夜は長いのです。
では、本編どぞ。
「……アリア、ねえアリア」
「…………」
「アリア、起きて。僕、今日十八になったんだよ」
「……ん……ぅ、ん……? おも……、じゅ……はち……??」
アベルの呼び掛けに、アリアは薄っすらと目蓋を開く。
「あっ♡ アリア……起きた……♡」
――お酒飲んで寝たのに起きてくれた……!!
彼女の目覚めにアベルは満面の笑みを浮かべた。
「……ぁ……アベル……、も、二次会終わったの……?」
「うんっ! 終わった……! だから、僕も戻って来たんだ」
「ん……、そっか……おかえりなさい。ぁ……ね、どして私の上に乗ってるの……? ちょっと重いよ……?」
――顔が近い……、アベルの顔格好良いなぁ……。
アベルの顔は緩みまくっており、アリアを優しい瞳で見下ろしていた。
彼女が自分を見下ろすアベルの頬に手を添わせる。
……寝惚けているのだろう、状況をよく理解できていないようだ。
「アリア……僕、今日誕生日なんだ」
「え……?」
――そっか、今日はアベルの誕生日かぁ……お祝いしなきゃ……。
アベルに言われてアリアは目をぱちぱち、数度瞬かせる。
アベルの誕生日を知ることができて嬉しい。
来年は仲間内で誕生会でもしよう……などと未だ冴えてこない頭でアリアは漠然と思った。
「……だから、いいかな……」
「いいかなって……ぁ。ぇっと……ちょっと待って、アベル」
「ん?」
「ちょっと退いてくれる? 重いの」
「えっ? あっ、はい」
どけと言われ、アベルは素直に彼女の上から退く。
……アベルの意図したことは伝わらなかったようだ。
そんなアリアは身体を起こし、さっとベッドから下りてしまう。
いったいなにをするつもりなのだろうと、アベルは彼女を見守った。
「アリア……?」
「……はいっ。ちょっと寝てて皺が寄っちゃってるかもしれないけど」
ベッドに膝立ちしたままのアベルの目の前で、アリアはゆっくりと一回転してみせる。
「あ、アリア……? なに? ダンス?」
「え? あれ? アベル、ウェディングドレス姿見たいって言ってなかったっけ? 私着替えないで待ってたんだよ?」
“……けど眠くなって来ちゃって、ちょっと仮眠を取っていたの。”
アリアは一回転し終え、スカートをちょんと抓み上げにこにことアベルに微笑み掛ける。
「あっ……そうだったんだ……。朝まで眠るつもりじゃなかったっていうこと?」
「うん……だって。今日は結婚したし……今夜はその……、ね……?」
アベルの問い掛けにアリアは頬を赤らめ、手を合わせながら上目遣いに窺った。
「ぁっ」
――これ、アリアもその気じゃないのか……?
思いの外、アベルの声は小さい。
察したアベルも彼女に釣られるように頬を紅く染めた。
「……アベル、ね。このドレスね、独りじゃ着れないんだよ?」
「そ、そうなんだ?」
「うん……、背中の紐……緩めて欲しいの。脱がせてくれない?」
アリアはアベルに背を向ける。
白い細腕が後ろ髪を上に持ち上げると、滑らかな腋とうなじが露わになり、白金の髪がぱらぱら……零れ落ちた。
普段見慣れない彼女の素肌に――
「えっ」
――ナニ? どういう状況……??
アベルは現状を把握できずに、目を丸くする。
「……ダメ?」
「全然ダメじゃないです」
「じゃあ、お願い。そんなところにいないで、早く傍に来て?」
アリアがチラッとアベルに目配せした途端、アベルの脚は勝手に動き出していた。
「は、はい、ただいま……! って、うわっ!」
“ビタンッ!”
