ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

アベルが結婚前夜に居たのは山奥の村でした。

では、本編どぞっ!



第六百三十二話 結婚前夜

 

「ははは……大したことはしていないのでいいですよ」

 

「そろそろ日も暮れて来るから、今夜は家に泊まるといいよ!」

 

 

 アベルがお礼は不要だと告げるが、おかみは話を聞いていないのか、カウンタ―上にあったメモになにやら(したた)め始めている。

 

 

「え、僕、これからサラボナにもど……」

 

「ああ、そういやビアンカはどうしたんだい? 驚き過ぎて忘れちまってたよ」

 

 

 おかみは手を動かしながらアベルをチラ見。アベルの後ろにはピエール、スラりん、プックルのみ――ビアンカの姿が見えないので、どうしたのかと訊ねたようだ。

 

 

「え、あ、サラボナにいますよ。明日結婚式に参列してくれるので」

 

「結婚式!? 誰の!?」

 

「ぼ、僕ですけど……」

 

「まあっ! そういえば、アベル坊ちゃん()結婚するって言ってたっけねえ!」

 

 

 おかみは目を剥いて驚いたかと思うと、弾けるような笑みをアベルに向ける。

 彼女の明るく大きな声は雨音に負けていない。

 

 

「ははは……“も”ですねえ……」

 

 

 ――そうだよ、僕もビアンカもそれぞれ結婚して幸せになるんだ。

 

 

 それでいいんだ……! 僕達(・・)、わかったよねっ!?

 

 

 “俺のビアンカが別の男と結婚とか……”

 “ビアンカは僕の花嫁なのに……”

 “あんなただの男のどこがいいんだ……”

 

 

 心の中で勝手に湧き出る感情に、アベルは無理やり姿なき無意識(別世界の自分)達に言い聞かせるよう、半ばやけくそ気味に話を合わせた。

 

 

「おめでたいねえ……、それで相手は……?」

 

「あ」

 

 

 ――アリアです……!

 

 

 アベルがそう伝えようとしたが――。

 

 

「まってまって、当ててあげるよ、アリアちゃんだろ!? 家に来た時からラブラブだったもんねえ! ダンカンは気付いていなかったみたいだけどね、アタシはあの時からわかってたよぉ? そうかいそうかい、めでたいねえ!」

 

「えぇ? ハハハ……」

 

 

 おかみはアベルの結婚相手がアリアだと見事言い当てる。

 ビアンカから聞いたのかと思っていたが、先ほどアベルが結婚するという話に驚いていたから、どうもそうではないらしい。

 

 まさかおかみにもバレていたとは……、なぜばれたのかは不明だが、知らないのは自分達だけだったのだと、アベルはいまさらながらに頬を掻いた。

 

 

「さあさ、メモも書いたし、明日に備えて家で休みなさいな。ほらほら坊ちゃん、行くよ」

 

「えっ、えっ、おかみさんっ!?」

 

 

 ……アベルは半ば強制的にビアンカの家へと連れられて行く。

 

 

 

 

 その後ろで――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アベルさん…………、そうか……あの人が……ビアンカさんの……」

 

 

 

 

 外へ出て行くアベル達の背中を、風呂から上がった青年が見ていたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダンカンのおかみに無理やり家へ連れて行かれ、アベルは今晩、主不在のビアンカの部屋で休むことになった。

 

 ……夕飯まで休んでいなさいとのことで、アベルは今、ビアンカの部屋で窓の外を眺めている。

 

 

「……雨か……」

 

 

 日が暮れ始め、雨は多少小降りになってきたものの、未だ降り続いていた。

 遠くで雷鳴が響いているが、近付いている様子は無く、むしろ遠ざかっているように見える。

 

 ビアンカの家に入る前、アベルは村を見下ろしたが、幸い村で大きな災害は起きていない様子――。

 建設現場の材木が流れ出し、斜面を転がっていたとしたら大変なことになっていただろう。

 

 宿屋の息子は立派だ。

 

 

「……この景色……なんか似てるな……」

 

 

 ……ぽつり。

 

 

 アベルが呟いたそれは、前回宿屋で泊まった時に見た夢と酷似していることを表していた。

 まだ夕方に差し掛かったばかりの時刻なのに、あの夢の中のように外は薄暗い。

 屋根に降りつける雨の強さも同じ……。

 

 

 ただ、ここは宿屋ではなく、ビアンカの家だ。

 

