ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

夜にデートをしましょう。

では、本編どぞー。



第六百七十三話 夜のデート

 

 

 

 男の家を出ると、外は真っ暗闇である。

 やはり、今夜の出航は止めた方がいいかもしれない。

 

 

「あの人……目が死んでたけど大丈夫かな……」

 

 

 ――全年齢のゲームなのに、あんなセリフあっていいの……!?

 

 

 アリアがたった今出てきたばかりの男の家を振り返り、ぽつり。

 そんな彼女にアベルは一考してから口を開いた。

 

 

「アリア、さっきのってさ……」

 

「……っ、うーん……、私に聞かないで……」

 

 

 アベルに問われてアリアはなんと答えたらいいかわからない。

 

 そもそもよその家庭のことである。

 男は可哀想だが赤の他人の自分達には関係ない。気にしないでおくのが一番だ。

 

 

「…………アリア、浮気はダメだよ?」

 

 

 アベルは握った手に力を込め、アリアを見下ろす。

 

 

「ええっ!? 浮気なんてしないよ!? ていうか、いつも一緒にいるのにできるわけなくない?」

 

「……そうだけど。もし僕が不在の時、君が浮気したらと思うと……」

 

「いやいやいや……だから、私、浮気はしないって。浮気する人はするけど、しない人はしないのよ? これまで浮気したことないでしょ?」

 

「……」

 

 

 急な問い掛けにアリアは反論するが、アベルは黙り込んで眉を寄せた。

 

 

「えぇっ!? なにその目っ!? してないよ!?」

 

「アリアは誰にでも愛想がいいから……」

 

「そんなことないよっ!? 私はアベルだけだよ!?」

 

 

 アリアの愛想がいいのは性分だからしょうがない。

 彼女が浮気しないのもわかっている。

 

 だが、本人は相手にしていないようだが、寄って来る男が多いのも事実。

 

 ……アベルはそれが面白くないのだ。

 

 

「……そう? ならよかった。……アリアが浮気したら大変なことになるから、気を付けてよね」

 

「ん? 大変なこと……?」

 

「うん……、相手が消えちゃうからね……。僕の手も汚れてしまうし……」

 

「っ……!?(アベルっ!?)」

 

 

 フフフ……と、アベルの口元が僅かに弧を描くが、目は据わっている。

 

 

 ――アベル怖っ! 目が笑ってないんですけど……!?

 

 

 仄暗い笑顔にアリアの肩がぶるりと震えた。

 

 

「……ハハッ! 冗談だよ♡ アリアが浮気したら僕はたぶん絶望してキャビンに引きこもってしまうと思う」

 

「っ……だからしないってば……アベルこそ、しちゃダメだからねっ!」

 

「僕がするわけないでしょ?」

 

「……」

 

 

 さっきと打って変わり、今度はアリアの目が据わっている。

 

 

「な、なに、その目……?」

 

「ふぅん? そぉなんだぁ~? でもまあ、私はアベルのことは信じてるから」

 

「う、うん」

 

 

 ――なに? なんかアリアの目が怖いんですけど……!?

 

 

 アベルの喉を唾がゴクリと音を立てて流れていった。

 

 

 ……二人は男の家から離れ、歩き出す。

 

 

「アベル」

 

 

 しばらく歩くと、ふとアリアは足を止めた。

 

 

「ん?」

 

「暗いね」

 

「うん、夜だからね。今夜は宿屋で休んで明日……」

 

 

 町中には街灯が灯っており、町の外とは違って暗い夜も安心して歩ける。

 

 町から一歩でも出れば魔物が跋扈(ばっこ)する世界だ。

 

 航海中ならまだしも、暗闇の中、わざわざ新たな旅の出発をする必要はない。

 ドックも閉まっていたようだし、今夜は無理に出航せず明日から旅立った方がいいだろう。

 

 アベルが説明しようとするとアリアは微笑む。

 

 

「ふふっ、夜のデートしてるみたい! ね、アベル。海を見に行ってもいい?」

 

「えっ、デート!? いいね……! そういえば馬車は酒場の前に置いてあるし、久しぶりに二人きりだ!」

 

「うふふ♡」

 

「よっし! じゃあ行こう!!」

 

 

 二人は埠頭に赴き、海を眺めることにした。

 

 

 ……埠頭に着くと二人は並んで腰を下ろし、広がる景色を眺める。

 海は暗いが空を見上げれば、星はいつでも綺麗だ。

 

 潮風に吹かれながら、しばらく空を見上げていたアリアだったが、海に目を転じる。

 

 

「は~……海は真っ暗ね……!」

 

 

 夜の海はここから見た限り不気味なほどに穏やかだが、海上がずっと穏やかであるわけがない。

 

 この先には多くの魔物達がいて、時に嵐に遭うことだってあるだろう。

 

 それでもゲームの主人公と結婚してしまったのだ。

 これからは戦いの連続だと、アリアはもう腹を括っている。

 

 

「そうだね、明日からこの海を行くんだ」

 

 

