最後のデート……?
では、本編どうぞっ。
二人は川沿いに高台を見上げながら歩いて行く。
ここからなら高台を歩いていても、川沿いを歩いていてもパパスを見つけることが出来るだろう。
しかし、パパスらしき人物の姿は見られなかった。
そんな時、アリアがくすくすと笑い出す。
「ふふっ」
「ん……? アリア、どうしたの?」
「初めて会った時もこうやって歩いたなぁーって思ってね。あの時は初めての異世界で何もかもが新鮮で、嬉しさ反面、すごく怖かったの。まぁ、今も多少怖くはあるんだけど……」
「え……あ、そうだったんだ……」
「でも、アベルが手を繋いで引っ張ってってくれたでしょ? とっても頼もしかったよ。あ、今もだけどね」
「っ、そ、それ程でも……」
アリアの言葉にアベルは後ろ頭を掻く。
「ふふっ、アベルって、親切でいい子だよね(照れてるとことか、可愛いよね……)」
アリアはアベルに優しく笑い掛けた。
「……いい子なんかじゃないよ……。僕は、君を……」
“妖精の村に戻してやる気はないんだから”
……言い掛けてアベルは言葉を飲み込んだ。
それを言ってしまったらアリアに嫌われるかもしれない。
嫌われるのが嫌というわけじゃない。
だけど、嫌われない方がいいに越したことはない。
アリアはアベルにとって、非常に貴重な“初めて”であり、この先出会えるともわからない希少な人物なのだ。
何故そう思うのか。
はっきりと自覚は出来ていないが、手放せば、
アリアを手放したくない。
彼女が居れば、例え
これまでアリア以外の人々や魔物でさえも、何度も同じ問答を繰り返していた気がするのに、アリアと出会ってそれらが多少なりとも違う問答に変わっている。
それを心地良いと、アベルは感じていたのだった。
だが、アリアにはアリアの事情というものがあるわけで、アベルはそれを無視して自分の都合で振り回そうとしているのである。
それも実力行使で。
どうやって、一緒に居てもらおうかな……?
そんなことを考えながら歩いていると、高台の教会が目に入った。
アリアも丁度目にしていたのか、口を開く。
「あっ、そういえば、彼が居ないね」
「彼……? 誰……?」
「ほら、妖精の世界に行く前に、教会の前に居た素敵なお兄さん。彼アベルに……」
「ムッ。その話はしないよっ!」
アリアが「彼アベルに似てたよね」と続けようとするが、遮るようにアベルが口を挟んで、走って行ってしまう。
声に怒気が孕んでいた気がして、
「あっ! もうっ! 何で怒るかなぁ……。ヤキモチでも妬いてるのかなぁー?(だとしたら可愛いわね)」
ねー、プックル? とアリアは残されたプックルと共にアベルの後を追った。
◇
「……何で僕以外の人の話をするかなぁ……(面白くないのっ!)」
何故かはわからないが、アベルは急に虫の居所が悪くなって、イラっとしてしまったのだった。
ずんずんと、地面を踏みつけるように歩く。
川沿いの道を進み橋を渡り、橋側民家の前で老人が日向ぼっこをしているので、挨拶だけでも……と声を掛ける。
アベルが口を開こうとすると、アリア達も追い付いて来ていた。
「こんにちは」
『こんにちは、おじいさん』
アベルに続いてアリアも声を掛け、丁寧にお辞儀をする。
すると、老人がアベルを不憫そうに見つめ、
「パパスどのの息子さんじゃな。これは噂じゃがパパス殿にはとんでもない敵がいるそうじゃ」
「え……? て、敵……!?」
『……敵……』
それって、アレよね……。
ゲーム的に宿敵みたいなのがいるのかしら……?
パパスさんの宿敵……どんな敵なのかな……。
いつか倒せるといいのだけど……。
アベルの驚きの表情とは裏腹に、アリアは深刻な顔で考え込んでいた。
「坊やがもっと大きければ、きっと父の助けを出来ただろうにのう……」
老人が眉尻を下げアベルの頭を撫でる。
残念そうなその物言いに、アリアはカチンと来たらしく、
『……何言ってるの、おじいさん! アベルは今でも充分助けになってるわよ……』
「え……?」
『アベルが居なきゃ、パパスさん今頃無茶して亡くなってたかもしれないわ?』
「……えっと、……よくわかんないけど……アリア何か怒ってるの……?」
何で急に怒って……?
