天使再び!?
では、本編どぞ。
◇
しばらくしてアベルは目を覚ました。
目蓋を開き、見慣れない天井から視線を周囲に転じると、窓の外を眺めるアリアを見つける。
「ぅ……ぁ…………てん……天使がいる……」
彼女の横顔を目にしたアベルの口から“天使”の単語が零れ落ちていた。
「……ん……? あ、アベル目が覚めたのね、身体は大丈夫……? お父さまが無茶振りしてごめんね……」
アベルの声にアリアが振り返り、ベッドへやって来る。
「……ぅわ……すごい。アリア……想像以上なんだけど……♡♡♡」
――なにこれ……天使だ……! 翼を奪っておかないと逃げられる……!
心配そうに自分の顔を覗き込むアリアの頬に手を伸ばし、アベルは彼女の背に翼を探した。
「ん?」
――アベルはどこを見てるんだろう……?
アベルの視線が自らの背後に注がれると、アリアは彼がなにを探しているのか解らず目を瞬かせている。
「……めちゃくちゃ綺麗だ……。君は……いつの間に天使に戻ってしまったんだい……? 僕を置いて天界になんて帰っちゃ駄目だよ? 翼を奪っておかないと駄目かなぁ……」
「ちょっ……翼って、アベルなに言って……寝惚けてるの?」
不意にアベルの両手がアリアの頬を包み込んだ。
真っ直ぐに見つめられたアリアは、アベルの視線から逃れられずおずおずとそれを受け止める。
……アベルの目に映ったアリアの姿は天使そのもの。
いや、女神と言ってもいい。
彼女は神の塔で見た
アリアの透き通る肌に纏う、光沢のある白のウェディングドレスと、白金の髪が、窓から入り込む陽光を受け光り輝く。
彼女はいつも綺麗で可愛いが、今日はただただ美しく眩しい。
……まだ何色にも染まっていない花嫁は、今後自分の色に染まっていくのだ――。
そう思ったアベルは心ここにあらずで、アリアに釘付けになってしまった。
「……ううん、寝惚けてない。アリアに惚けてるだけ……」
アリアに訊ねられ、ぼんやりしたままアベルは答える。
……彼女の背に翼はない。
――よかった、翼はなかったんだった。
ゲマ、いい仕事して……いや、そんなことはないな。
アベルはゲマに爪の垢ほどの感謝をしてやろうとしたが、やっぱりゲマになど感謝はできず、その考えはすぐに捨てた。
「っ……、そ、そう……」
「アリア、僕さ……今日――」
――今日、僕はね。
ぽっと頬を赤く染めるアリアに、ベッドから抜け出したアベルは、彼女に会ったら言おうと思っていた言葉を伝えようと口を開く。
……すると。
ガチャッ! と、特別室の扉が勢いよく開いた。
「あ、お父さま」
「え」
「おお、気が付いたようだな! いやすまなかったアベル。ゆっくり休んでもらいたいところだが、もう結婚式が始まる時間のようだ。結婚式の段取りはこの男から聞いてくれ」
アリアの視線が急に扉へ向かい、アベルもそちらを見やる。
そこにはルドマンと、一人の男……式の進行係らしい、それと、一番後ろにはピエールの姿が――。
(……ん? ピエールがなんでここに……?)
