さあ、やっと結婚式です……!
では、本編どぞ。
◇
……アベルが式、進行係男に連れられカジノ船の甲板に位置する祭壇にやって来ると、それまで雑談で賑わっていた参列者が一斉にアベルへと視線を注ぐ。
自らに注がれる瞳に、アベルも目礼しながら誰が参列しているのかと見回した。
そこにはビアンカを始め、フローラやヘンリー夫妻、修道院のマザー、ルドマン夫人、サラボナの町の人……は、ルドマンの関係者なのだろう。知らない顔もある。
……そんな多くの面々が一堂に会していた。
「では、花婿さま。花嫁さまがいらっしゃるまでこちらでお待ちください」
「はい」
――やっとここまで漕ぎ着けることができた……。
男に祭壇右側で待つようにと立ち位置を指定され、アベルは祭壇向こうのエアル神父に軽く会釈し、少しばかり警戒を解く。
ここまで来ればアリアが急にいなくなることは無いだろう。
……だが、今までのこともある。
確実にアリアと結婚するまで警戒は怠れない。
彼女との結婚式による緊張なのか、いつものように突然彼女がいなくなってしまうかもしれないという不安からなのか――、アベルの胸はドッドッドッと逸っていた。
「……よっ! アベルやっと起きたな。お前顔が怖いぞ。アリアと結婚するってーのに、なに辛気臭い顔してるんだ?」
緊張を解すかのように、花婿側、アベルから一番近い場所に立っていたヘンリーが声を掛けて来る。
……アベルの顔が、いつの間にか強張っていたようだ。
これから結婚で幸せなはずなのに、アベルの表情は真顔――。
「ヘンリー……」
「ずっと好きだった女と結婚するんだろ? 笑え。幸せになるには、先に笑うんだよ。アリアはいつも笑顔でお前を迎えてくれるだろ? お前も笑顔で迎えてやんな」
「……わかったようなことを……」
――ヘンリー……君にわかるわけない。
【世界の理】がいつなにを仕掛けてくるかわからないから、警戒は常にしておかなければ。
……姿もなければ、警告もない、いつも突然自分の行く手を阻む【世界の理】――。
それに抗うことの難しさは、数多別世界の記憶が無いヘンリーには理解できないであろう。
晴れの日だというのに、アリアが目の前にいなければアベルは笑えない。
……アベルは苦々しく微苦笑を浮かべた。
「はっ、オレは
アベルの様子に、ヘンリーの視線は隣に並ぶマリアに移される。
彼はマリアに優しい笑顔を見せていた。
「ヘンリーさま、アベルさんは緊張されているだけですわ」
「あ~、オレはマリアといられて幸せだな~! オレのマリア可愛い、毎日可愛い。キミは最高だよ」
アベルが見ている目の前で、ヘンリーはうっとりした笑顔をみせてマリアを褒めちぎる。
「っ、もぅ、ヘンリーさまったら……人前ですわ……ぽっ」
ヘンリーの手がマリアの手を握ると、彼女の頬は赤く染まった。
……この夫婦、確かそろそろ結婚して一年経つ頃なのだが、未だ新婚のように熱いらしい。
「……勝手にして。……ふっ」
アベルは急にいちゃつきだしたヘンリー夫妻から目を逸らし、笑った。
――ヘンリーありがとう、ちょっと気が紛れた。
アリアが無事自分の元へやって来ますように……。
今か今かとアリアを待ちながら、アベルは周りから聞こえる祝いの言葉に耳を傾ける。
ビアンカやフローラは少し離れた場所に立っているため、話すことはなかったが、仲良くお喋りしているようで、二人の楽しそうな笑い声だけは聞き取れた。
「それでは本日、これより神の御名においてアベルとアリアの結婚式を行います。皆さん、甲板後方の特別室をご注目ください。花嫁、アリアの入場です!」
エアル神父の掛け声とともに、参列者たちが一斉に特別室に注目する。
すると特別室からルドマン、アリア、ピエールの三人が出てきた。
……ルドマンが先頭を行き、アリアがその後ろにつく。
アリアのドレスの裾をピエールが恭しく持ち、祭壇にやって来るではないか。
「っ……!?(ピエールっ!?)」
――なぜピエールがアリアと一緒に……!?
