まで来ると、立ち止まった。

 

 

「がう(ビアンカの匂いを纏う者よ、良いお湯だったぞ。生き返ったわ)」

 

「あっ……」

 

 

 ……べろん。

 

 

 ざらついた舌が青年の頬を一舐めすると、青年は驚きに目を見開く。

 それからプックルは扉の前で全身を震わせ脱水、器用に扉を開け大浴場から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……アベルが大浴場から出て乾いた服に着替えていると、入口の扉が勢いよく開かれる。

 

 

「無事かい!? って……あれ? アベル坊ちゃん??」

 

「あ、おかみさん……?」

 

 

 足に布を巻き付けているアベルの目の前に現れたのは、ビアンカの母親――。

 ダンカンのおかみ、レナータであった。

 

 

「なんで坊ちゃんがここに?」

 

「あ、えと……?」

 

 

 ――こちらこそ、なんでおかみさんが……?

 

 

 いや……そうか、ここの共同経営者だったっけ。

 

 

 アベルはおかみの登場に始めは面食らったが、納得した。

 雨脚が少し弱まり、施設が心配で見に来たのだろう。

 

 

「そうだ、あの子はどうしたんだい?」

 

「あの子って……、ひょっとして宿屋の息子さんのことですか……?」

 

 

 おかみが誰かをさがすように辺りを見回すので、アベルは訊ねてみた。

 

 

「そうそう。ビアンカの旦那だよ」

 

「ぅ……旦那って言い方……」

 

 

 あっさりとおかみが宿屋の息子を“ビアンカの旦那”と告げるので、アベルは胸元をぎゅっと掴む。

 

 

 ――まだ結婚してないんだから、婚約者と言って欲しかった……。

 

 

 アベルにはビアンカの結婚をとやかく言う資格はない。

 ……だが、別世界の自分達の意識に引っ張られ、胸が勝手に痛むのだ。

 

 

「ん? どうかしたのかい?」

 

「ぃぇ……、彼なら今温泉で冷えた身体を温めてますよ。僕は彼の手伝いでここに来ました」

 

 

 ――僕にはアリアがいるんだ、ビアンカが幸せならそれでいいだろ……! 

 

 

 アベルはちくちくする胸の痛みに、何度も何度も自らに言い聞かせる。

 別世界の自分達が納得していなくても、そちらの感情に呑まれるわけにはいかない。

 

 

「そうだったのかい!? そうかいそうかい。そういえばアベル坊ちゃんには昔も世話になったね、ありがとうねえ! お礼をしなきゃね」

 

 

 アベルがここにいる理由を聞くと、おかみは満面の笑みを浮かべた。

 




アベル君、葛藤してますなw

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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!
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