仲魔である魔物たちは、結婚式に参加したことは無かったはず……。
アベルはなぜこの場にピエールがいるのか不思議に思ったが、アリアとの結婚式だからなのかと無理やり納得しておいた。
……ルドマンの紹介を受け、進行係の男がアベルとアリアの側へやって来る。
「あ、それではご説明いたします。まず花婿さまは先に神父さまのところへお連れします。そこで花嫁さまをお待ちください」
男はメモを片手に、アベルに顔を向けて式の流れを説明し始めた。
「花嫁さまは この特別室からお父さまと一緒にお歩きになって花婿さまの元へ」
今度はアリアに顔を向けて、説明する。
……アリアは黙って頷いた。
「神父さまのいらっしゃる祭壇の前でおふたりが出会います。そこで神父さまからお話がありまして、あとは指輪の交換となります。それではお時間ですのでさっそく始めますがよろしいですか?」
最後は二人を交互に見ながら説明をし、説明が終わるともう時間だから……ということで早速式を始めるらしい。
「え、あ」
「……ぶっつけ本番なんだ……! 予行があってもいいような気がするんだけど……ってそうか……当日だもんね……!」
アベルが答える前にアリアは緊張しているのか、両手拳を胸の前でぐっと握り込み微笑む。
……彼女の笑顔はちょっぴりぎこちない。
「アリア……大丈夫かい? 緊張してる?」
「ちょこっとしてるかも……。アベルは緊張してなさそうだね……?」
「え? あ、まあ……、いや……そんなことないよ」
――結婚式自体は数えきれないほどしてるからね……。
けど、君とは初めてだから……、僕も少しだけ緊張してるんだ。
アベルはアリアの拳をそっと包んで目を細める。
……アリアの手は緊張で小さく震えていた。
自分まで緊張してると言えば、アリアがガチガチになってしまいそうだ。
堂々としている自分を見て安心して欲しい――、そう願いアベルはアリアの握り拳に唇を落とす。
「そう、なの……?(どっちなんだろう……)」
アベルの想いとは裏腹に返事が曖昧だったからか、アリアは困惑し目を瞬かせていた。
「あの……始めてよろしいでしょうか?」
「っ、あっ! ちょっと待って下さい」
再び男に問われ、アベルは待つ様に告げる。
「アベル……?」
「アリア、花嫁はヴェールをしなきゃ」
「あ、そっか」
アベルはルドマン達の前だが、山奥の村で受け取ってきた【シルクのヴェール】を取り出し、アリアに被せるべく彼女のすぐ傍へ。
「……アリア綺麗だ。僕のために着飾ってくれてありがとう。君はいつも美しく可憐だけど、今日の君は格別だよ。君は最高だ。今日天使に戻った君の姿を、僕は一生忘れない」
「っ! …………」
ヴェールを被せながらアベルが熱のこもった声で囁くと、白いヴェールの向こうでアリアの頬が真っ赤に染まる。
ヴェールを被せ終え、アリアから離れたアベルは満足そうに目を細め、彼女を見つめていた。
まるでアリアしか目に入っていないような、蕩けるような瞳がアリアを射抜く。
――わぁああああっっ……! アベルぅ!! そんな歯の浮くようなセリフ人前で言っちゃらめえっっ……!!
アリアの脳内はアベルによる
……ヴェールを被せてもらってよかった。
アリアの頬は今までにないほどに熱い。きっと顔も赤いはず……と、恥ずかしさに俯いてしまう。
「……式が終わったら、ドレス姿の君をもっとじっくり見たいな♡」
「っ……うん」
アベルがアリアの手を握って告げると、彼女は顔を上げて静かに頷いた。
「……コホン、こ、この部屋は妙に暑いな。窓でも開けるとしよう」
アベルとアリアの仲睦まじい様子に居た堪れなかったのか、ルドマンが窓を開け始める。
潮風がそよいでアリアのヴェールを揺らした。
「あっ、っ……」
「ははっ」
ルドマンの指摘にアリアは再び俯き、アベルは笑って頭の後ろを掻く。
「花婿さま、そろそろ……」
「あ、はい」
「それでは花婿さま。神父さまの元へ私がご案内いたします」
アリアに花嫁のヴェールも被せたことだし、そろそろ式を始めよう……とのことで――。
男が「後ろについて来て下さい」と言うのでアベルはそれに従い、特別室を出ることにした。
「あ、ピエール。君……」
「…………」
部屋を出る際、ピエールとすれ違ったがピエール、彼は無言――。
ピエールが別世界の結婚式で、特別室に来たなんてことは一度も無い。
そして、なぜか彼はだんまり。
いったいなにがあったというのか……。
……もしかしたらアリアのウェディングドレス姿を見に来たのかもしれない。
アベルは気にはなったが、ピエールを部屋に残し、男の後ろに黙ってついて行った。
アベルにはもっと吐き気のする甘いセリフ(笑)を言わせたかったのですが、思い浮かばず断念しました。
あんまりやり過ぎるとただのキザ男になってしまうしなぁ……(甘いセリフとか実は苦手なんですよ……)。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!