ヘンリーが来たヨ。
では、本編どぞ。
「……ぁ……」
開いた扉の前で、ヘンリーがアリアの姿を見て茫然と立ち尽くしていた。
「あ! ヘンリー君だ。いらっしゃい……! 入って入って!」
「っ……やあアリアさんっ! ……き、綺麗だ……、っ、すごく……」
アリアが明るい声で告げ、ヘンリーの手を引き部屋に招き入れると、彼の顔が真っ赤に染まった。
……ヘンリーは既婚者であるが、初恋を思い出したようだ。
かつて大好きだった彼女、アリアのウェディングドレス姿に見惚れていた。
この場にマリアがいなくて良かったと、ヘンリーは熱くなった頬を両手で押さえる。
「え? あははっ、ありがとう。マリアさんは?」
「ああ、マリアならビアンカさん達とお喋り中だよ。なんか昨日のお茶会の延長みたいで楽しそうに喋ってたから置いて来た。……アベルはまだ起きないのかい?」
……ヘンリーは眠ったままのアベルをちらと見て訊ねた。
昨日ルドマンとお茶会途中、やって来た来賓は実はヘンリー達だったのだ。マリアも途中からお茶会に参加していた。
女性四人が集まり、話題は自然と結婚の話へ――。
マリアの新婚生活について、アリア達は色々と訊いたものである。
ヘンリーもその場におり、少し恥ずかしい想いをしつつも、二人の惚気話をアリア達がにこにこと聞いてくれるので、つい気分が良くなり、あれもこれもと話してしまった。
ヘンリー達がお茶会に参加したのは日暮れ近く。マリアは話し足りなかったようで、今ビアンカたちとお喋りを楽しんでいるそうだ。
「うん、かなりの人数を連れてルーラしたから疲れたんだと思う。その内起きると思うの」
「そっか、なんか悪いことしちゃったなぁ。けどルーラを使えるのはアベルだけだし仕方ないよな」
「あ……ふふふ……、実は私も使えるんだけどね~」
ヘンリーの言葉にアリアは微苦笑して頬を掻く。
「えっ!? そうだったのかい!?」
「うん。でもアベル、私がルーラ使うのあんまり良い顔しないから、黙ってたの」
「ふーん、そうなんか……」
――なんでだ……?
二人で手分けして【ルーラ】すれば、アベルが倒れることはなかっただろうに……。
そう思ったヘンリーだったが、アベルとアリア、二人で決めたルールなのかもしれないと思い、あえて理由を訊ねることはしない。
「なーんてねっ! 式前に疲れたくないからアベルに任せちゃった~」
「ははっ、アリアさん、ずりぃ~の!」
「ふふっ」
アリアが笑って誤魔化すが、彼女がアベル独りに面倒を押し付けるような性格ではないことは、ヘンリーもわかっている。
弾けるような愛らしいアリアの笑顔に、ヘンリーも釣られて笑った。
「……結婚するって招待状が届いた時は驚いたよ」
「う、ん?」
アベルは起きないし、せっかくだからアリアと話でもするか……と、ヘンリーはルドマンから届いた招待状を胸ポケットから取り出す。
……招待状には、“アベルが結婚するから結婚式に招待する”……とだけ。
相手の名前は書かれておらず、ヘンリーとマリアは相手がアリアだと思ってはいたが、昨日サラボナに着くまで なぜか確信が持てなかった。
「あっ、二人は恋人同士だし、いずれはってわかってたよ? なんていうか、こう……嬉しいけど、ちょっと複雑っていうかさ……」
――なんだろうな、淋しいようなこの気持ちは……。
十一年前……、アリアが自分の求婚を本気にして応えてくれていたら、未来は違っていたのだろうか……。
マリアのことは愛しているし、夫婦仲も良い。
アリアのことは吹っ切れているし、未練もない。
……だが、こうしてかつて好きだった女が、自分以外の男と結婚すると思うと切なくなるのはなぜだろう……。
ヘンリーはアリアと冒険した数々のワンシーンを思い出し、少しばかり感傷的になってしまった。
「フクザツ……?」
「ぅ……(可愛い……)」
アリアがなんのことかさっぱりわからず きょとんと首を傾げると、ヘンリーの頬が熱くなる。
「ヘンリー君、どうしたの? 顔が赤……」
「っ……そ、そういやっ、デールが泣いてたっ!」
――っ、いかんいかん! オレはマリア一筋なんだぞ……っ!!
