挨拶はしていかないとね。
では、本編。
「……ルドマンさんに挨拶して行かないとね。けど大丈夫かなぁ……あの人、アリアを放さないんじゃ……?」
「……」
この世界のルドマンは癖が強い。
アリアに対する執着心も強いし、別居を推奨してくるはず――と、アベルは挨拶に行かねばとわかってはいるが気が重い。
尻込むアベルをよそにアリアはまたメモを書き書き――。
“お父さまにはアベルと旅をするって言ってあるから大丈夫!”
……アリアは書いたメモをアベルに差し出す。
「え、ほ、本当に? 許してくれたんだ……?」
アベルの問いにアリアはにっこりと首を縦に下ろした。
“半年に一度は顔を出しなさいって。そしたらいいよって――”
追加で文字を綴ると、アベルはそれを覗き込み目を細める。
「そっか……アリアが説得してくれたんだね。ありがとう」
嬉しそうなアベルにアリアも微笑み返し、唇をゆっくりと動かしだした。
“ア・ベ・ル・ダ・イ・ス・キ・イ・ツ・モ・イッ・ショ・ダ・ヨ”
声は聞こえないが、動きがゆっくりだからか唇を読むことが出来る。
……アベルはアリアの口パクを声に出してみた。
「アベルだいすきいつもいっしょ……っ、アリア……♡ うん! 僕もっ!」
アリアの気持ちが伝わり、アベルは再び彼女を抱きしめる。
……アリアは慌てた様子だったが、アベルの力に敵わず大人しくしていた。
「……ああもう、アリア大好き……♡ 僕と一緒にいたらきっと大丈夫だから安心してね……!」
「…………!?(アベルっ!?)」
アベルの優しい言葉がアリアの頭上でするも、硬いなにかが太ももに当たっている。
――これって……。
ひょっとして
なぜ?
……なぜ?
今そんな雰囲気ではなかったはず……。
……アリアは困惑に身体を強張らせた。
「…………(ムラムラして来ちゃった……)」
アリアを抱きしめているとアベルはつい、ムラッとしてしまう。
昨日あれだけ致したというのに、アベルのアベルは朝になればリセットが掛かるのか、すこぶる元気だ。
――ごめんアリア……生理現象だから許してね、けどアリア気付いてないから大丈夫だよね……?
ムラッとはするが、それをさておいても柔らかいアリアを抱きしめていると気持ちがいい。
……アベルは抱きしめる腕に力を込めた。
「っ……!」
――アベルっ…!? あたっ、当たってるんですけどっっ……!?
気付いているアリアは硬直したまま、アベルが介抱してくれるのを待ったのだった。
◇
……あれからアリアと協議した結果――。
ルドマンに心配を掛けさせないため、昨夜今後の旅について夫婦で語り合い過ぎて咽喉を痛め、アリアは話すのを自重しているということにし、挨拶に向かった。
ルドマンの屋敷に入った途端、玄関ホールで若い召使女性に“若だんなさま”なんてアベルは呼ばれつつ、二人で応接間へと赴く。
……ちなみにアリアの脚は生まれたての小鹿状態だったので、アベルは別荘を出る前に回復呪文で回復してやった。
「よ! ご両人のおでましかっ。なかなかお似合いの夫婦だぞ」
「昨日はありがとうございました。出発前にご挨拶に伺いました」
応接間ではルドマンが笑顔で出迎えてくれた。
アベルはルドマンの顔色を窺いながらお辞儀をする。アリアもそれに倣って頭を下げた。
……ルドマンは機嫌が良さそうだ。
「ヘンリーさんたちは今朝早く帰っていったが、アベルのことを色々と聞かせてもらった。なんでも伝説の勇者をさがして旅をしているとか……」
「はい、そうなんです」
「そこでだ! 私からの祝いを受けとってくれい! 後ろの宝箱のカギを開けておいたから中の物を持ってゆくがいい」
「あ……ありがとうございます!」
会えたら挨拶でもしたかったが、ヘンリーたちはもう帰ってしまったらしい。
そういえば昨夜ルドマンとヘンリーが長く話し込んでいたっけな……と、アベル自身はヘンリーと殆ど話せなかったことを思い出した。
――まあ、ヘンリーと特に話すこともないしいいか……。
アベルに後悔は特にない。
……男の友情なんてこんなものである。
アベルはヘンリーのように自らペラペラと話をしたりしないし、いつも聞き役でいることが多い。
アベルが饒舌に語るとしたら、それはアリアに向けてだろう。
それにしてもヘンリーはお喋りである。
だが、そのお喋りでアベルが助けられたのは何度目だろうか。
おかげで勇者の使った盾が手に入るというもの。
(ヘンリー……ありがとう。)
アベルは帰路につくヘンリーを思い、心の内で礼を告げた。
「……そこで、だ、アリア。アベルが旅に出てる間は淋しいだろうが……」
ルドマンの話は続いており、彼はアベルの隣りに立つアリアに視線を移す。
するとこれまで柔和だったアリアの瞳がルドマンをじろり、一睨み――。
その話はもう終わっているはず、持ち出すな……と彼女は無言の圧力を掛けていた。
「わ、わかっておるよ。里帰りを楽しみに待っておるからな!」
なんとルドマンが怯んでいる……!
