結婚ワルツだー、わーい!
では、本編どぞ。
◇
「アベルおかえりなさい」
「ただいまー……って、まだやってたんだね……ははは……」
新郎新婦席前に戻って来たアベルをアリアが迎える。
アベルがカジノ船に戻っても宴は続いており、甲板の上では楽し気な音楽が流れていた。
なぜか個々のテーブルは端に寄せられ、皆思い思いに身体を揺らしダンスを踊っている。
――なんでみんな踊っているんだ……?
見たところ参列者だけでなく、カジノ船のスタッフも混ざっている。
甲板上ではちょっとした人だかりが出来ており、その中心にはアベルの仲魔であるパペックとキャシーの姿があるではないか。
「あれ……? キャシーとパペックがなんでいるんだ……?」
「うん、みんなと色々お話してたら踊りの話になってね。キャシーとパペックを連れて来たの」
「え、それってアリア、ルーラを使ったってこと!?」
「え? あ、あはは……、ほら、ポートセルミ近いし……?」
アベルの問い掛けに、アリアは目をどこぞへと泳がせた。
……気まずそうだ。
「っ……アリア~!」
「だ、大丈夫! 私ちゃんと戻って来たでしょ? それにちゃんとピエール君たちも連れて行ったし! すぐ町に入ったから魔物にも遭遇してないよっ! アベル過保護過ぎじゃない……?」
「……ぅ、それならまぁいいけど……」
アリアに上目遣いで窺われ、アベルは渋々納得する。
結婚もしたから、そこまで心配せずとも大丈夫だろうとは思うが、油断は禁物だ。
“ここにいるね”と言っていたではないか。
確かにアリアは
……とにかくアリアがここに居てくれて良かった。
「あ、けどアベル」
「う、ん?」
「モンスターじいさんの所に行ったらね、ジュエルがロッキーと一緒にいたいって泣くから、勝手に置いて来ちゃったの。ごめん……」
アリアは申し訳なさそうに眉を下げる。
「あ、そうなんだ?」
「ダメ……だったかな……?」
「あ、いやいいよ。そういえば、今度新しい仲間が入ったらジュエルをモンスターじいさんに送る約束だったしね」
――私怨でつい、ベホマンを送ってしまってたもんな……。
滝の洞窟で新たな仲間が出来たことを、アベルは馬車に残ったみんなに伝えていない。
ジュエルがロッキーをそこまで好いているとは思わなかったが、戦闘に参加する主要メンバーはほぼほぼ決まっているから、ジュエルが抜けても問題はなさそうだ。
なにせジュエルは耐久性に優れており強いのだが、思い通りには動いてくれずその扱いは難しい。
丁度良い機会だったと思って、アベルはアリアの選択に笑顔を見せた。
「よかったぁ。勝手なことしてごめんね」
「ははは、そんなことで謝らなくていいよ。パペックとキャシーならまたポートセルミに置いて行けばいいし?」
「あ、そっか! それもそうだね」
優しい笑みで話すアベルの様子に、アリアは ほっとしたのかはにかむ。
「で、パペックとキャシーが、みんなをさそうおどりで踊らせてるんだね?」
「うん、そうなの」
「ははっ、みんな楽しそうだね」
「ねっ♡」
甲板で踊る人々は殆どが笑顔だったが、無理やり踊らされ悲鳴を上げる者の姿も――。
足が追い付かないのだろう、「助けて~」と小太りの中年男性がくるくる回りながら涙を零していた。
……その周りではビアンカ達も楽しそうに踊っている。
ルドマンは夫人とともに、甲板の端の方で笑顔で踊るフローラを穏やかな目で見守っており嬉しそうだ。
ヘンリーとマリアは二人で手を取り合いながら踊り、二人の世界である。
「……アリアは踊らないの?」
「ん? あ、んー……実はアベルと一緒に踊りたいな~って思って待ってたの」
「へ?」
「ふふふっ♡ 旦那さま、私と一曲踊っていただけませんか?」
