声が出ない……。
では、本編どぞ~。
「? どういうこと……?」
「……」
アベルが首を傾げると、アリアは口をパクパクと動かし、身振り手振りで紙とペンが欲しいと訴える。
「え、書くものが欲しいの?」
アベルの返答にアリアは何度も頷いてみせた。
「っ、それって……なに? なんか嫌な予感がするんだけど……?」
二度寝して起きてから一言も声を発しないアリアに、アベルの背にヒュッと冷たいものが走る。
瞬時に指先が冷たくなった気がした。
アベルは慌てて【ふくろ】の中から紙とペンを探す。
……が、アベルの【ふくろ】の中に紙とペンはなかった。
そういえばアリアが持っていたっけ……と、アベルは先ほど服と一緒に回収した彼女の鞄を取り出す。
ところが取り出した鞄は、現在のアリアが使っている鞄ではなく、彼女が幼い頃に使っていた小さな鞄だったのだ。
「あっ、これじゃなかった」
「……!(それ、見覚えある!)」
アベルがはたとして小さい鞄を【ふくろ】にしまおうとしたが、彼女の手が止めに入る。
「……これは……違うんだ。アリアの鞄はこっちだよ?」
……まだアリアには昔使っていた鞄を渡す気はない。
アベルは素早く小さな鞄を【ふくろ】に仕舞い、現在の彼女の鞄を取り出した。
「……」
「紙と……ペン……あとは、インクだね」
アリアが悲し気に瞳を揺らすも、アベルは取り出した鞄の中からメモ用紙と羽根ペン、そしてインクをアリアに手渡す。
ベッドの上では書き辛いだろうと、アベルは彼女の手を引き部屋の奥にある机に連れて行こうとした。
「……」
ところがアリアは一歩歩いただけで腰が抜け、床にへたり込んでしまう。
……アベルが渡したメモ用紙と羽ペン、インクが床に散らばった。
「アリア!? どうしたんだい!?」
「……」
――立てないの……。
アベルが驚き目を丸くしたが、アリアは散らばった筆記用具を集めて、彼を見上げ口をへの字に曲げる。
「え……ひょっとして……立てない……?」
「……」
……アリアは頷いた。
「っ……それって僕のせい……だよね? ご、ごめん……」
――僕がハッスルし過ぎたせいで……!!
アベルの顔が瞬時に赤くなる。
それを見たアリアの顔も真っ赤に染まった。
「――っ! じゃ、じゃあ今日はアリアは馬車ね。移動と戦いは僕に任せて」
アベルはへたり込んだアリアを抱き上げ、机まで連れて行く。
彼女を椅子に座らせると隣に立った。
……アリアが羽根ペンをインクに浸けて紙に文字を書きだす。
「えっと……、なになに……、声が……?」
アリアの書いた文はこうだ――。
“声が出せなくなってしまったみたい。どうしよう?”
アリアは書き終えると首を擦って、頭を傾ける。
……なんとアリアは声を出せなくなってしまったらしい。
「っ……!? の、のどの痛みはないって言ってたよね……?」
アベルが机に手を突き窺うと、彼女はせっせと文字を綴った。
“のどはもう痛くないよ。でも、声が出せないの。”
アリアが文字を綴る度、アベルの顔は青くなっていく。
――そんなウソだよね……アリア……。
「こ、声が出せないって……いったい……」
アベルの声は上擦り、アリアを見つめる。
本人はまだ気が付いていないようだが、アリアの首筋や鎖骨周りには赤い鬱血がいくつも付いており、昨夜の余韻が生々しい。
彼女を攻略した足跡みたいなものだが、いつもの服を着ていたら町の人々に噂されてしまったことだろう。
……だからこそアベルは【身かわしの服】を買いに走った。
アベルからすれば、いくつもの赤い印は自分のものになった証――嬉しいはずが、そのせいでアリアから声を奪ってしまったとしたら……。
赤い鬱血たちを前に、アベルは罪悪感に苛まれ眉を顰める。
そんなアベルの前でアリアは新たに文字を
“アベル、【ステータスウィンドウ】を見てみてくれる?”
「ステータスウィンドウ? わかった」
――【ステータスウィンドウ】か……、そういえば今日はまだ見てなかった。
アリアに了承し、彼女の高さに合わせるようにアベルは膝を床に着け、【ステータスウィンドウ】を表示させる。
「え……、なん、で……?」
アベルは【ステータスウィンドウ】を前に首を傾げた。
アリアの欄を見ると、そこには【マホトン】と表示されている。
「…………」
アベルの隣でアリアも【ステータスウィンドウ】を確認し、羽根ペンをインクに浸けた。
“【マホトーン】状態みたいだね”
書いてアベルの前に掲げる。
「マホトーン……」
アベルは呟いて黙り込んでしまった。
……その間にアリアはせっせと文字を書き書き。
“ごめんねアベル。私またしばらくポンコツになっちゃう。その内治ると思う。だから少しの間、許してね。”
書き終えたアリアはアベルの前に紙を広げ、悲し気に微笑んでいる……。
「っ! アリアなに言って……、アリアは居るだけでいいのに……!!」
「!」
アベルは堪らずアリアを抱きしめた。
抱きしめられた彼女は静かにアベルの背に手を回す。
(ごめんね、アベル……。)
せっかく結婚したというのに、新婚初日に話すことが出来なくなるとはなんと不吉なことか。
やはり正規の花嫁でないからしょうがないのか――アベルに負担を掛けてばかりいるではないか。
アリアは申し訳なさで泣きたくなったが、涙をぐっと堪えてアベルの温もりに身を委ねていた。
「……大丈夫、きっと明日には治ってるはずだよ。それに、もし声が戻らなかったら、僕がなんとかするから」
……アベルはしばらくの間、彼女を抱きしめながらシルクの髪を撫で続けた。
「……そろそろ行こうか」
しばしの抱擁が終わると、アベルは口を開く。
いつまでも
そろそろ新たな場所へ――、次の勇者の手掛かりを探しに行かなければ。
……アベルの声にアリアはこくりと頷いた。
アベルのせいで! アベルのせいで! 夜のアベルのせいで!!w
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!