さて、フローラちゃんにごあいさつ。
では、本編どぞ。
◇
アベルとアリアがフローラの部屋に入ると、彼女は机で裁縫をしていた。
すぃすぃと一針一針、手慣れた手付きで花の刺繍をハンカチに施している。
アベルとアリアが来たことに気付かないくらい集中しており、二人は静かに彼女の傍に寄った。
アリアが“カワイイお花……♡”と花の刺繍に心をときめかせる中、アベルはフローラに声を掛ける。
「フローラさん。昨日はありがとうございました」
「あらアベルさん、アリアお姉さま♡ ご出発ですか?」
フローラは手を止め、愛らしい笑みを浮かべた。
「はい。そろそろ行こうかと」
アベルが応えると、アリアも隣で頷く。
「お二人の結婚式、見ていて本当に幸せそうで羨ましかったですわ。また遊びに来てくださいね。その時は私も結婚しているかも知れませんことよ」
「っ……ははは……はい」
フローラの笑顔にアベルは照れて頭の後ろを掻く。
……アリアは柔和な顔で目を細めていた。
“フローラさんならきっと素敵な奥さんになると思うよ……!”
声が出ないため伝えられないが、アリアは気持ちだけ贈る。
……気持ちが通じたのか、フローラは作業を止め立ち上がってアリアの手を握った。
「ふふふっ、アリアお姉さまと またしばらくお別れかと思うと淋しいのですが……私はここで私の出来ることをし、お二人の無事を祈りますわ」
「……(フローラさん……)」
フローラの優しい笑顔にアリアの胸は温かくなる。
アベルも同様で、穏やかな瞳で目礼をしていた。
……ところがすぐにフローラの眉が寄せられる。
「え……アリアお姉さま……? なにか様子がおかしくありませんか……? 大丈夫ですか?」
「あ゛」
――フローラさんも鋭い……!?
アベルは瞬時に悟る。
ビアンカも鋭かったが、フローラもなのだろうか――。
気付かれてしまったかもしれない……と、アベルはアリアを見下ろした。
アリアも気まずそうに口角だけ上げてアベルを見上げる。
「アベルさんっ! アリアお姉さまに、いったいなにがあったのですか!?」
「なにって……その……」
――どう言えばいいんだ……?
問い詰められ、アベルは迷ってしまった。
アリアを見下ろせば、アベルの服を引いて事情を説明するよう、ジェスチャーしてくる……。
「まあ……声が……? ウソ……、嘘ですわ! アリアお姉さまのお声が出ないなんて……!」
まだ説明してもいないのだが、アリアが話せないことがすぐにばれた。
フローラが動揺に震えている。
……アベルは予め考えておいた理由をフローラに伝えることにした。
◇
◇
◇
「まぁ……夜通しお喋りをしていたんですのね? それでのどを痛めた……と。お可哀想に……」
フローラはアベルの説明を聞いて納得してくれたらしい。
フーヤレヤレ……ツッコまれたらどうしようかと思ったが、フローラがお嬢様でよかった――アベルはこの時ばかりは心の底からそう思った。
……アリアは相変わらず気まずそうな顔をしており、その頬は赤い。
それはそうだろう。
初夜を迎え終えた次の日に声が出ないなんて、なにをしていたのかバレバレだ。
夫婦になったのだから当たり前の営みだが、二人は気恥ずかしくてしょうがない。
まあともかく、ツッコまれなくて良かった……なんて、アベルが思っていると――。
「話は聞かせてもらった……! アリア、ここに残りなさい……!!」
“バンッ!!”勢いよく部屋の扉が開いた。
そこにはルドマンの姿が……。
「!?(どうして!?)」
「そうか! お前が怒って話し掛けてくれないのかと思っていたが、そうではなかったのだな……! 可哀想に……一晩中……」
突然の登場に驚き、目を見開くアリアを憐れむように、ちらと目配せしてから、ルドマン、彼はギロリとアベルを睨みつける。
「っっ! …………」
ルドマンの憤怒の眼にアベルは深々と頭を下げた。
フローラには通じた言い訳だったが、ルドマンには通じなかったらしい。
アリアはアベルの背後に回って紫のマントを掴み、横から様子を窺うようにルドマンを見つめる。
……フローラはなんのことかわからず首を傾げていた。
「アリア、声が出ないようでは呪文も唱えられない。アベルの足手まといになるだけだ。声が出るまで家にいなさい」
「な、すぐ治りますよ!?」
……屋敷に残りなさいと言うルドマンに、反論できない彼女の代わりにアベルが答える。
アベルはアリアを庇う様に自らの背中に彼女を隠した。
やっと結婚できたのだ、ここぞとばかりにアリアを取り上げられたのでは堪ったものではない。
――なにがあっても僕はアリアの傍にいなければいけないんだ。
そうでなければ彼女を守ることができない。
この先なにが起こるか記憶が降りて来ていない。
アリアと結婚したことで、未来が変わったのだろう。
ビアンカとフローラと結婚した記憶は薄っすらあれど、この先の未来、何が起こるのかがさっぱりわからないのだ。
また直前になって ふっと記憶が降りてくることもあるかもしれないが、今は真っ新な状態――アリアが話せなくても、彼女を手放すことなんてできない。
……そんな風に考えるアベルにルドマンが眉を顰めて続ける。
「アベル、突然声が出ないというのは呪いではないのか?」
「呪いならもう祓われています!」
アベルはすぐさま否定した。
アリアも後ろで首を左右に振っている。
残渣もなくなったし呪いではないはず……と、首を撫でた。
……フローラが不安そうな顔でアリアを見つめている。
「だがこれは……――」
ルドマンは、アリアから掠れた声も出ないことに違和感を抱いているらしい。
声が出し辛いならわかるが、掠れ声も出せないのはどう考えてもおかしいと言うのだ。
「……もしすぐ治らなかったら……?」
「どういうことですか?」
「……以前どこかで読んだのだが……、昔、ある国の王が突然声を失ったという話でな。話そうとしても声が出ないのだと。声を失って何日経っても、何をしても王の声は戻らなかったらしい」
ルドマンはアリアを不憫な目で見て眉を下げる。
やっと呪いも解け、好いた男とも結婚できたというのに可哀想に……という眼だ。
「その王と同じようにアリアの声が戻らないって言うんですか……?」
「いや。その話には続きがあってな。ある日、王の娘が声を戻すアイテムを見つけだし、見事王の声を取り戻したという……」
アベルの質問にルドマンが声を失った王の話を続けると、黙って話を聞いていたフローラがほっとした顔をした。
「声を取り戻すアイテムですか……」
「もし万が一、ということもある。この先アリアと旅を続けるのなら、念のため、そのアイテムを探してはくれないか? それがあれば確実に声は戻り、呪文が使える。呪文が使えれば、アリア自身も自分の身をそれなりに守れるはずだ」
確かに呪文を使えるのと、使えないのとでは雲泥の差。
力の弱いアリアにとって物理的な武器より、呪文が
いつもアベルが傍にいても、戦闘中ずっと彼女を庇い続けるのは限界がある。
自分自身である程度身を守れる術を持つのは大事だ。
互いのためにも声を取り戻すアイテムを手に入れた方がいい。
……ルドマンはそう思ったらしい。
声を取り戻すアイテムとは――。
ドラクエ好きな方はピンと来たかもしれません。
そうです、アレですよアレ!
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!