自らの意思とは別で身体が反射で動いたからか、脚が縺れアベルは床に顔から落ちる。
「あいたっ!!」
……アベルの口から声が漏れ出て、部屋には顔を打ち付けた大きな音が響いた。
「アベルっ!?」
アリアは慌ててアベルに駆け寄る。
「ッ、テテテ……ははは……」
「大丈夫……?」
アベルが顔を上げると鼻が赤くなっていた。
ちょっぴり鼻血も出ているので、アリアがハンカチを当ててくれる。
「うん、平気……ごめん。アリア、僕 格好悪……」
「ううん、アベルはいつも格好いいし、可愛いよ♡」
ハンカチでアベルの鼻を押さえながら、アリアは優しく笑った。
「ははは……カワイイって……」
――僕、カッコ悪いよねー……。
我を忘れて身体が勝手に動いてしまった……と、アベルは小さく【ホイミ】を唱えて回復させる。
……回復呪文のおかげで鼻血はすぐに止まった。
◇
◇
◇
さて、仕切り直しである。
「えっと……どうすればいいの?」
「あ……、んー……、背中の紐を解いて、ドレスを下ろしたら、私を抱き上げて欲しいの」
「……っ、わかった」
――ずいぶん固く結んであるんだなぁ……。
アベルはアリアの背後に回り、覚束ない手でドレスの紐を解いていく。
ドレスの紐はかなり固めに結ばれており、身体も締め付けられている。彼女の言った通り、独りでは脱ぎ着が大変そうだ。
「花嫁さんて、大変なんだね~。ウェディングドレスって窮屈。体験してみないとわからなことって多いね」
「確かに。これだけきつく締められてたら、苦しかったよね……?」
――なんだか早く開けたいのに開かない、プレゼントの紐を解いてるみたいだな……。
アリアが髪を上げたまま呟くので、アベルは固い結び目に四苦八苦しながら訊ねてみる。
「うん……少しね。けど一生に一度の思い出だし、アベルが褒めてくれたし、着て良かったよ♡ 褒めてくれてありがと、アベル♡」
「アリアはなにを着ても綺麗だよ。その……、なにも着てなくても……綺麗だし」
――よし、紐は解けた……、あ……アリアの背中……。
どうにかこうにかドレスの紐を解き終え、白い背中を眺めながらアベルはウェディングドレスを彼女の足元へ落とす。
ずっと確認しようと思っていたアリアの背中には、近くで見なければわからないほど、薄っすらと傷痕のような線が二本残っていた。
呪いが解けて傷も癒えたということなのだろう。酷い傷痕になっていなくてアベルはほっとした。
「っ……なにも着てなくてもって……も、もぉ……えっち……」
アベルの一言に、アリアは髪を下ろして自らを守るように抱える。
「ぁっ」
アリアの背中が見えなくなってしまい、アベルの口から小さい声が漏れた。
……後でまた確認すればいい。
今まで改まって彼女に“背中を見せて欲しい”などと言ったことはないが、今夜は訊いてみても良さそうだ。
それよりも今は――。
「次はえっと……抱き上げる……だっけ?」
「うん。ドレスを汚さないように抱っこしてくれる?」
「ぅ……(可愛くおねだりしちゃって)……っ、任せて」
全身白い下着を身に着けたアリアに、上目遣いでお願いされたアベルは下半身がピクリと反応したが、ここは紳士に対応することにした。
……足元まで下ろされたウェディングドレスから、アリアを抱き上げベッドに運ぶ。
アベルはアリアをベッドに下ろすと彼女の隣に腰掛けた。
「ありがと、アベル。あっ、ドレス掛けておかないと皺になっちゃう」
ところがアリアはすぐに立ち上がり、ウェディングドレスを手に部屋の奥に置いてあったトルソーに着せに行ってしまった。
「り、律儀だね……」
「ん? あ、ふふふ。あのドレス絶対高いやつだと思うの……! 大事にしないとね! 明日お手伝いさんが回収してくれるんだって」
「う、うん……。ははは、アリアらしいや」
アリアはどこまでいってもアリアだな……、なんて笑顔を浮かべるアベルだったが……。
結婚式諸々、本当はもうちょっと短くしようかと思ってたんですけど、知らない内に書き進めてまして……気が付いたらこうなってました。
蛇足大好き過ぎてスミマセン。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!