さて、そろそろ出発しますかね~と。
では、本編どうぞっ。
アベルとアリアは祈りを捧げ、教会を後にする。
階段を下りて、川沿いの元来た道を二人は黙って歩いて行く。
「がうがうっ」
「ぁ、うん、わかってるよ……」
プックルがアリアの服の裾に齧りついてじゃれて来るが、アリアは黙りこくるアベルを窺いながら歩いていた。
“ラインハットに行っちゃだめだ”
アベルは何でそんなことを何度も口にしていたのだろう……?
それに、何で涙なんて……?
アリアは教会を出てから一言も発しないアベルが不思議で、思い詰めたような横顔に何とも言えない居心地の悪さを感じる。
アベルにもう少し一緒に冒険したいと言われたが、まだ返事はしていなかった。
「…………アリア」
不意にアベルがアリアの方へと顔を向ける。
「……あ、……ん?」
「……一緒に来てくれるよね……?」
おずおずと、アベルは告げる。
普段のアベルらしくない、弱々しい口調だった。
「ぁ…………。…………っ、アベルはラインハットに行きたくないの……? そんなに遠い所なの?」
「…………ううん、ラインハットはそんなに遠くないよ。サンタローズを出て東に行った先の大きな河を渡った先にある国なんだ」
アベルはアリアに説明し、はっとして口元を手で覆う。
何で、僕は
ああ、そっか。
アベルは合点がいって、ふぅと息を吐いた。
妖精の世界でも思ったが、“
そのことが何を意味しているのかは未だわからないままだが、事前の記憶が役に立つならそれもいいかと思うのだった。
「へぇ……、近いんだ。それなら……もう少しだけ付き合うよ。呪文使えるし、お礼しなきゃね。すぐ戻って来るんでしょう?」
「え」
「え? 戻って来ないの?」
「あ、いや……戻って来る……? かな……」
アリアの言葉にアベルは首を捻る。
アベルの中の、
「ふふっ、何それ。戻って来なきゃ、サンチョさん淋しいでしょう?」
「ははは……。そう、だよね……」
本当に、肝心な時に役に立たない記憶だなぁと、アベルはアリアの苦笑に合わせて笑う。
「あ、ねえ、一緒に行くなら私、パパスさんに姿見せてもいいかな?」
「えっ?」
「ほら、ポワン様がこっちに送ってくれた時、私の意思で姿を見せられるかも~って仰ってたじゃない?」
私が恐れを抱かなければ、姿を現すことが出来るかもしれない。
アリアはそう思ったのだった。
ところが、
「…………アリア。それ、ちょっと待ってくれない?」
アベルは難色を示す。
「えぇ? どうして……?」
「っ、だって、アリア子供だから家に帰れって云われるかもしれないよ? そしたら、一緒に冒険なんて出来ないじゃないか」
「そ、そうだけど、見えないのは不便で……!」
「ラインハットまで行っちゃえば、無理矢理帰そうなんてしないと思うから、僕がいいって言うまで我慢して?」
「ぐ……。確かに一理ある……」
アリアはアベルに諭され「これも恩返しだもの、しょうがないなぁ」と、了承したのだった。
◇
アリアが納得した頃、二人は村の出入口へと辿り着き、待ちぼうけのパパスを見つける。
「父さん、お待たせっ」
「おお来たか、アベル。今度の行き先はラインハットのお城だ。前の船旅と違ってそんなに長い旅にはならないだろう。この旅が終わったら父さんは少し落ち着くつもりだ。お前にはいろいろ淋しい思いもさせたが、これからは遊んであげるぞ」
アベルが声を掛けると、パパスは優し気に目を細め「戻ったら何をして遊ぶか考えておくといいぞ」と大きな手でアベルの頭を撫でた。
「………………っ、やったー! じゃあ、肩車でしょー? それから……」
アベルも嬉しいのか満面の笑みでパパスを見上げる。
だが、心の中は違っていた。
……父さん、僕、本当はラインハットに行きたくないんだ。
ラインハットに行っちゃだめだって、僕の中の
けど、どうしてかな。
それと同時、
一抹の不安を胸に、アベルは優しい父の顔を見つめていた。
「はっはっは。肩車ならすぐに出来るぞ? もっと他にはないのか? 例えば、釣りや、隠れん坊、工作に、楽器なんかもいいな。字の練習も付き合ってやらないとな。礼儀作法なんかは……違うか。サンチョに相談だな」
パパスはアベルに体験させたいであろう事柄をあげる。
「字の練習に礼儀作法……? 何それつまらなそう」
「わっはっは。まぁ、そう言うな。お前には色々教えてやりたいのだ。知っておいて損はない。先ずは、お前の好きなことをしよう。やりたい事をたくさん考えておいていいからな」
アベルが頬を膨らますと、パパスは白い歯を見せて頭をぽんぽんと撫でる。
父の笑顔にアベルは帰った後のことを考えることにした。
帰ったら、先ずは肩車をしてもらって……、かくれんぼでしょ……?
それと、字は読めるから書くのはそんなに苦労しないから要らないかな。自分で練習すればいいよね。
礼儀作法よりも剣の稽古をつけてもらおうかな……?
釣りは……行ってみたい!
父さんとする遊びならきっと何でも面白いよね!
アベルは帰った後のことで頭の中をいっぱいにするよう努める。
アリアもアベルの笑みに顔を綻ばせていた。
あ、でも、アリアはどうしよう……?
ちらっとアリアに視線を送る。
『どうしたの……?』
「ううん。何でもない」
アリアは身寄りが居ないし、一緒に暮らしてもいいかもしれない。
そんなことを考えるアベルだった。
「さて、行くとするかっ!」
「うん!」
パパスの掛け声で、アベルはアリアの手を取る。
『……手は繋がなくてもついて行くけど……?』
「アリア、すぐ居なくなるからね」
こそこそとアベルは小声で話し、パパスの背中を見上げる。
パパスは門番と留守の間の話を二言三言交わして、歩き出す。
その後ろにアベル達も続いた。
父さんがいれば魔物がいくら現れてもへっちゃらだ。
僕も強いし、プックルだっている。
アリアも呪文が使えるようになったし、頼もしい。
早く用事を済ませて帰ってこよう。
そして、村に帰ったらアリアと一緒にまた冒険するんだ。
父さんが旅に出るなら説得して、一緒に連れて行ってもらう。
もちろん、アリアと一緒に。
アベルは隣で「私そんなにいなくなったりしてないと思うんだけど~?」と首を傾げる少女に笑い掛ける。
君は、
次は、何を見せてくれるの?
出来ればそれは、
楽しいことだといいのだけど。
「いってらっしゃい、パパスさん!」
村の出入口で手を振る門番に一度だけ振り返り、アベル達はサンタローズを後にした。
漸くサンタローズを出ます。
アリアさん、妖精の世界へはしばらく戻りません……。
というか、戻れますん……どっちだwww
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