アベルはご機嫌みたいです。
では、本編どぞー!
◇
独り別荘を出たアベルは早速、サラボナの町の散策を始める。
「ああ……なんていい朝なんだ……!! ああ、今世界は僕を中心に回っている……! おはよう小鳥たち、いいお天気だね。さっきの歌は君たちがさえずっていたんだね? いい歌だったよ……! ラララ~~♪」
チュンチュンと、道端に群れるスズメたちに向けてアベルが話し掛けたものの、スズメたちは一斉に飛び立ってしまった。
「はははっ! すぐ逃げるなんて、僕の奥さんみたいに恥ずかしがり屋さんなんだなぁ! あっ、フン……、ふふふ……運が付くとはこのことだね……!」
――僕は運がいい……!!
アベルはスズメのフンを踏んでしまったが、笑顔のままである。
……昨日に引き続き、今日のアベルもかなり機嫌が良いようだ。
「わんわん」
「あっ、リリアンおはよう! 君は早起きだね。ねえ、聞いてくれないかい? 僕、昨日ね――」
サラボナのメインストリートに至る私道を行き、ルドマンの屋敷に差し掛かると、アベルの姿を見つけたリリアンが嬉しそうに駆け寄って来る。
アベルはにこにことリリアンの頭を撫で、昨夜のことを話しだしたのだが――。
……リリアンと戯れるアベルの背後でガチャ、と。屋敷の外扉が開く音がした。
「……あら、アベル?」
「え?」
名前を呼ばれ、アベルはその声に振り返る。
「おはよう。早いわね、アリアはどうしたの?」
そこにはビアンカと、ルドマンの部下らしき男たちが四人――屋敷から出てきていた。
「ビアンカ! おはよう、もう帰るのかい?」
アベルはリリアンから離れ、ビアンカの元へ。
「ええ。あなたたちの結婚式も無事見届けたし、ルドマンさんと提携も結べたし、そろそろ帰って仕事しなくちゃね。この人たちが山奥の村まで送ってくれるの」
「そっか。送って行こうと思ってたけど大丈夫そうでよかった」
「ふふふっ、ルドマンさんが手配してくれたの。かなり腕の立つ人たちらしいから安心ね。で、アリアは?」
ビアンカはチラッとルドマンの部下たちに目をやり、にっこりと微笑む。
ルドマンの部下たちはビアンカに微笑まれ、デレデレと頭を下げた。
四人ともそこそこ強そうな戦士や魔法使い、僧侶……と言った風貌。
……これならビアンカも安全に村に帰ることができそうだ。
「え? あ、アリアは疲れてるみたいでまだ眠ってるよ」
「ふーん……そうなんだ。ちょっと顔見てから帰ろうかと思ったけど、起こしたら可哀想だからやめとくね。……また会えるもんね?」
「あ、うん……! スパが完成したらきっと行くよ……!」
「ふふっ、よかった! 楽しみにしてて! アベルたちには温泉を楽しんでもらって、売上に貢献してもらわなきゃだもの」
それじゃ……と、笑顔で告げ、ビアンカ、彼女はアベルに背を向け歩き出す。
「……ビアンカ」
「ん……?」
「幸せになってね」
アベルが呼び止めると、ビアンカが振り返った。
「…………うん、私、幸せになるわ。あなたが居なくても、幸せになれるってこと、証明してあげる……」
彼女は結った髪を
……アベルの耳には届かなかった。
「え?」
「……ふふっ。後悔しても知らないからね!」
ビアンカは笑顔でそれだけ言ってくるりと反転、「さっ、行きましょう!」とルドマンの部下たちを伴い去って行く。
「えっ、それどういう……?」
アベルはその場に独り取り残され、去って行くビアンカを見送った。
「…………? 今のはどういうこと……??」
ビアンカの発言の意味がアベルにはよくわからない。
だが、彼女が幸せになろうとしていることはわかる。
別世界では何度も愛した女性――ビアンカ。
この世界で自分とは結ばれなかったが、彼女はきっと幸せになるだろう。
“ビアンカ、どうか君も幸せに。
いつか再会した時はきっと心から祝福できると思うから。
その時はなにかお祝いの品を贈らせてもらうよ。”
……アベルはもう姿が見えなくなったビアンカに、遠くから幸せを祈った。
さて――。
ビアンカも行ってしまったことだし、仲魔たちの様子を見てから買い出しに行こう――。アベルは町の入口に向けて歩き出す。
教会と噴水広場の前を通り抜け、馬車に戻ってキャビンを覗けば、ピエールがマットレスに伏していた。
「キャ~♡ アベルんおはよ~ン♪」
ピエールに声を掛けようとするも、それより先にアベルに背を向けメイクをしていたキャシーが見返り、声を掛けてくる。
……キャシーの唇がツヤッツヤ。睫毛もバッサバサ。相変わらずのバッチリメイクだ。
以前のアベルならキャシーに無愛想に対応しただろうが、今日のアベルはひと味違う。
「おはよう、キャシー。久しぶりだね」
アベルの顔は爽やかな笑顔だった。キラースマイルとでもいうのか……、ここに町の女性でもいたら頬を赤く染めていたことだろう。
……ところがそんな笑顔を向けられたのに、キャシーの反応はといえば。
「ネ~♡ 昨日はおめでと~ン♡♡」
「ありがとう」
キャシーもガンドフという恋人ならぬ恋魔物がいるからか、アベルの笑顔を見てもサラッと流した。
あれほどアベルに惚れていたというのに、恋は盲目。今はガンドフ以外は眼中にないということなのか。
だからといって、アベルは特に気にすることもなくはにかむ。
……キャビンの奥の方でもパペックが起き上がり、挨拶のようにコキコキと肩を鳴らすので、そちらにも笑顔を向けておいた。
久しぶりの再会の挨拶もそこそこに、アベルはマットレスに伏せるピエールに声を掛ける。
「ピエール大丈夫かい……? もしかして二日酔い……?」
「ぅ……ぉ、ぉはようございます、主殿……、ご名答……」
ピエールは頭痛が酷いらしく、頭を抱えて身体を起こそうとするがそのまま固まった。
……起き上がれないらしい。
「……今日はメッキ―と交代しようか……。メッキ―」
「メッキッキッ(やっと私の出番ですね~!)」
まだキャビンで丸くなり寛ぎ中のメッキ―を名指しすると、メッキ―は嬉々として起き上り、嬉しそうに翼をはためかせた。
「主さまぁ、アリアちゃんは~??」
「アリアはまだ寝てるよ。だから出発は午後になると思う。それまでみんな待機ね」
「は~い!」
アベルの指示にスラりんが仲魔を代表して返事をする。
小さく「りょ、りょぅかぃしま……し、た……」とピエールからも声が聞こえ、アベルは馬車を後にした。
一番いい時なんですかねぇ。
----------------------------------------------------------------------
読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!