ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

別れは悲しいだけじゃない。

では、本編どぞー。



第六百六十九話 しばしの別れ

 

 カチャ。

 

 

 ルドマンが宝箱に触れるとあっさり。宝箱のロックが解除された。

 

 

「おお! なんと。開いたぞ……! そうか、子孫ならば開く仕掛けか……。……よかった、私の代で開かなければ永遠に開かなかったであろうな……」

 

 

 そう告げるルドマンの顔はほっとしたように穏やかである。

 

 

「「?」」

 

 

 ルドマンの言葉にアベルとアリアは意味がわからぬまま、開いた宝箱を見下ろした。

 

 そこには黄金色に輝く鳥が蓋に飾り付けられた琥珀色の小瓶が入っている。

 小瓶の中には液体――それが恐らく【さえずりのみつ】だろう。

 

 

「これで君の声が戻るのか……」

 

 

 アベルは【さえずりのみつ】を手にして、小瓶の中で揺らぐ液体を眺める。

 

 

 蓋についている黄金の小鳥は……カナリアを模しているのだろうか。金でできているのかと思ったが、そうではないらしい。金にしてはずいぶんと軽い、恐らくメッキだろう。

 盗賊もそれを見破り、価値を見極め置いて行ったのかもしれない。

 

 ……結局十日間の間にアリアの声が戻ることはなかった。

 

 ルドマンから【さえずりのみつ】を探すことを勧められ、探して正解だったわけだ。

 成り行きでなった親子関係でも、ルドマンがアリアを大事に想っていることがわかる。

 

 色んな偶然が重なりこのアイテムを手に入れられた。

 アリアの鈴を転がすような声がこれで戻る――、アベルは蓋を外してアリアに差し出す。

 

 

「さあ、アリア飲んで」

 

「……」

 

 

 蓋を開けた小瓶からは蜂蜜に似た甘い香りが漂った。

 

 

 ――【さえずりのみつ】か……、大昔のものだから……お腹壊したりしないかな……。

 

 

 まあゲームだし、いけるっしょ……?

 

 

 アリアは差し出された【さえずりのみつ】を受け取り一気に飲み干す。

 とろりとした粘度を持つ【さえずりのみつ】はアリアの喉を伝うと、蜜が触れた箇所が熱くなった。

 食道や胃までも熱くなっていく気がする。

 

 

「っ…………(のどが熱い……)」

 

「……ど、どうかな……?」

 

 

 アリアが首の喉辺りを撫で、アベルは空になった小瓶を手に様子を窺った。ルドマンも両手拳を握りながら固唾を呑む。

 

 

「……、…………、……ぁ、あー……。ああっ、声が出る……!! アベルっ! 声が出るよっ……!」

 

「っ、アリアっ!! よかった……!!」

 

「アベルぅっ!!」

 

 

 ガバッ、とアベルは喜びにアリアを抱きしめる。

 アリアもそれに応えてアベルの背に手を回した。

 

 

「っ……よかったなぁ……! あの後日記を読み込んだら書いてあったのだが、さえずりのみつは一度飲めば一生効果が続くらしいのだ。これでもう声を失うことはないだろう」

 

 

 ルドマンはアリアの声が戻ったことに涙しながら笑顔を見せる。

 

 

「そうなんですか!? ならもう遠慮しなくてもいいってことですね! よかった~! よかったね、アリア♡ 今夜も……」

 

「ア、アベル……、そんなこと今言わなくても……」

 

 

 アベルが嬉しさのあまりアリアの頬に口付けながら囁くのだが、目の前にはルドマンがいるのだ――。

 

 

「……今夜()……? ()って……、アベル……君は声の出せない妻を……? ……よく見ればアリア、疲れた顔をして……。アリア、いまさらだが彼でいいのかな……?」

 

「……あ、……あははは……。はい、もちろん」

 

 

 ルドマンの目に映るアリアは気怠げである。

 ……結婚式の次の日と同じ様子だと気付いたルドマンは、アリアに哀れみの目を向けていた。

 