 

「……はは……そんなわけないか」

 

 

 ここにアリアはいない。

 彼女は今、サラボナで結婚式の準備をしながら、自分の帰りを待っている。

 

 あの夢のような出来事は起き得ない。

 

 

 ……アベルは窓の外に見える、遠くの稲光に薄っすらと目を細めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その晩、アベルはおかみの作る食事に舌鼓を打ち、お腹いっぱい食べて早めに就寝する。

 

 ……おかみもダンカンも温かく(おかみは多少お喋りが凄かったが)、家族団(らん)てこんな感じなのかな……と、ちょっと感傷的になりながら、アベルはアリアとこういう家庭を築きたい――そう思うとともに、ビアンカが幸せに生きて来たということもわかって安心した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、夜が明けた……!

 

 

 

 

「お世話になりました!」

 

「雨も上がって、いいお天気だねえ! 絶好の結婚式日和だよ。幸せにね! それと、元気でやるんだよ!」

 

 

 いつになく元気な声で頭を下げ、玄関を出るアベルの肩を空を確認したおかみがポンポンと叩く。

 開いた扉の奥では、ダンカンがダイニングテーブルに腰掛けたまま、笑顔で手を振っていた。

 

 

「はい! ありがとうございます。おかみさん、ダンカンさんもお元気で!」

 

「ああそうだ、ビアンカに結婚式が終わったら、早く帰っておいでと言っといておくれ」

 

「わかりました」

 

「スパがオープンしたら、二人で遊びにおいで。待ってるからね」

 

「はい!」

 

 

 ……アベルは笑顔で手を振り、ビアンカの家を後にした。

 

 

 

 

 すぐに【ルーラ】することはなく、一応昨日の雨による被害がないかと確認しつつ、アベルは村の入口まで坂を下っていく。

 

 アベルが心配する必要はまったくないのだが、大事な友達(ビアンカ)の住む村だ。なにかあれば力になりたかった。

 

 流れていく景色――視覚的情報では、見たところ家々の屋根から雨の雫が滴り落ち、木の葉や土埃が窓に張り付いているだけで、壊れた様子は無い。

 

 宿屋の前を通りかかると早朝にも関わらず、宿屋の息子が【宿屋のカベかけ】に貼り付いた木の葉を落し、丁寧に拭き掃除をしていた。

 

 そんな清掃作業中の彼が、通り掛かったアベルに気が付き、ふと二人の視線が交わる。

 すると彼が軽く会釈をするので、アベルも応えるように柔和な顔で黙礼した。

 

 アベルは彼が声を掛けてくるかなと一瞬思ったが、宿屋の息子に昨日までの笑顔はなく、ただ会釈しただけでさっさと屋内に戻ってしまう。

 

 ……昨日はあんなに気さくで明るかったのに、いったいどうしたのだろうか。

 

 推測するに、彼は早朝から仕事をしているのだ、昨日の作業で疲れが溜まって、他人に愛想を振りまく余裕がないのかもしれない。

 

 アベルは宿屋の息子の態度に少し疑問を感じたが、気にしないことにした。

 

 

(……ビアンカの婚約者か……。)

 

 

 アベルはそのまま宿屋に背を向け、村の入口へ続く階段を下って行く。

 

 

 今日のアベルはすこぶる機嫌が良い。

 些細なことはまったく気にならないようで、アリアがいないにも関わらず、ずっと笑顔である。

 

 

 

 

 ……ダンカンのおかみが生きていたことで、ビアンカは婚約することになった。

 

 【世界の理】は常について回るが、未来は変えられないものでもないらしい。

 自分の行動如何(いかん)でどうとでもなるということを、今回アベルは証明することができた。

 

 これからも【世界の理】に干渉されるだろうが、都度、適切に対処すれば未来は変えられるのだ。

 

 ……未来を変える選択肢は、シンプルに二つしかない。

 

 

 諦めるか、諦めないか。

 

 

 アベルの選択はいつだって――

 

 

 

 

 “諦めない”だ。

 

 

 

 

(僕はアリアがいる限り、多少の痛みを感じようとも、なにがあっても新しい未来を諦めない。)

 

 

 

 

 ……アベルはこれからも諦めず、自分の望む未来へ向かうため、行動し続けることを誓った。

 




ビアンカが温かい家庭で育って良かった良かった。
そしてアベルは久しぶりに家族の温もりに触れましたとさ。

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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!
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