アライケマセンワって、何がいけないのよ。
では、本編どぞ。
◇
男の家は目と鼻の先で、一度訪れたことのある家だった。
確か――彼はサンタローズの出身だったはず。初めてこの家を訪れたアベルへ、教会の近くにいいものがあるからと教えてくれた男だ。
「アリア……」
……アベルは男が淹れてくれたお茶を手に、ベッドに寝かせたアリアを見下ろす。
家に運び込み、意識のないアリアになんとか水を飲ませて寝かせ、少しして完全に日が暮れてしまった。
窓の外はすでに闇の時間だ。
男の家から遠見でドック前に見張りが立っているのが見えたから、今夜の出発は難しいかもしれない。
アリアは特に熱などはなく、すやすやと穏やかな顔で眠っている。急に倒れた彼女に動揺していたアベルも、今は落ち着きを取り戻していた。
「……ん……」
「っ、アリア……!」
アリアの眉が顰められて、アベルはすぐに声を掛ける。
「……ぁ……アベル……?」
「アリア! 大丈夫かい!?」
「うん……平気……。もう大丈夫……、ごめんね……」
「ううん、いいんだ。けど……どうして急に腹痛なんて……? なにか盗み食いでもしたのかい?」
意識を取り戻したアリアが半身を起こそうとするので、アベルは支えてやり、起こしてやると彼女の頭を撫でた。
「盗み食いって……、なにもしてないよぅ……。今日はまだアベルと同じものしか食べてないもん……」
「ハハッ、
「ちょっ!? 私そんな大食らいじゃないしっ……!」
アベルの指摘にアリアはぷぅっと頬を膨らませる。
そんな彼女の様子にアベルの口角は上がり、目を細めた。
「はははっ、元気になったみたいでよかったよ……」
「んもうっ、人のこと食いしん坊みたいに言って~……アベルの方がいつも食べる量多いんだからねっ……!」
「っ、よかったっっ!!」
アリアが口を尖らせるとアベルはやにわに、ガバッ。
彼女を抱きしめる。
「アベルっ!?」
「……お願いアリア。これからは君の身体に起こってること、逐一教えて……。急に倒れられると心臓に悪いから……」
「ぁ……心配掛けてごめんなさい……」
アリアの謝罪の言葉にアベルは腕を解いて彼女を見つめた。
「急に腹痛に襲われた原因に、なにか思い当たることある?」
「え……あ……、さっきから考えてたんだけど、実は一つだけあったり……」
「えっ、ホント!?」
「もしかしたらなんだけど……」
「うん」
手を組み考え込むアリアにアベルは耳を傾け、言葉の続きを待った。
「……さえずりのみつ……、古すぎたんじゃないかと……」
「え」
アリアの言い分にアベルの目が点になる。
……アリアの話によれば、【さえずりのみつ】は大昔のアイテム。
大昔――そう、数百年も前なのだ。
そんな年代ものを口にすれば、腹を下しても不思議ではない。
飲む際にお腹を壊すのではと思ったが、背に腹は代えられず飲んだらしい。
そして見事に
「……もう二度と古いものは口にしたくないなぁ」
ゲームの中で食中りするなんて、私くらいのものね――なんて、アリアはトイレに行った時の痛みを思うとゲンナリする。
トイレでは全く信じていない神様に何度も祈ったのだ。
“ああぁ~~、神さま神さま、この腹痛を止めてぇええ~~!! おねがいぃぃ~~!!”