 アリアの答えにアベルの目が細くなる。

 

 

「……ふむ。アリアはアベルがそれほど好きということか。アリアの身体が心配だが、二人が幸せなら私は何も言わんよ」

 

 

 ルドマンは一瞬眉を顰めたが、アベルは娘が選び、自らも気に入った男――ここは親として見守ることにした。

 

 

「あ、そういえばルドマ……お義父さん、ほこらのツボのことなんですけど……」

 

「おお、そうだった。どうだったかね?」

 

「青く光ってました」

 

「そうかツボの色は青かったか。うむ、ひと安心だ」

 

 

 アベルがほこらのツボについて報告をすると、ルドマンは深く頷き微笑む。

 

 

「安心……?」

 

 

 ルドマンの様子にアベルは首を傾げる。

 なにせあのほこらに関しての記憶が、まったく降りて来ていないのだ。

 

 いったいあそこになにがあるというのか……。

 

 

「あ、いやいや、なんでもない。……すぐに旅立つのかな?」

 

「あ、はい」

 

 

 あのほこらにいったい何があるのか……アベルにはわからないが、ルドマンもすぐにいつもの気の良い笑顔に戻ったので、今は気にしないことにした。

 

 

「そうか……気を付けてな。ポートセルミには連絡をしてある。船は自由に使っていいからな。船長たちによろしく伝えてくれ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 ポートセルミにはルドマンの船が置いてある。

 アベルたちだけでは操縦できないため、船員たちがついてくれるらしい。

 

 

「お父さまありがとうございます」

 

「アリア、半年後を楽しみにしておるよ。母さんとフローラにも一言掛けてから行ってくれると嬉しい。元気でな」

 

「はい、お父さまもお元気で」

 

 

 ルドマンはアリアを抱きしめると目尻に涙を湛えた。

 

 

 ……ルドマンの屋敷でアリアが過ごしたのは、アベルがヴェールを取りに行った日のたった一日だけ――。

 

 ルドマン、ルドマン夫人、フローラ、アリアの四人でした晩餐が家族水入らずの最初で最後だったわけだが、これからはそこに新たな家族……アベルと、いつかはまだ見ぬ孫の姿も加わるのだろう。

 

 今日の別れは永遠の別れではない。

 半年後には里帰りでアリアも顔を見せてくれるだろうし、アベルの口振りでは孫ができるのも早そうだ。

 

 血塗れの子だったアリアがまた危険な旅へと向かう……。

 

 ルドマンの心は穏やかではなかったが、アリアは好いた男と離れるよりは良いらしい。

 ならば見送るしかないではないか。

 

 旅は危険を伴うが、代わりに幾つもの幸福を呼ぶこともある。

 

 

(アリア……元気で頑張るのだよ。)

 

 

 ……ルドマンは、二人が夫人やフローラの元へ挨拶に向かう様子を眺めながら、娘の新たな旅立ちに何か旅のサポートでもできないかと考え、部屋を出て行く若い夫婦を見送った。

 

 

 

 

 夫人にもフローラにも挨拶を済ませ、アベルとアリアはルドマンの屋敷を後にする。

 

 ……日はまだ高い。

 これなら海上を少しは進むことができるだろう。

 

 ルドマンが使っていいと言った船は恐らくアベルとアリアが乗った連絡船のはず――。

 あの船ならば、【せいすい】さえ撒いておけば、大海であっても安心して夜明かしができる。

 

 

「アリア、行こう。ポートセルミへ……!」

 

「うん……!」

 

 

 二人は手を繋ぎ、アベルの【ルーラ】でポートセルミへ。

 

 

 

 

「ひゃぁっ……!」

 

 

 

 

 身体が宙に舞い上がると、アリアの小さな悲鳴が聞こえ、アベルの顔は綻んだのだった。

 




さあ、次回からようやっと船旅が始まる……?

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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!
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