ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

声が出ない……。

では、本編どぞ~。



第六百五十六話 声が出ない

 

「? どういうこと……?」

 

「……」

 

 

 アベルが首を傾げると、アリアは口をパクパクと動かし、身振り手振りで紙とペンが欲しいと訴える。

 

 

「え、書くものが欲しいの?」

 

 

 アベルの返答にアリアは何度も頷いてみせた。

 

 

「っ、それって……なに? なんか嫌な予感がするんだけど……?」

 

 

 二度寝して起きてから一言も声を発しないアリアに、アベルの背にヒュッと冷たいものが走る。

 瞬時に指先が冷たくなった気がした。

 

 アベルは慌てて【ふくろ】の中から紙とペンを探す。

 ……が、アベルの【ふくろ】の中に紙とペンはなかった。

 

 そういえばアリアが持っていたっけ……と、アベルは先ほど服と一緒に回収した彼女の鞄を取り出す。

 

 ところが取り出した鞄は、現在のアリアが使っている鞄ではなく、彼女が幼い頃に使っていた小さな鞄だったのだ。

 

 

「あっ、これじゃなかった」

 

「……!(それ、見覚えある!)」

 

 

 アベルがはたとして小さい鞄を【ふくろ】にしまおうとしたが、彼女の手が止めに入る。

 

 

「……これは……違うんだ。アリアの鞄はこっちだよ?」

 

 

 ……まだアリアには昔使っていた鞄を渡す気はない。

 アベルは素早く小さな鞄を【ふくろ】に仕舞い、現在の彼女の鞄を取り出した。

 

 

「……」

 

「紙と……ペン……あとは、インクだね」

 

 

 アリアが悲し気に瞳を揺らすも、アベルは取り出した鞄の中からメモ用紙と羽根ペン、そしてインクをアリアに手渡す。

 

 ベッドの上では書き辛いだろうと、アベルは彼女の手を引き部屋の奥にある机に連れて行こうとした。

 

 

「……」

 

 

 ところがアリアは一歩歩いただけで腰が抜け、床にへたり込んでしまう。

 ……アベルが渡したメモ用紙と羽ペン、インクが床に散らばった。

 

 

「アリア!? どうしたんだい!?」

 

「……」

 

 

 ――立てないの……。

 

 

 アベルが驚き目を丸くしたが、アリアは散らばった筆記用具を集めて、彼を見上げ口をへの字に曲げる。

 

 

「え……ひょっとして……立てない……?」

 

「……」

 

 

 ……アリアは頷いた。

 

 

「っ……それって僕のせい……だよね? ご、ごめん……」

 

 

 ――僕がハッスルし過ぎたせいで……!!

 

 

 アベルの顔が瞬時に赤くなる。

 それを見たアリアの顔も真っ赤に染まった。

 

 

「――っ! じゃ、じゃあ今日はアリアは馬車ね。移動と戦いは僕に任せて」

 

 

 アベルはへたり込んだアリアを抱き上げ、机まで連れて行く。

 彼女を椅子に座らせると隣に立った。

 

 ……アリアが羽根ペンをインクに浸けて紙に文字を書きだす。

 

 

「えっと……、なになに……、声が……?」

 

 

 アリアの書いた文はこうだ――。

 

 

 

 

 “声が出せなくなってしまったみたい。どうしよう?”

 

 

 

 

 アリアは書き終えると首を擦って、頭を傾ける。

 

 ……なんとアリアは声を出せなくなってしまったらしい。

 

 

「っ……!? の、のどの痛みはないって言ってたよね……?」

 

 

 アベルが机に手を突き窺うと、彼女はせっせと文字を綴った。

 

 

 “のどはもう痛くないよ。でも、声が出せないの。”

 

 

 アリアが文字を綴る度、アベルの顔は青くなっていく。

 

 

 ――そんなウソだよね……アリア……。

 

 

「こ、声が出せないって……いったい……」

 

 

 アベルの声は上擦り、アリアを見つめる。

 

 

 本人はまだ気が付いていないようだが、アリアの首筋や鎖骨周りには赤い鬱血がいくつも付いており、昨夜の余韻が生々しい。

 

 彼女を攻略した足跡みたいなものだが、いつもの服を着ていたら町の人々に噂されてしまったことだろう。

 

 ……だからこそアベルは【身かわしの服】を買いに走った。

 

 アベルからすれば、いくつもの赤い印は自分のものになった証――嬉しいはずが、そのせいでアリアから声を奪ってしまったとしたら……。

 

 赤い鬱血たちを前に、アベルは罪悪感に苛まれ眉を顰める。

 そんなアベルの前でアリアは新たに文字を(したた)めた。

 

 

 “アベル、【ステータスウィンドウ】を見てみてくれる?”

 

 

「ステータスウィンドウ? わかった」

 

 

 ――【ステータスウィンドウ】か……、そういえば今日はまだ見てなかった。

 

 

 アリアに了承し、彼女の高さに合わせるようにアベルは膝を床に着け、【ステータスウィンドウ】を表示させる。

 

 

「え……、なん、で……?」

 

 

 アベルは【ステータスウィンドウ】を前に首を傾げた。

 アリアの欄を見ると、そこには【マホトン】と表示されている。

 

 

「…………」

 

 

 アベルの隣でアリアも【ステータスウィンドウ】を確認し、羽根ペンをインクに浸けた。

 

 

 “【マホトーン】状態みたいだね”

 

 

 書いてアベルの前に掲げる。

 

 

「マホトーン……」

 

 

 アベルは呟いて黙り込んでしまった。

 

 ……その間にアリアはせっせと文字を書き書き。

 

 

 “ごめんねアベル。私またしばらくポンコツになっちゃう。その内治ると思う。だから少しの間、許してね。”

 

 

 書き終えたアリアはアベルの前に紙を広げ、悲し気に微笑んでいる……。

 

 

「っ! アリアなに言って……、アリアは居るだけでいいのに……!!」

 

「!」

 

 

 アベルは堪らずアリアを抱きしめた。

 抱きしめられた彼女は静かにアベルの背に手を回す。

 

 

(ごめんね、アベル……。)

 

 

 せっかく結婚したというのに、新婚初日に話すことが出来なくなるとはなんと不吉なことか。

 やはり正規の花嫁でないからしょうがないのか――アベルに負担を掛けてばかりいるではないか。

 

 アリアは申し訳なさで泣きたくなったが、涙をぐっと堪えてアベルの温もりに身を委ねていた。

 

 

「……大丈夫、きっと明日には治ってるはずだよ。それに、もし声が戻らなかったら、僕がなんとかするから」

 

 

 ……アベルはしばらくの間、彼女を抱きしめながらシルクの髪を撫で続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そろそろ行こうか」

 

 

 しばしの抱擁が終わると、アベルは口を開く。

 いつまでも別荘(ここ)にいるわけにいかない。

 

 そろそろ新たな場所へ――、次の勇者の手掛かりを探しに行かなければ。

 

 

 ……アベルの声にアリアはこくりと頷いた。

 




アベルのせいで! アベルのせいで! 夜のアベルのせいで!!w

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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!
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