――せっかく親子になったのに……アリアのイケズ……! だが、私はお前を見捨てないぞ……!
ルドマンは慌てて朗らかな笑みを浮かべた。
「こうなったらアベルに一刻も早く勇者を探しだしてもらわなくてはな。そうそうポートセルミにある私の船も自由に使っていいぞ。すぐに連絡しておこう」
「船を……!!」
――この世界のルドマンさんもやっぱり太っ腹……!
ルドマンの申し出にアベルは瞳を輝かせ、小さく拍手する。
アリアの瞳もキラキラしており、嬉しそうだ。
……船があれば大海に出られる。
連絡船では決まった航路しか乗れなかったが、自由に使っていいということは、まだ行ったことのない大陸に行くことができるということ。
そうすれば、未知の大陸や島で父パパスが見つけられなかった、勇者の残した残りの防具を見つけることができるかもしれない。
……ちょっと癖が強いこの世界のルドマンも、頼もしさは変わらないのだとアベルは感動した。
「二人とも気をつけてな。もし疲れたらいつでも帰ってくるんだぞ。そして世界が本当に平和になったその時にこそ、家族そろって一緒に暮らそう!」
「ははは……一緒にって……(同居は勘弁して欲しい……)」
ルドマンがアベルの腕をポンポンと叩いて、優しい言葉を掛けてくれるのだが、同居発言は頂けない。
……アベルは苦笑いを浮かべた。
隣りのアリアを見れば、彼女も同じ顔――同居はしたくないらしい。
「その内フローラも結婚したら大家族になるな! この屋敷も増築が必要だなぁ。壁は何色が――」
“アリアの好きな色はなんだったかな……?”などと、ルドマンは未来を思い描き柔和な顔でアリアに訊ねるが、彼女はだんまりで、にこっと軽く微笑むだけ。
……現在喋ることができないから仕方ないこととはいえ、一言も返してくれないアリアにルドマンの瞳が悲しそうに揺れた。
――これが世に言う反抗期というものか……!
どうやらルドマンは良い様に解釈してくれたらしい……。
「アベル、アリアを頼んだぞ。夫婦仲良く助け合い、よい旅をなっ!」
「はい! 任せて下さい! なにからなにまで……ありがとうございました!!」
アベルが頭を下げるとアリアもお辞儀をする。
ルドマンはアリアに一言も話し掛けてもらえず悲し気だったが、最終的には新たな門出に笑顔を見せてくれた。
幸いにもアリアが無言の理由をツッコまれず済み、アベルとアリアは勇者の残した【てんくうのたて】と、旅の餞別2000ゴールドをありがたくいただき、応接間の奥、ダイニングに居たルドマン夫人にも挨拶を済ませる。
……あとはフローラに挨拶してから出発しようと、二階へと向かった。
ルドマンは太っ腹。ちょっと変わってるけど本当、良い人。
いつか大家族で暮らしたいみたいだが、叶うといいなぁ(既に嫌がられてるけど……)。
天空の盾の扱いがあっさりし過ぎてしまった感……。
ぶっちゃけ天空装備は魔界行く時要らないしなぁ……ハハ……。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!