アリアはアベルに片手を差し出し、ダンスを申し込む。
普通逆ではないか……? アベルはそう思ったものの、目を細めてアリアの手を取った。
「アリア、ダンス上手くなったから上手に踊れるよね?」
「んー……どうかなぁ? 足踏んだらごめんね」
「いいよ? いっぱい踏んでよ!」
「っ、もぉっ!」
二人は手を繋いで、即席のダンス会場となった場所まで歩いて行く。
アベルとアリアが皆の元に辿り着くと、会場の中心にいたキャシーとパペックが踊りながら二人に場所を譲り、甲板の端へと
それを目にしたその場に居た者達も二人に場所を譲り、温かな目で見守る。
「あれ? ……みんなもう踊らないの……?」
アリアは急に二人だけ注目された形で歩み出てしまったため、遠巻きに自分達を見る皆を窺った。
……皆の目は温かなものだが、注目されるのは苦手である。
「アリア、踊ろう!」
アベルの一声で、それまで流れていたテンポの良い軽快で明るい曲が、四分の三拍子のワルツへと移行した。
「わっ、曲が変わった!?」
「あ、本当だ……」
――この曲なら……。
急な曲の変更にアベルはアリアの腰を引き寄せ踊り始める。
恐らく別世界の記憶のせいだろう、身体がワルツを憶えているようだ。
アベルの足は軽やかに動き、戸惑うアリアをリードした。
「っ、すごい……! アベル踊れるの!?」
――これ社交ダンスってやつじゃないの……!?
アリアはアベルがあまりにダンスをそつなくこなすので、リードされるままに驚いている。
「ははっ、すごいでしょ? まあ、僕はなんでもできるんだよ」
「わわっ……すごーい! 私の旦那さまってなんてステキなのっ!?」
――さっすが主人公さまっ……!
アリアの身体はアベルによって くるっと一回転させられ、華麗に止まった。
長いウェディングドレスの裾が、ふわりと遅れて床板に落ちる。
そして、またアベルがアリアの腰を引き寄せ、身体を揺らした。
そんなアベルにアリアはキラキラとした眼差しを向ける。
「フフ♡ ……あいたっ!」
アベルは得意げに笑うも、すぐに眉を顰めた。
……アリアに足を踏まれてしまったのだ。
「あ、えへへ……足踏んじゃった……ごめ~ん。私、こういう踊りは苦手みたい」
――密着してるから踊り辛いんだよね……。
アリアは社交ダンスなどしたことがない。
二人で踊ると言っても、ただ向かい合って好きに踊るだけだと思っていたわけで、まさかのワルツ。
前世、テレビくらいでしか見たことがないのに、ワルツを踊れるわけがないのである。
……アリアがアベルの足を踏むと、それを見ていた人々が一様に「おぅふ」と一瞬渋い顔を見せたが、すぐに笑顔に戻る。
やはり皆の視線が温かい。
それに、皆も早く踊りたい様子――。
二人が立ち止まっている周りで踊り始めるペアが出始めていた。
始めこそアベルとアリアを見ていたヘンリー夫妻も、いつの間にか踊りだしており、身体を音に任せている。
二人は息がぴったりだ。城で暮らしている間に練習でもしていたのだろうか。
ヘンリーは王族だし、出来て当たり前なのかもしれない。
「いいよ。もっと踏んで♡」
「ぅ、だ、だからそれさ……」
「君は僕の奥さんだから、いくらでも踏んでくれていいんだ。むしろ踏んで♡」
「も~……! このヘンタイさん……♡」
アベルのヘンタイ発言にアリアは小さな声で呟く。
アベルは嬉しそうに破顔したのだった。
結婚ワルツは思い出の曲。
アリア、アベルと踊れてよかったね……っと。
パペックとキャシー、久しぶりに登場です。
セリフないけど……。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!