掘って掘って、また掘って。
では、本編どぞ。
残る岩山は二箇所――。
緑豊かな深い森の中を行き、大瀑布の滝口近くに差し掛かる。
そこには大きな吊り橋が架かっており、通ると揺れた。
ドドドドド……、と。
南に目を向ければ、大量の水が落ち込む滝音がする。
この足元に滝の洞窟があるわけだが、北を見れば海のような巨大な湖――。
雨もたまにしか降らず、いったいどこからこんな大量の水が湧き出ているというのか。
恐らくは地下水なのだろうが、この世界は水に溢れている。
アリアがキャビンから顔を出し、揺れる橋が怖いらしくキャシーに抱きつきながら景色を楽しんでいた。
「……ここもない……か」
二箇所目の岩山の周辺をぐるりと回って調べてみたが、宝箱らしきものは見当たらなかった。
……とすれば、残る一箇所に隠してあるはず。
「……なかったりして……? そんなことないよ!!」
日は疾うに落ち、今夜もキャンプだ。
キャビンのマットレスで横になりながら、【ランタン】の灯りを頼りに素肌のアリアがメモを書いてアベルに見せる。
昨夜アベルは約束を忘れて頑張ってしまい、朝アリアを瀕死にさせたため、今夜は一度のみで耐えた。
だからかアリアも意識を保っており、眠そうだが比較的元気である。
「きっとあるさ。最後の岩山にあるに決まってる」
アリアの後れ毛を耳に掛けながらアベルは微笑んだ。
……アベルがそう言うには根拠が二つある。
一つは手紙に書いてあった“子孫しか開けられない”という一文。
そしてもう一つは宝箱を隠した場所――。
森の中には多くの魔物がいる。相当な手練れでもない限り、開けられもしない宝箱を探しに森の中を行くのはリスクが高いわりにうま味が少ない。
仮に盗賊がどこかで【さえずりのみつ】の存在を知ったとして、他の盗まれた財宝とは違い、声を取り戻すアイテムである。
多少高値で売れるかもしれないが、魔物やルドマンの私兵を相手に命を懸けるほどではないだろう。
手紙には取り返したと書かれていたが、捨てて逃げたとも考えられる。
きっと最後の岩山の近くに隠されているはず――、アベルはそう踏んでいた。
「……(アベル……)」
「アリア」
……チュッ。
アリアが“ごめんね”と口パクしようとすると、アベルは彼女の口を塞ぐように口付ける。
唇が離れるとアリアは目を丸くしていた。
いつもなら驚いた声が聞こえるのに、聞こえるのは小さな吐息だけ。
昨夜もそうだったが、吐く息の音しか聞こえないというのも悪くは無い。……悪くはないのだが、少々物足りない。
いつもは触れればあんあん啼いて喜んでいるのに、苦しそうに涙してるように見えて罪悪感が半端ない(まあ、これも悪くないし我慢も出来ないから致し方ないのだが)。
アベルは早くアリアの甘い声が聞きたいのだ。
「……謝らないで。アリアはなにも悪くないんだから。……僕らは夫婦だ。奥さんが困ってたら助けるのは当たり前でしょ?」
アベルの優しい声にアリアは羽ペンを置いて彼に抱きつく。
「……っ、……アリア、君に抱きつかれると僕……」
――今夜は一回で我慢しようと思ったんですけど……!?