アベルは突然怒り出したアリアに驚き、とりあえずここから移動しようと老人に頭を下げ、アリアの背を押して場所を変える。
高台の教会、階段下まで移動したのだった。
『もぉっ、アベルっ。おじいさんに物申したかったのに……!』
「っ、えと……怒ってる……よね?(アリアの声はおじいさんに聞こえないと思うけど……)」
『うん、怒ってる。アベルが居たから、パパスさんは生きて来られたんだと思うよ?』
「僕が居たから……?」
『そうだよ。子供が居たら無茶なんて出来ないでしょ? 無茶できないってことは、行動を控えるってこと。それによって生存率って上がるんだから!』
異世界から来た身から見たら、この世界はヤバイんだよ。
アリアは強くそう思う。
この世界の人達がいくらタフとはいえ、常に死と隣り合わせなのだから、無茶は禁物なのである。
「生存率……」
『パパスさんの性格がどうかは知らないけど……、例えば猪突猛進な人だったら、アベルが抑止力になってたと思うの。可愛い幼子と共に心中するようなこと、親ならさすがにしないでしょ?』
ちょとつもうしん……? と、アベルはアリアの話すことは難しいなぁと首を傾げて聞いていた。
『だからあなたは居るだけでいい。パパスさんの役に立ってるってわけ。オケ?』
「……えっと……?」
アベルはアリアの怒りの矛先がどこかわからず目をぱちぱちと瞬かせる。
『あなたが小さくても、大きくても関係ないって言いたかっただけ。大きくなった時、アベルが助けてあげたいと思ったら助けてあげればいいんだよ』
おじいさん、何か事情を知ってる風だったけど……、小さいアベルにあんな云い方しなくてもいいじゃない。
親の事情に子を巻き込むのはどうかと思うな……。
ある程度致し方ない部分もあるのはわかってるけどさ。
それでも、アベルを残念そうに見るのは許さないわ。
アベルは今でもそこそこ強いんだし、言われなくてもいつか、パパスさんの助けになるわよ……。
……アベルにはわからなかったが、アリアはアベルが否定されたように感じて怒っていたのだった。
「あ、うん……。僕、父さんの手助け、したいな」
『うん、パパスさんとっても素敵なお父さんだものね。アベルが大きくなった時、助けてあげられたらいいね』
「大きくなったら……、か……」
僕が父さんを助ける……?
そんなこと……あったかな……?
そんなこと一度も
アベルは思い出せず、額を抱えて“ふぅ”と息を吐いた。
『あっ! それともおじいさんの云っていた、とんでもない敵って、強い敵じゃなくって、すごい見た目とか、捕まらない敵とかなのかしら……?』
「すごい見た目……、捕まらない敵……?」
『まぁ、どっちにしてもアベルの存在は、パパスさんの心の支えだと思うわ。パパスさん、アベルの事大好きだもの』
「…………えへへ……」
父さん、僕のこと大好きなのか……嬉しいなぁ、僕も大好きだ。
アベルはアリアの言葉に胸がくすぐったくなった。
『アベルもお父さんが大好きね! いいなぁ。アベルのお父さん』
「へ……?」
『私のお父さん……あ、前の人生のね。私のお父さんはろくでなしだったから、アベルがちょっと羨ましいな』
「ロクデナシ……?」
突然にアリアは語り出す。
『いわゆる毒親というやつね!』
「ど、毒親……? 毒に侵されてるなら、キアリーで治るかな……?」
『え? ……あ。…………ふふっ。ありがと、アベル。そうだね、治るといいね』
アベルに淋し気な笑みを送って、アリアは遠き日の父親を思い出していた。
パパスっていい父親だなーと。
アリアさん、そんなに怒らんでもいいと思うんだけどね……。
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