どんな薬なんでしょーね~。
では、本編どぞ。
アベルは再び着席し、ヘンリーから注がれたグラスを眺める。
中身は発泡する白いワイン……。
アリアと二人で向かい合って静かに飲みたかった……なんて思いつつ、アベルはグラスを傾けようとした。
そこへ。
「アベル~」
不意に、正面から笑顔で手を振るビアンカがやって来る。
彼女の片手にはアベルと同じものであろう、ワインの入ったグラスが――。
「え? ビアンカ?」
「うふふっ。美味しいお酒と美味しい料理がいっぱいで最高~♡ おめでと~」
“チィンッ!”
ビアンカはアベルの席にやって来ると、アベルが手にしたグラスに自らのグラスを打ち付けた。
ガラスが重なり合い軽快な音が響き、ビアンカは上機嫌でワインを飲み干す。
「あははは……なんか出来上がってるね……」
――ビアンカあんまり顔が赤くないけど……相当飲んでるみたいだ……。
ビアンカのあまりの良い飲みっぷりにアベルが空笑いすると、彼女はアリアが座っていた席に腰掛けた。
「ふぅ……えへへ、そぉかな? さっきルドマンさんから出資を申し出られてね。スパの建設費を一部負担してもらえることになったの♡ これで彼の負担が減るわ……よかった」
……ビアンカはさっきまでルドマンと飲んでいたらしい。
ルドマンと提携でもするのか、彼女はにこにこと嬉しそうだ。
ビアンカの言う彼――。
「彼……あ、婚約者……か」
――うーん……あんまり聞きたくないなぁ……。
ビアンカの話にアベルの顔は強張る。
アリアを選んでおいて勝手だとは思うが、ビアンカの幸せ話を今はまだ、心から喜べない。
「ンフフ。彼、カワイイんだ~……あ、そうだ。アベル」
「ん?」
「これあげるね」
突然ビアンカが鞄の中から、茶色い丸い薬ビンを取り出しテーブルの上に置いた。
「へ?」
「……元気が出る薬。薄めてある廉価版なんだけど、効くよ。別荘に戻ったらアリアに飲ませてあげて。気力体力がみなぎってくるから」
ビンには“ファイトーー”と書いてあるが、その先はぼかされておりよく読めない。
廉価版だからなのだろうか……。
「あ、ありがとう……」
――これに似たものを僕は知ってる気がする……。
アベルは薬ビンを手に取り、見下ろした。
「どういたしまして! ……ふふっ、アベルもそろそろ別荘に戻ったら?」
「え、けどルドマンさんがうるさいし、仲魔たちも心配だし」
ビアンカが抜け出していいと勧めてくれるが、ルドマンが気になるし、第二部で疲れ、馬車に戻った仲魔たちの様子も見ておきたい。
そんなアベルの心中を察してか、ビアンカが“ふぅ”と小さく息を吐き出した。
「諸々ビアンカさんが上手くやっておくから、今の内にこっそり抜けちゃいなさい。明日、私帰るけど、ルドマンさんが帰りの護衛をつけてくれるからアベルは心配しなくていいからね」
「あ……、ありがとうビアンカ……!」
「……アベル、今日は本当におめでとう。アリアと幸せにね」
「ビアンカも……!」
ビアンカに背を押され、アベルは宴会場を抜け出し、別荘に向けて走り出す。
――アリア……! 今行くから寝ないで待っててね……!
◇
……夜遅く、ビアンカの助けを借りてアベルは別荘に戻って来た。
勢いよく扉を開け放ち、アベルは部屋に駆け込む。
「アリアーーっっ!!」
ルドマンの別荘は、扉を開ければすぐに目に入るように大きなベッドが置かれている。
アリアは……――。
「はぁっ、はぁっ……くっ……やっぱりか……!」
ベッドの上ではアリアがウェディングドレス姿のまま、眠りに就いていた。
彼女はすぅすぅと小さな寝息を立てて幸福そうに眠っている。
――アリア、寝てるぅ~~っ!
アベルは終わった……と、ベッドの傍らで両膝をつく。
しばし天井を見上げ涙を零した。
……予想はしていた。
だが、寝ずに自分を待っていてくれればビアンカから貰った“元気が出る薬”でアリアは元気を取り戻し、今夜結ばれたというのに……。
(悔しい……。)
こんなことなら一昨日の夜、彼女が誘ってくれた時に致せばよかった――、つまらない拘りでチャンスをふいにしたアベルは唇を噛みしめる。
いまさら後悔してもどうにもならない、後の祭りだ。
「……っ、アリアぁ…………」
――綺麗だなぁ~……けど、寝るなら着替えればいいのに……。
眠ってしまったのなら仕方ない。
思えば式や宴で忙しく、二人きりになる機会もそうなく、アリアのウェディングドレス姿をじっくり見る暇がなかった。
そんな眠る天使を見つめ、アベルは花嫁姿の彼女を目に焼き付けることにした。
アベルの瞳は最初は涙目だったが、次第にうっとりしてくる。
「アリア……♡ 僕の花嫁……」
【世界の理】の力に打ち勝ち手に入れた真っ白な花嫁――。
アベルはベッドに肘をついて顔を支えると目を細めた。
……アリアはビアンカやフローラと違い、小さくて儚げで、ちょっと精神的に弱いところもあるが、どこまでも優しく、どんな自分をも包み込んで安心させてくれる不思議な女性だ。
彼女は大人っぽかったり、無邪気な子どものようだったりと、自由に振舞っているようでいつも自分を気遣ってくれる。
時に自分を振り回してくれるし、いつもにこにこしていて一緒にいて楽しい。
……アベルは陶器のような彼女の頬にそっと触れる。
彼女の肌は滑らかで触れるだけで気持ちが好かった。
思えば幼い時は色恋ではなかったが、初めて出会った時からアベルはアリアが好きだった。
大人になって再会、一目惚れし、恋仲になり、やっと夫婦になれた……。
明日からは夫婦として旅を続ける。
せっかく誕生日を迎え、晴れて最後まで解禁――というところでアリアが眠ってしまい、非常に残念ではあるが、アベルの思い通りにいかないのは常だ。
こんなことでアベルが へこたれることはない。
「……アリア……明日から覚悟してよね……!」
“明日こそは……!”――何度言っただろうか。
まあ、夫婦になったわけだし、遅かれ早かれ結ばれるはず。
しばしの我慢……――。
ぐっと拳を握りしめたアベルの眉が寄せられる。
「――っ! ぅ……けど、僕、もう一年も我慢してるんだよ……!?」
――限界だよっっ!!
アベルは立ち上がりベッドに膝をつき、眠るアリアに覆い被さるように覗き込む。
……ギシッとベッドが軋んだ音がした。
ビアンカに廉価版ファイトほにゃららをいただきましたw
ちゃんとしたやつはこの先、テルパドールで買えるんだけどね。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!