腕の中に収まる柔らかな感触に、アベルの治まりかけた熱は再び再燃――。
アベルはアリアが抵抗したにも関わらず、はっちゃけてしまった。
……次の日もアベルの【ベホマ】の声で一日が始まる。
【ベホマ】を掛けてもらったが案の定、アリアは寝込んでしまい、夕方までキャビンでのんびり過ごした。
……が、夜にはアベルに求められ再び瀕死へ――。
アベルは自分を殺す気なのだろうかと思いつつも、行為自体は嫌いではないアリアは彼を受け入れ続けてしまう。
そして瀕死へ――。
明くる朝にはアベルの切羽詰まった【ベホマ】の一声が響いた。
……これで何度目だろうか。
アベルも懲りないが、アリアも懲りていないようで、二人はなんだかんだと夜の運動会を楽しみ、静かな森の中、夜のキャビンはギシギシと賑やかである。
さらに次の日、その次の日、と、数日掛けて最後の岩山に辿り着き、辺りを捜索――、そして……。
「あったーー! これだ、これっ!! プックルお願いできるかい!?」
アベルは岩山の東側、最奥で宝箱を発見した。
宝箱は土の中に埋まっており、僅かばかり頭を覗かせている。
アベルの頼みでプックルが土を掘り出していく。
「がう……(爪の中に土が入るのは嫌だが主のためなら仕方ない……)」
――アリア、ケアしてくれるかな……。
土を掘りながらプックルはほこらで見たアリアを思い出し、ケアを頼めるか考える。
ここ数日アリアはキャビンにいるため、プックルは彼女の傍に行っていない。
……ほこらでは瞳が赤く光っただけだ。
たまたま光の加減でそう見えただけかもしれないし……いや、だが、結婚前にも赤い瞳のアリアを見たし……、でもアリア好きだし……などとプックルの頭はアリアでいっぱいである。
「ありがとう、プックル、もう充分だよ」
「……がう」
アベルの手が止めに入り、プックルは土を掘るのを止めた。
プックルの背後には土の山が出来ている。
「……よし。これでサラボナに戻ればアリアの声が戻る……! アリアー! ほら、手に入れたよー!!」
宝箱を手にアベルがキャビンに向けて手を振ると、アリアが笑顔で手を振り返していた。
「がう……(アリア……かわいいヤツ……)」
――やっぱりケアしてもらお……。
笑顔のアリアを眺めるプックルの前足は真っ黒に汚れている。爪も削れて歪になってしまった。
きっとアリアはすぐに気付き、手入れしてくれることだろう。
……僅かな恐怖心は残るものの、プックルはアリアに視線を投げる。
アリアは“プックル~”と口パクで笑顔を見せてくれた。
◇
“【ルーラ】!!”
宝箱を手に入れたアベルは、移動呪文でサラボナへとひた戻る。
「……さ、アリア。歩ける……?」
「……(なんとか……)」
昨夜のダメージは回復したが気怠さは残っており、アベルに馬車から降ろしてもらったアリアは腰を撫でながら歩き出した。
――膝と腰が痛いや……、って、あれ? 歩くの久しぶりじゃない……?
最近ずっとキャビンにいたからこうして外を歩くのは久しぶりな気がする。
……アリアはサラボナの町を見渡した。
サラボナに戻って来るのは実に十日振りだ。
森の中を旅していたが、アリアはほぼほぼキャビンで過ごし、戦闘に一度も参加しなかった。
毎日夕方近くまで体調が優れず横になっていたから仕方ないのだが、夕方回復しても夜にアベルに体力を削られ、気が付けば次の日の朝――である。
アベルは約束を守ってくれる日もあったが、守らない日も多く、死に掛けた回数は多い。
とはいえ本気で断れないアリアは、自業自得なのでアベルを責めることはなかった。
「おお! お帰り! どうやら無事に帰ってきたようだな。さえずりのみつは手に入れ……、ん……? ご先祖様の手紙……?」
ルドマンの屋敷に無事到着し、ルドネスの手紙をルドマンに渡すと、彼はふむふむ――。一読した後で口を開いた。
「なるほど、子孫の私なら開けられるのだな。ではさっそく開けるとしよう」
ルドマンの目の前に手に入れた宝箱を置き、彼が触れる。
一応、事前にアベルもアリアも開けられないか試したのだが、手紙の通り開かなかった。
恐らく血縁者でなければ開かない仕掛けが施されている。
ルドネスの子孫のルドマンならきっと――。
無事宝箱をゲット。さあ、ルドマンよ、開けとくれ!
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!