ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

始めが肝心……なんですかね。

では、本編どぞー。



第六百四十八話 始めが肝心

 

 アベルが宴第二部の終わりを願っていると――。

 

 

「ヒック……いや~、久しぶりに酒を飲んだよ~。ごはんもうまいし、女房も楽しんでるみたいだし。あ、マスターおかわりもらえるか~い?」

 

 

 不意に町の住人の男が【バーカウンター】にやって来て、酒のおかわりを要求してくる。大分出来上がっているようで、顔が真っ赤である。

 

 

「ああ、あんたは防具屋の旦那さんだね。さっきと同じものでいいかい?」

 

「ええ! 今夜は飲めるだけ飲んでやるんだ」

 

「はっはっは。いくらでも飲みなよ」

 

 

 酒場のマスターが言うに、やって来た男は防具屋の旦那らしい。

 アベルは二人のやり取りを黙って見ていた。

 

 

「アベルさん、はじめが肝心だよ」

 

 

 酒場のマスターが酒を作り始めると、防具屋の旦那が話し掛けてくる。

 

 

「え?」

 

 

 ――なんのことだろう……?

 

 

 アベルは首を傾げた。

 

 

「……うちは女房が店をきりもりしていてね。働き者の女房でいいんだが……あ、酒酒――あ」

 

 

 防具屋の旦那が話す中、酒場のマスターがおかわりを持って来ると、そのグラスをヒョイと誰かが奪った。

 

 

「あんた! ルドマンさんの奢りだからって飲み過ぎるんじゃないよ! (うち)に帰ったら掃除が残ってるんだからね!」

 

「あ、ああ、わかってるよ……」

 

 

 防具屋の旦那のおかわりを奪ったのは中年の女性……、年齢や言い方から察するに、今し方言っていた女房とは彼女のことではなかろうか。

 

 少し――性格がきつそうだ。

 尻に敷かれているのか、防具屋の旦那はすっかり酔いが醒めたように首を縦に下ろす。

 

 

「ほら、あんたはこれでも飲んでな!」

 

 

 防具屋のおかみは、おかわりの酒と【バーカウンター】に置いてあったジュースを入れ替え、旦那の前に置いた。

 

 

「こ、これはジュースじゃないか……」

 

「ジュースでいいんだよ! まったく酒に弱いくせにたくさん飲もうとするんだから……、心配するだろ」

 

「おまえ……♡」

 

「明日も休まず営業するんだ! あんたが倒れたら誰が家事をするって言うんだい!?」

 

「え、あ、あはは……。そ、そうだね……」

 

 

 “それを飲んだら帰るんだよ……!”と防具屋のおかみの声に、旦那は委縮したようにちびちびとジュースを飲み始める。

 彼女は旦那のおかわりした酒を手に、人の集まっているテーブルへと行ってしまった。

 

 【バーカウンター】に残った防具屋の旦那は、アベルと目が合うと苦笑いを浮かべる。

 

 

「な、始めが肝心なんだよ」

 

「あ、はあ……」

 

 

 ――どういうことだろう……?

 

 

 防具屋の旦那の言葉の意味がアベルにはよくわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 宴第二部が始まり数時間が経過し、夜の帳が落ちる頃――。

 アベルとアリアは自分たちの席へ戻って来ていた。

 

 教会内では歌う者や踊る者、一発芸をする者等、あちこちでグループが出来ており、皆思い思いに楽しい時間を過ごしている。

 中には家に帰る者もちらほら出始めたが、飲めや歌えやの宴会はまだまだ続くようだ。

 

 

「アベル、こんなこと訊いていいのかわからないけど……」

 

「ん?」

 

「……別世界でもこんなに長く宴をしてたの……?」

 

 

 アリアは宴の様子を見ながらアベルに訊ねる。

 その顔には疲れが見えた。

 

 

「え? あ、いや……別世界ではサラボナでしか宴はやってなかったから、船上パーティーが特別だったんだよ」

 

「そうなんだ……」

 

 

 アベルの説明にアリアの睫毛が伏せられる。

 “あふ……”と彼女はあくびを噛み殺した。

 

 

「アリア疲れた……よね?(眠そう……)」

 

「うん……少し……」

 

 

 ――あ、あの人式に参列してくれた人よね……? 異世界の人達体力あり過ぎでしょ……!