アベルは息を呑み、目を丸くした。
他の参列者たちも、魔物の登場に驚くかと思いきや――。
……ヒソヒソ。
怯える様子はなく、彼らが笑顔で言葉を発する。
『あのスライムナイトが、瀕死だった幼いアリアお嬢様を救った命の恩人らしいですよ。今もお傍でお守りしているとか』
『なんと、魔物にも騎士道を重んじる者がいたとは……』
『彼は魔物ではなく、騎士様と呼んだ方がいいかもしれないな』
……ルドマンから聞かされていたのだろうか。
ピエールの評判は良く、みな好意的な瞳で花嫁がやって来るのを待っていた。
(そっか……、やっぱりピエールはお父さんなんだな……。)
成り行きで、ルドマンが急にアリアの父となってしまったが、彼女の心情的にはピエールの方が父親に近いのだろう。
そしてルドマンも、ヴァージンロードを娘と歩くのを譲らなかったと見える。
先ほど特別室で会ったピエールが無言だったのは、緊張していた……ということか。
アベルは理解し、口角を上げた。
……アリアが祭壇近くまでやって来ると、アベルは彼女を連れに向かう。
「アリア……」
「アベル……」
アリアを見た途端、アベルの表情は柔らかくなり、この上なく幸福そうな顔へと変貌した。
アベルがアリアに手を伸ばす。
アリア、彼女はその手を取り、アベルの優しい笑顔に目元が緩んだ。
……アリアを祭壇まで連れ、エアル神父の前に二人で並ぶ。
祭壇の上には【炎のリング】と【水のリング】がリングピローの上でそれぞれ異なる輝きを放っていた。
近くのヘンリーからは「くくくっ、あいつの顔! なんだ、心配なかったみたいだな」の声――。マリアにこそこそ告げると、「しぃっ」と窘められている。
そんな二人の様子をエアル神父が微笑ましく見守ってから、彼は今一度姿勢を正し口を開いた。
「おお神よ。このよき日、よき場所にこの花嫁と花婿が導かれました。このふたりの出会いをどうぞ祝福してください。さあそれでは、おふたりの誓いの言葉を。汝、アベルはアリアを妻とし……すこやかなる時も病める時も、その身を共にすることを誓いますか?」
エアル神父の言葉に、アベルはすぅと軽く息を吸い込みこう答える。
「はいっ! 誓いますっ!!」
明るくはきとしたアベルの元気な声が、穏やかなさざ波の上で弾けた。
その声のあまりの大きさに、隣のアリアの肩が揺れる。
「っ!」
――び、びっくりしたぁ……! アベル、声が大きいよ……!
なにもそんな大きな声を出さなくても聞こえるのに……と、アリアはただでさえ緊張しているというのに驚かされ、心臓がどきどきと跳ねて仕方ない。
参列者たちもアベルの声にくすくすと小声で笑った。
結婚することができて花婿は余程うれしいのだろう――と、彼らの眼は温かい。
……さて、花婿の誓いが終わった後、お次は花嫁、アリアの番だ。
「汝、アリアはアベルを夫とし……すこやかなる時も病める時も、その身を共にすることを誓いますか?」
「はい、誓ぃ……――ぁ」
エアル神父に顔を向けられ、アリアは誓いの言葉を発しようとしたが、カジノ船、船首の上空を見上げて固まってしまった。
「……アリア……?」
――なんだ……? アリアどこを見て……。
アリアがなにを見ているのか、アベルも倣い上空を見上げる。
そこには一羽のトンビが青空の中「ピーヒョロロロロ」と鳴き声を上げ、結婚式の様子を見下ろすように旋回していた。
……そのトンビ、足になにかを掴んでいる。
いったいなにを掴んでいるのだろう、アベルが目を凝らすと白い花……のようだ。
二人の結婚を祝福しに来たとでもいうのか……。
「……新婦アリア、誓いますか?」
「あっ、はい、誓います」
――いけない、よそ見しちゃってた。
再び問われ、アリアはやっと誓いの言葉を口にする。
「よろしい。では指輪の交換を」
エアル神父はリングピローから、アベルには【水のリング】を、アリアには【炎のリング】を取るよう促す。
アベルはアリアの指に【水のリング】を収め、アリアはアベルの指に【炎のリング】を収めた。
「アリア」
「アベル」
二人は指輪を交換すると、互いに見つめ合い笑みを交わす。
「それでは神の御前で、ふたりが夫婦となることの証をお見せなさい。さあ、誓いの口づけを!」
……指輪交換が終わると、誓いのキスをしなければならないらしい。
ヘンリーも奥さんに最高とか言ってるので、アベルと語彙が同レベルだと思って下さいw
ピエールさん、嬉し恥ずかしヴァージンロードを歩く。
兜の中でこっそり涙してるんじゃないかなw
最初はルドマンとピエールを両脇に従え歩くつもりだったのですが、船上だったので狭くね?と思い前後と相成りました。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!