白い手袋が緑の髪に触れる寸前、ヘンリーは身を引き、話題を変えた。
「えっ?(泣いてた!?)」
「ほんでもって、式に参列したがってた。まあ、国王だから忙しくて来れなかったけど」
「そっか……デール君、お仕事頑張ってるんだね」
急な話題転換にアリアは面食らうが、デールの近況を知ることができて、穏やかに目を細める。
「あっ、ありがとう。デールが喜ぶよ」
「ん? なにが?」
「デールの奴、アリアさんに“デール君”て呼んでもらうの好きだからさ。アリアさんがそう呼んでたって伝えるよ」
「あ、いっけない。私、王様をまた君呼びしちゃった。ダメだね~。身のほどをわきまえないと……処罰されちゃう」
……ヘンリーの指摘を受けたアリアはハッとして、自ら額をぺちんと叩いた。
デールは今回、ルドマンの招待状でアベルが結婚することを知ったが、相手がアリアだとは知らなかった。
薄々相手がアリアなのではと感じてはおり、確認のためにデールも付いて来たがっていたのだが、国王が国政を放置して一般人の結婚式に参列など、大臣が許すはずもない。
……そもそも招待を受けたのはヘンリー夫妻のみである。
デールは泣く泣くヘンリーに、アリアへと【モモガキ】のおみやげを大量に持たせ、二人をラインハットから送り出したのだ。
「はっはっはっ! デールがアリアさんを処罰なんてしないよ。アリアさんぽくていいんじゃない?」
「そうかなぁ……」
「そうそう、なんか尊大な感じがさっ」
「えぇ……私そんな態度取ってるかなぁ?」
愉快そうに笑うヘンリーに、アリアは腕組みして首を捻る。
「アリアさんは将来大物になる素質があるよ」
「えぇ~……大物ってなにそれ~。アベルならわかるけど、私にそんな素質あるかなぁ?」
「いや、なんか不思議とそんな気がするんだよなあ……。これはオレの勘なんだけどさ」
「ヘンリー君の勘かあ……」
確信めいたヘンリーの物言いに、アリアの頭の中で勝手に妄想が膨らむ。
――私が将来大物に……? ラインハットの王子様の勘ね~……。
ドラクエといえば、王族がよく出てきて、その王族が不思議な力を持っていることがある。
……ヘンリーも王族だ。
ただのヘンリーの勘ではなく、彼を王族として見ると、なにかあるような気がしてくるから面白い。
ヘンリーの勘は当たるのだろうか。
自分はアベルの妻となるが――それだけだ。
大物になろうとも思ってもいない。
アベルを支え、彼を幸せにしてやりたい。
アリアは自分が大物になったらなったで面白いな、とは思ったが、それがアベルのためになるならいい――眠るアベルに視線を移し、目元を緩めた。
「…………あ、アリアって結構……(大胆だよなー……)」
ヘンリーがアリアの視線の先を見つけ、薄っすらと笑みを浮かべる。
つい呼び捨てにしてしまった。
……眠るアベルをよく見てみれば、唇にアリアと同じ色の口紅が付着している。
――アリアからキスしたってことか……?
くそ、羨ましい……!
オレのマリアは自分からしてくれたことないのに……と、ヘンリーはマリアにキスがしたくなった。
……今回の旅、ヨシュアは同行していない。
つまり、ヘンリーはマリアとイチャつき放題なのだ。
アリアに魅了されている場合ではない。
「……アベルに挨拶しとこうと思ったけど、起きないんじゃ仕方ないな。アリアさんのドレス姿が見られたし、オレはそろそろ戻るよ。今日はおめでとう。結婚式楽しみにしてるから」
「あ、うん、ありがとう」
ヘンリーがニカッと白い歯を見せ、なにかを示すように自らの下唇を人差し指でとんとんと叩く。
そして、明るく笑うと特別室を出て行った。
「……? なに……?」
アリアはヘンリーの考えが読めずに、アベルの元へと戻る。
……眠るアベルの唇が、いつもより妙に明るい色をしていた。
「…………やだこれっ、アベルの唇に口紅付いちゃってるっ……!」
――これかー!
時間差で気が付いたアリアは、アベルにキスしたことがヘンリーばれ、顔を覆って俯く。
「……っ、だって……アベル可愛いんだもん、しょうがないよね……?」
早く目覚めないかな……私の王子様――。
……なんて思いながら、アリアはもう一度アベルに唇を落として、そっと口紅を拭った。
アリア、アベル好き過ぎ。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!