あんまり叫び過ぎるとのどを痛めます。
では、本編どぞー。
第六百五十二話 のどの違和感
◇
……朝日が昇り、アベルは目を覚ます。
チュン、チュン――と、外から聞こえるスズメたちの鳴き声は楽し気だ。
アベルが眠りに就いたのは明け方近くだが、短時間しか睡眠を取っていないというのに全く疲れていない。
むしろずっと燻っていたものを解放することができた満足感で、アベルの心と身体はかつてないほど満たされていた。
「アリア……」
隣に目を向ければ、そこには涙の痕が頬に残る愛しい妻の姿――。
一度で愛を与えきることができなかったアベルは、自分の気が済むまでアリアを愛した。
……無理強いはしていない。
彼女はアベルの誕生日だからと言って、それに付き合ってくれたのだ。
そして“いざ、洞窟攻略……!”という時に、アベルは途中でアリアが寝落ちしてしまってはと、ビアンカから貰った“元気の出る薬”を思い出し、彼女に飲ませようとした。
ところが、アリアは「仮眠を取ったから平気」とそれをアベルに譲っている。
……“元気の出る薬”を飲んだアベルは、それはそれはとても元気になってしまったという。
『わっ! アベルっ!? これはムリッ!』
薬を飲んだ
既にアリアの素肌はすべて晒され、アベルの理性は吹っ飛びそのまま彼女にダイブ。
気付くのが遅くなったが、部屋の奥の机の上でアリアが宿屋の主人に貰ったロウソクを点していたらしく、白いロウソクが燃え、部屋にはエキゾチックな香りが漂っている。
香りのせいか二人はそのまま良い雰囲気になだれ込み、明け方近くまで――。
「…………(めちゃくちゃ良かった……! こんなの初めて……!)」
……アベルの攻略した洞窟は、何度訪れてもうれしい宝が手に入る幸せの洞窟だったのだ。
眠る妻の顔を眺め、アベルは昨夜を思い出し頬を熱くする。
いつも精神的に受け入れてくれる小さな彼女に、漸く身体も受け入れてもらえたアベルの喜びは計り知れない。
誕生日が来るまで少しずつ慣らした甲斐があったというもの。
そう、アベルは
焦らしに焦らされ、時にはこちらも焦らし、組んずほぐれつ。
すべては昨夜のために準備した。
やはり痛みはあったようだが、なんとか無事結ばれ、アベルは大・大・大満足だ。
「ぅ゛……?(もう朝……? 身体が重い……)」
……アリアの目蓋がぴくりと動き、長い睫毛がゆっくり上がると紫水晶の中にアベルの顔が映り込む。
「アリア……♡」
アベルは彼女の目覚めに顔を綻ばせた。
「……ぁ゛、ぅ゛……(のどが……)」
「……おはよう、奥さん♡」
アリアが顔を顰めてアベルを見上げる。
……と、アベルは蕩けるような笑みと共に、アリアの唇に軽く口付けをした。
「お゛ぐ……っ、……お゛ばよ゛う゛……」
――声が
アベルの甘い挨拶に、ぽっと頬を赤らめアリアは挨拶をしたが、声が上手く出せない。
いつもの鈴を転がすような彼女の柔らかい声がガラガラ声へ――。すっかり
「酷い声だね……」
「の゛どい゛だい゛……の゛……ごえ゛……だじ、づら゛い゛……」
アリアが涙目で訴えかけると、アベルはハッと気が付く。
一晩中アベルが隅々まで攻略し過ぎたせいか、彼女は
「あ。あー……ご、ごめんね……。無理させちゃったもんね……。無理に話さなくていいからね?」
――そうか、これは僕のせいか……!!
“もしかして、これも未来を変えてしまった代償なのか……!? アリアごめんね……!!”
自分が未来を変えようとする度、彼女に不幸が降り掛かる……。これもそうなのかと一瞬思ったアベルだったが――そんなわけはない。
……ただただ、アベルの不注意である。
ちょっとハッスルし過ぎたみたいだとアベルは自省し眉を下げ、アリアの髪をそっと撫でた。
「…………」
アリアは黙り込み、アベルをじっと見つめながらコクリと頷く。
……怒ってはいないらしい。
「……っ、カワイイ……♡ アリアっ、すきっ♡」
大きな紫水晶に見つめられた瞬間、ガバッと。
アベルは堪らずアリアに抱きついた。
「……っ……!(アベルっ!)」
――あれ……? 声、出ない……?
アリアは咽喉の痛みの他に違和感を感じる。
……今し方まで辛うじて出ていた声が出ない――。
昨夜は無意識で声を出し過ぎてしまったから、仕方ないのだろうか……。
まだ身体も疲れているし、もう少し眠れば回復するかもしれない。
“今は動けそうにないの”
そうアベルに伝えたいが、上手く声が出せない。
さて、どうやって伝えよう――。アリアは思案する。
「アリアまだ疲れてるよね……? 僕は目が冴えちゃったから少し散歩してくるよ。ついでに買い出しもしておくから、君はもう少し寝てていいからね」
「…………(アベル……♡)」
アベルの話にアリアは黙ったまま頷いた。
言わずともアベルの目に映ったアリアは怠そうで、もう少し休ませてあげたかったらしい。
アリアは瞳を輝かせ、口角を上げた。
“ア・リ・ガ・ト・ウ……♡”
声が出せないが、口パクでお礼だけは伝えておく。
「ふふ♡ 僕に任せて。食べ物も持って来るよ、もう少しおやすみアリア♡」
……アベルはアリアの額に唇を落とすと、さっさと着替えを済ませ、鼻歌とともにスキップしながら別荘を出て行った。
「……っ……!(あー……!)」
――やっぱり声が出せないなぁ……二度寝したら治ってるかな……?
アベルが出て行き、独り部屋に残されたアリアは身体の気怠さに勝てず、違和感のある咽喉付近の首を擦ってからもう一眠りすることにした。
アベルの攻撃により、アリアは相当ダメージを受けたみたいです。
ま、しゃーないよね。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!