 

 

 第一部から参加している人が目に入り、アリアはアベルに頷きながら感心してしまう。

 

 

「そっか……、先に別荘に戻るかい?」

 

「いいの……?」

 

「うん……、アリア眠そうだし、さっきルドマンさんがアリアは抜けていいって言ってたよ」

 

「アベルは……?」

 

「僕はまだ抜け出せそうにないかな」

 

 

 ――本当は一緒に抜け出したいんだけどね……。

 

 

 アベルは眠そうなアリアの後れ毛を耳に掛けてやった。

 

 

「ふふ……ごめんね。本当は……――」

 

 

 ……アリアが頬をぽっと赤くし、なにか呟くが、周りの声がうるさくてよく聞こえない。

 

 

「う、ん?」

 

 

 アベルは耳を彼女の口元に近付けた。

 

 

「……今夜は初夜だったのにね?」

 

「ショヤって……っっ!?」

 

 

 アリアの囁く声にアベルの顔が“ぼっ”と瞬時に燃え上がる。

 

 

「……でも、アベルまだ十七歳だもん。ダメよね……。じゃあ、私、先に別荘に戻ってるね」

 

 

 続けざまアリアはそう告げると、赤い顔のまま立ち上がって行ってしまった。

 

 

「あっ、アリア……僕っ!」

 

 

 アベルは出遅れ、立ち上がってアリアに声を掛けたが、その声は人々の声で掻き消される。

 

 

 そんな時――。

 

 

「アベル~、どうした? ほら飲めよ! アリアさんも……ってあれ? アリアは?」

 

 

 ワインボトルを手にヘンリーが現れ、アベルにグラスを持つよう促した。

 

 

「……アリアなら先に別荘に戻った」

 

 

 アベルは目の前の空のグラスを持ち上げ、ヘンリーに注いでもらう。

 一国の王兄に酒を注がせるのは、アベルくらいのものだろう。

 

 

「そっか~、残念だなぁ、せっかく久しぶりに会ったから、もっと一緒に色々話をしたかったのに……」

 

「マリアさんがいない間に、アリアと話をしたいって……?」

 

 

 ――魂胆が見え見えなんだよ、ヘンリー……。

 

 

 アベルはアリアの不在に、がっくりと肩を落とすヘンリーをじろっと睨み付ける。

 

 ……マリアは宴第二部が始まって早々疲れてしまい、一足先に宿屋で身体を休めていた。

 

 ヘンリーは愛妻家である。邪心はないだろうが、マリアの居ない間に、たまにはアリアと話をしたいのだろう。

 なんたって、アリアはヘンリーの初恋の相手なのだから。

 

 

「ぅ。……違うぞ……! きゅ、旧友じゃないか……! 昔話をちょっとばかししたかっただけだよ。あ~も~いいよ。オレ、ルドマンさんのところに行って来る……」

 

 

 “アリアに早くオレを思い出して欲しかっただけなのに……。”

 

 

 ぶつぶつとヘンリーは唇を尖らせ、アベルから去って行く。

 アベルの読み通りやはり邪心はなかったが、アリアと話をしたかったのは本当のようだ。

 

 

「あ、ヘンリー……! ……はぁ」

 

 

 ――早く終わらないかな……せっかく今夜は新婚初夜なのに……。

 

 

 ヘンリーを呼び止めたが、アベルの声は人々の喧噪に掻き消される。

 アベルはがっくりと肩を落とした。

 

 ……今夜の主役は自分とアリア。

 

 だがアリアは体力が無いし、ルドマンの娘として丁重に扱われているから宴を抜けても咎められることはない。

 

 アベルも彼女と一緒に抜けたかったが、ルドマンから「か弱いアリアはともかく、頑強な主役が抜けてどうする!」と引き留められてしまった。

 

 フローラもいつの間にか屋敷に戻ってしまっており、宴会場に残っている知り合いはルドマンに……ビアンカとヘンリーだけ。

 

 あとは顔見知り程度の町の人々ばかりだ。

 




防具屋の旦那、尻に敷かれてるんですよね~w

夫婦の形は色々です。
アベルとアリアはどんな風になっていくのやら。

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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!
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