前世でもたまに祈ったが、神さまは意地悪で派手な音ばかり鳴らして恥をかかせてくる。
そして神は、大抵これでもかというくらいの破裂音を満足いくまで演奏してから、何事もなかったかのように腹痛を取り去って行くのだ。
そんな神は意地悪だが、アベルには耳を塞いでおいてと言っておいた。
だから、きっと大丈夫なはず。
あんな音を聞かれたらと思うと羞恥で死ねる。
――ア、アベルは私の言うことは聞いてくれるはずだからダイジョウブ……なハズ。
アリアは目の前で心配そうに自分を見つめるアベルをじっと見つめ返した。
……アベルの表情は先ほど同じ。心配そうに眉を下げている。
大丈夫そうだ……(?)。
「そっか、それは辛かったね……、ごめんアリア……」
「あっ、ちょっ、もぉ平気だってば……!」
まさか【さえずりのみつ】のせいだとは……、アベルがアリアの腹を優しく撫でると、彼女は恥ずかしそうに頬を赤く染めた。
「……ところでアベル。ここはどこなの……? 宿屋じゃないみたいだけど……」
「ああ、うん。そこの人が助けてくれて……その人の家だよ。隣のベッドに寝ている奥さんもさっきまで起きてたんだけど眠っちゃったよ」
部屋を見回すと隣のベッドに女性が眠っており、足元側にあるテーブルではをしている船乗りの男の姿がある。
もしや、彼のベッドを占領してしまったのでは? そう思ったアリアはベッドから出ることにした。
「そうなんだ……。ひと晩ベッドを占領するわけにはいかないわ。もうすっかり良くなったし、お礼を言ってお
「そうだね。僕が言ってくるからアリアはゆっくり準備してて」
「あ、うん、ありがとう」
アベルはうたた寝をする男の元へ向かい、アリアはベッドから出て身支度を整える。
“さあ鞄も持ったし、忘れ物は無いかな?”と、ベッド周りを確認していると不意に隣の夫人が寝返りを打ち、その彼女の目が開いていた。
「あ、あの、助けていただきありがとうございました」
夫人が起きているものと思いアリアは声を掛けたのだが、返って来た言葉は――
「あらいけませんわ。主人が帰ってきますわ。むにゃむにゃ……」
“アライケマセンワ、シュジンガカエッテキマスワ”
「っ!?(なんですと!?)」
夫人の言葉に驚いたアリアの肩がビクリと揺れ動く。
……どうやら夫人は目を開けたまま眠っているようだ。器用な人である。
爆弾投下のような寝言を呟くと彼女は“ぐうぐう”、今度はいびきを掻きだした。
「……はは」
夫人の声が聞こえたのだろうか。アベルの声ではない乾いた笑い声がベッドの足元側、テーブルの方で聞こえる。
家主である船乗りの男は、アベルが話し掛ける前にうたた寝から目覚めていたらしい。
「オレは船乗りだからよ、いったん航海に出るとなかなか帰れないんだ。けどうちのやつは文句ひとつ言わねえ。オレにはすぎた女房だよ」
「……そ、そうですか……」
アベルも夫人の寝言が聞こえていたらしく、目を見開いたまま不自然に口角を上げた。
――なんて言葉を掛けたらいいんだ……!?
彼に掛ける言葉が見つからない。
アベルは無難に愛想笑いを浮かべておく。
「……いい女房だろ?」
「……っ、えっと……、ありがとうございました」
「ぁ、ありがとうございました……」
男が眠る夫人に淋し気な瞳を向けて言うので、アベルは早々に退散しようと頭を下げた。
アリアもすぐにアベルの傍にやって来て、紫のマントを掴み頭を下げる。
……お礼を言い終えた二人は、手を繋いでそそくさと扉に向かった。
「……ハハッ、二人とも元気でやんなよ」
口は笑っていたが、目は死んだ魚のようだ。
男が小さく手を振り振り、頭を何度も下げながら去って行くアベルとアリアを見送った。
ゲームプレイ時にびっくりした、この奥さんの発言。
あんた旦那居ない時になにしてんの!?っていう……。
びっくりですよね!
まぁ、どっちとも取れる台詞ですけどね~。
こういうセリフを全年齢ゲームに入れちゃうセンス、最高に好きです。
書きたいシーンを書くために物語をつらつら綴っているわけですが、今回は絶対書きたいと思ったシーンの一つでしたw
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!