 ――船旅の間、アリアには船室でのんびりしててもらお……。

 

 

 アリアが戦いを覚悟する中、アベルは彼女を戦闘に出そうとは考えていなかった。

 

 アリアの担当は目下、自分を癒すことである。

 戦闘終了後の回復呪文がお願いできればそれでいいのだ。

 

 

「……うん。砂漠のお城だっけ」

 

「ああ、けどその前に寄りたいところもあるんだけどね」

 

「寄りたいところ?」

 

「うん、カジノ船に寄りたいなって思ってさ」

 

「おお~、カジノ船かぁ~。当たるといいね♡」

 

「あ、ちょっとだけだから付き合ってくれる?」

 

「うん、もちろん!」

 

 

 アベルは砂漠の城の前にカジノ船に寄るつもりらしい。

 

 アリアはアベルのコイン枚数を大体知っていたが、確かかなりの枚数を持っていたはず。修道院生活中もたまにオラクルベリーに通っていたようだし、なにか欲しいものでもあるのだろうか。

 よくわからないが、アベルは馬鹿みたいにカジノに金を注ぎ込むような真似はしないし、ただ単にカジノが好きなんだろうと結論付けていた。

 

 長い旅路だ、たまには遊ぶのもよきよき――と。アリアはアベルが楽しいならそれで良いのである。

 

 

 ……それから二人はしばらく何を話すでもなく海を眺めていたが、夜の海風は冷たく、次第にアリアの鼻がムズムズしてきた。

 

 

「……ふぁ…………は、は……、はっくしょんっ!」

 

 

 ブシュッ!

 

 

 盛大なくしゃみとともに、彼女は鼻水を垂らす。

 

 

「……プッ。アリア鼻水出てるよ」

 

「うぅ……、ちょっと冷えたみたい……(ハンカチハンカチ……)」

 

 

 アベルは吹き出し【ふくろ】の中を探る。

 そして中から今使うのに最も相応しいアイテムを取り出し、自らも鞄を探るアリアに差し出した。

 

 

「これ使って」

 

「ありがと……って、あれ? これポケットティッシュ……?」

 

「あ、うん。ポケットティッシュ……」

 

 

 ――ポケットティッシュっていうのか……。

 

 

 アベルが差し出したアイテムは、幼きアリアの鞄に入っていた透明な紙に包まれ、規則正しく折り畳まれた薄く白い紙の束……。

 鼻をかむのに丁度良さそうだと思い出し、出してみたが、アリアは憶えているのだろうか。

 

 いつもならハンカチを差し出し拭き取ってやるところだが、何となくマザーから託されたアリアの昔の持ち物を差し出していた。

 

 

「……この世界にもポケットティッシュがあるのね……」

 

 

 ちーんっ! とアリアはアベルの前だが遠慮なく鼻をかむ。

 ずっと一緒に過ごしているからか、鼻をかむのは見慣れている。

 

 彼女のこんな飾らないところもアベルは大好きなのだ。

 

 

「……うん」

 

 

 アリアに詳しく説明してやらないまま、アベルは目を細める。

 彼女は“ポケットティッシュ”という名称は憶えているようだが、それが自分のものだったということは憶えていないらしい。

 

 無理もない。

 十年以上も前のことだから、忘れていても不思議ではないだろう。

 

 

「アリア、そろそろ宿屋に行こうよ。風邪引くよ?」

 

「うん、そうだね」

 

 

 二人は立ち上がって宿屋に向けて歩き出した。

 

 

「誰も歩いてないね」

 

 

 ……道すがら、アリアが呟く。

 

 

「真夜中だからね」

 

「ねえアベル……、ちゅーしない?」

 

 

 アリアはアベルをじっと見つめた。

 身長差で常に自然と上目遣いになってしまう、彼女の瞳には今、アベルしか映していない。

 

 

「あ……、こ、ここで? 道の真ん中だよ?」

 

 

 ――アリアってときどき大胆になるんだよね……。

 

 

 愛妻にキスをしろとせがまれ断る理由はないが、夜道とはいえ、人の往来がないわけではない。今は誰もいないだけで、いつ誰が通り掛かるか……。

 

 

「でも暗いから見えないよ? だからちゅーしよ?」

 

「……」

 

 

 ――ああ、断れるわけないじゃないか……このおねだり上手め……。

 

 

 小さく口を窄めて目を閉じるアリアに、アベルは自らの影の中に彼女を覆い隠す。

 

 一頻り口付けを交わした後で、彼女は――。

 

 

『あ、月が見てたね。ふふふ♡』

 

 

 なんて……細い月を見上げ、濡れた唇を細い指先でそっと拭ってはにかんだ。

 

 

 

 

 ……その晩も、アリアはアベルからしつこく攻撃され、瀕死となるのだった。

 

 

 




アベルは毎晩……以下略。

※次回から船旅が始まりますが、お話のストックが減って来たためしばらくお休みして書き溜めしたいと思います。

ある程度溜まったら投稿を再開したいと思っておりますので、またお会いできるとうれしく思います。

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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!
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